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もう一人


見事に道化を演じた俺たちはこれまたわかりやすく右往左往しそして案の定ジェシカさんが耳打ちするまでもなく、俺にも完全に相手が捕捉できた。


いや、実際俺があんな風にグロッキーになっている間に始末すればよかったものを、なぜかあの暗殺者の連れは躊躇しているらしい、暗殺教団の薫陶かなにかが原因か、理由かそれは知らないが俺にとって都合がよかったとことは確かだ。

だがそれがいつまでもいつまでもついてくるものだから流石に気味が悪い、だが一定の距離を保って攻撃をしてこないあたり相手がどんな役割で、どうして今までついて来ていたのか少し想像がついた。

「グランデ、少し待っていてくれないか?」

「ええ、いいですけど…流石に此処で私一人は危険すぎません?」

「いや、そんな遠くには行かないよちょっとそこらの人に宿を聞くだけさ」

此処で二手に分かれ、俺はこの少女のロールの一環として、ただ興味が湧いたという理由で細い路地に入ってしまう。そうなれば流石に単独で、しかもおそらくそこまで強くなくとも、不意を打てば勝てると錯覚してもらえるだろう?

ヒヤリとした感触が首筋に当たる。

いつのまにか背後から当たるはずの光は遮断され黒ずくめにふさわしいハイドキャットの革でできた隠密服が見えた。

「動くな」

「…おねぇさん、だあれ?」

声は女、抱きすくめられるような形にはなっていないがほぼ囲われている。短刀はダーク、だが研ぎや使い込みの甘い感じがする。そして何よりも…あのミンチさんからはしたどうとも表現できない、俺の肉体強化と魔力循環による肉体強化の相乗効果でようやくわかる程度の死臭、それが全くないのだ。

いや、むしろ甘い香りさえする。

まぁそうだろう。

「…死ね」

まっすぐに俺のみぞおちから心臓を穿つような振り方、訓練された殺し、だが残念…

「なっ!?」

「お嬢さん、いいことを教えてやろう。」

魔力障壁によって食い止められるどころか調律によって起動した俺の右手でダークを削り飛ばされた彼女の声が引き攣る。



なんだこいつは…いやっ!なんなんだコレは!?

「おいおいこわがるなよ、傷付いちゃうなぁ」

「う!うるさい!死ねぇ!」

お師匠の様に土魔法は使えない、だがこの体を使って彼をサポートすることはできた。情報は殺しの肝だ。生きた情報はどこにでもあるというわけではないし、師匠は既に闇の中でもがく私とは別の存在、だけどもがくだけの私でも出来ることはあった。

「無駄無駄無駄…」

奴の右腕が振るわれるたびに投げたダークは砕け、チリと化す。ほんの少しだけ下がればもう人通りもある大通りにほど近い筈の路地、ダメだった。師匠を打ち合っていたあの女を殺すのは不可能だと思って運良く師匠を殺したこいつなら、こいつだけになったら殺せると思って、こんなことならば師匠に言われた通り、教団に情報を渡してからやるべきだった。

カッとしてしまっていた。冷静さを失ってしまった。まさか師匠が、矢避けの加護を受け、およそ常人には追いつけない速度と暗殺の技で教団の幹部にまでなった彼が、こんな子供に殺されるなど、まぐれ以外ありえない、そう思ったのが運の尽きだ。

「うう!」

煙幕を投げ後ろへ走ろうとするが固い物に当たる。コレは…かべ!?

「…グラジオラス様、もう少し考えて作戦を立ててください、流石にこんな路地の手前では目立ってしまいます。」

「てへっ?」

あの女だ!あの師匠と同じ事をしてみせた怪物!だがいや、まて、この場で最も恐ろしいのはアレだ。

子供に化けた悪魔なのか、手に光るそれが魔石だと言うならば魔物だろうか?あの透明な壁も、異常な身体能力もそれも全て全て…

「アハ…」

我ら暗殺教団の真の使命は闇にあって闇を殺すこと、罪のない廃嫡されようとする幼子を殺せと聞いた時には教団も落ちたものだと思ったが…安心した。アレは…コレは…

「人の皮を被った。化け物じゃないか!」

「あら酷い、何個も死体を積み上げて来た暗殺者さんがことここに来てそのセリフを吐いちゃう?」

子供の形をしたそれは悲しげに見える表情を作り、悲しげな声音を出す。

やめろ、やめろ悪魔め!私を騙そうっていうんだろ!?

「お前が!お前が師匠をあんな風に!アレが、アレのどこが!あんな殺し方のどこが人間だというんだ!」

「っ!」

今度こそ奴の口が止まった。そして苦しげな表情を作る。後悔、懺悔そんなものが悪魔にあるとは思えないが…いや、コレも奴の手なのだろう。

女が腰の剣ではなく石畳から剣を生み出す。ああ、殺すのか、私を、この心折れた残骸を殺そうというのか…師匠は言っていた。優れた術者であろうと術式魔法を使えば数瞬間の空白が生まれる。そう言っていた。だから私はまるで跳ねる様に起き上がった。この手に炸裂弾を持ち、師匠と同じ様に、運が良ければ師匠と同じ様に殺してもらえるかもしれない、そうすれば…そうすれば…死んだ私ならば、彼は受け入れてくれるかもしれない。口の奥に仕込んだ毒を噛み砕こうとしながら紐を引く。

目の前が真っ白になり、何か凄い勢いで吹き飛ばされる様な気持ちだ。

ああ…きっと悪魔が私を師匠の様に…



気を失った女性の口に手を突っ込みちょっと強引だが歯をへし折って毒薬を取り出す。

女性は女性の形のままだし、胸も規則的に上下している。

「はぁ…良かった。」

「ええ…そうですね」

爆発は障壁で受け、ちょっと強引だが爆炎の中から顎を撫でる様に撃たせてもらった。一瞬で視界が真っ白から真っ黒に落ちるのは怖いだろうが、命には変えられないだろう。

マスクと装備のおかげか火傷はない、というかほぼ俺の障壁で包む様にぶん殴ったので服の前側が吹っ飛んで峰不二子ばりの巨峰が大事なとこだけ隠れて放り出されている。

…で、だ。

いや、うん…


「どうしよう」

「ええ、どうしましょうか?」

お金はあったがこの女の人どうしよう…

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