幕間:運命に抗うるために
遡ること一ヶ月と少し、俺があの厄災に巻き込まれる前の話だ。
「いいか、俺とお前では種族も体格も筋肉のつき方も動きの癖も、何もかもが違いすぎる。だから教えられるのは掴みだけ、そのあとは自らが実践していく中で見つけていくしかない、酒をもらっといて酷い言い草だが、言われた通りにする程度で身につくとは思うなよ?」
「俺の斧術も、同じだ。そもそも、斧は重ければ重いほど強い、単純な体格で劣るお前さんには、ちとにが重いだろうが…酒の恩もある。ピーターの体術よりはマシに仕上げてやろう。」
「よろしくお願いします!」
彼らが小屋に来た初日、2人は今までよりも本格的に俺を鍛えてくれると明言してくれた。なんだかんだ言って、今までは邸にいた関係で武術をさらに言えば奴隷が奴隷同然な仕事をしている一応貴族の次男である俺に何かを教えるのは非常に難しかった。
だがここならば周りは森で屋敷からは二、三時間かかる。わざわざコッチを遠眼鏡やらなんやらで見て居るなら話は別だが、俺を殺すんだったら彼らを奴隷紋を使って俺にけしかければほぼ瞬殺だ。
そもそも奴隷、奴隷紋とは必ず結びつくものではない、奴隷とは広義で言えば派遣労働者でありゲンナマで債務を返せない人の最終的な取り立て法の一つで、ちゃんと賃金が発生しそこから仲介人である奴隷商人と借金先に天引きされ手元には少ししか残らないが仕事先が貴族家の下働きだったり、仲介人である奴隷商人の用意する雑魚寝小屋と呼ばれる場所があり、そこで移住食を保証されるため真面目に働けば大抵の場合二十年だか三十年だかやってれば解放される。
だが、奴隷紋を持つ奴隷は違う。
奴隷紋は王家の所有する秘宝級、アーティファクトであり古代遺跡から取り出された神秘の遺物、によって産み出されている。正確に言えば奴隷紋を刻むための契約書の様な物なのだが…これは国家予算級の莫大な借金を持つ者、犯罪者、そして自らの全てを売りに出した者など限られた人物にしか刻まれない、この例で言えばピーターさんは娘さんの重篤な病を治すための特効薬、それを買う費用と仕送りのために自分の身柄を売りに出し、その後剣闘士として活躍し現在は戦闘力と労働力として契約を変更してはいるが今は刻まれた奴隷紋を取る為、つまりもう一度自分を買い直すために働いている。
なんでも『帰ってきた父親が奴隷など、娘が可哀想だろう?』とか…凄いっすねぇ…
また、デイダラさんは元上級冒険者であり、それまで組んでいたメンバーに裏切られ堕とされたのだが、その際に色々と好き放題されたらしく上級冒険者というのがいかに金を稼ぎ金を使うのかよくわかった。その際にほとんど全ての装備を売ったらしいが、通常奴隷まであと一押しのとこで一番値が付きそうだった斧が呪いのものだったらしく。デイダラさんから引き離す事は出来ても別の人物が持てば即死するというおっそろしい物だったため、売れず。斧の価値が小さな屋敷が立つほどだったためにギリギリ国家予算級の借金を負うこととなり、仕方なく奴隷契約を結ばされた。
まぁ、それでだ。
別に彼らは凶悪犯罪者でもギャンブルで身を崩した放蕩な人達ではないのだ。
そして、彼らはある戦闘のエキスパート、魔獣から対人まで何でもござれなプロフェッショナルであり、肉体的にも精神的にも余裕を持っている。俺からすれば正に達人と言った風体である。
そんな彼らの最初の試練は…
「…87、88、89…」
「とりあえずどっちをやるにしても…」
「自身の体重くらいは軽々支えてもらわんとな!」
という訳で腕立て伏せ、腹筋、背筋100回2セット
「ぐぎぎ…」
「体術を使うならば柔らかくなければいけない、無駄な場所に筋肉が付かぬように、そしてより多彩な動きを繰り出すための柔軟は必須だ。」
股割含めさまざまなストレッチ
「ゼェ…ゼェ…!」
「荷運びやら何やらで筋力はそこそこだが体力もなければやっていけんぞ?」
小屋周りの森の中を1時間持久走
「グッ…」
「支える力は何者にも変えがたい力、姿勢維持力と筋力は別のものだ」
「斧はしっかりと芯がなければ振るえない、動かないものを割るだけなら話は別だがね?」
空気椅子の状態で重りを持ちひたすら耐える
ちなみに俺が危惧していた骨格や筋肉による圧迫、歪みなどは魔力が高ければ関係ないらしい、魔力が高い人は身体にいかに負荷をかけようと纏う魔力で現実を軽く改変し理想の肉体に近づけていく。まぁ、そのせいなのか魔法使いは美形が多く。体も適度に引き締まったように見えるが、多くの場合それは実を伴わない物であり、また魔力が高すぎると筋力などを鍛えるために肉体強化を切る必要があるのだが、属性魔力などは放出する力変換される力が強くかかるため強化を切るのが難しく。鍛え難いらしい…まぁ、俺は無属性なんで?放出する力とか超弱いんで?肉体強化を切ったり調整するくらいなんてことないですけどね?(涙)




