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恐ろしき竜、竜の如き甲殻 肆


正直、俺は心折れていた。

手札を切りきってはいないがこの目の前にいる化け物に俺の全てを投げ打ったとしても、その命を刈り取れるような攻撃になるなどと口が裂けても、いや例え五体が砕けようと言えなかった。

なにせどれもが未完成、未熟、半端、しかし一丁前に反動や犠牲を出すのだ。打ち切って殺せなければ…死ぬのは俺だ。だが俺が死ねば彼らは生き残れるかもしれない、彼ら魔獣を引き寄せるのは大きな魔力、俺という生き餌が死ねばここに彼らが引き寄せられる事は無い…

背を叩かれた。

「いたっ!?」

「グラジオラス…何諦めてんだ?お前」

後ろにいたのはデイダラさんだが…様子が違う。あの間延びした様な安心する声では無い、闘志と気迫あふれる戦士の声だ。何をもってしてそう言っているのかと思うだろうがバリトンボイスが腹の底まで響きよくわからない力が湧き出る様な、そんな威厳ある声だった。竜巻をまとい、俺たちをせせら嗤う怪物を前に一歩、また一歩と歩を進めて行く。あれが元上級冒険者という存在なのだろうか、いや、違うだろう。

彼の喋りに何時もの間がないというのは初めての経験なので彼がどういう状態で、何を思ってそこにいるのかわからないが、一つ確かなことがある。彼は冷静では無い、より端的に言ってしまうなら彼はキレている。恐らく頭に血が上ってどうしようもなく怒り狂っているのだ。

理由は…いやきっとそうだろうというものはあるが、未だに彼がどんな人間なのかなんてよく知らないのだ。推し量ることなど烏滸がましいだろう。


いや、だが待て、彼は勝算があって突っ走っているのか?俺は金縛りにあったかの様に動けない、思考だけが加速した様な錯覚すら覚える。認識上のみのゆっくりとした時間の中で俺はどうやって生き延びるかなんて事を考えていた。

だって、そうだろう?デイダラさんが何をしようと単独であの化け物を倒すには相応の犠牲が必要だ。だがそれでも彼の力があの怪物に届く確率は低いだろう。そして俺が下手に援護などしようと思えばその確率はもっと低くなる。この戦いとも呼べなくなった惨劇を生き残るには、どうすればいいのか、逃げても意味はない、一度死んだのにもう一度などあり得ない、生き残る。生存する。そのためには…

唐突な閃きがあった。あのトンボがいるのはTーREXめいた恐竜が落下し爆散した穴が崩落した場所の近くだ。そして彼処には今魔力が溢れている。

一般に魔力の回復速度は待機中の魔力濃度の濃淡で決まる。これは未だ人類種において目視確認できていない魔力炉が肺などの気管の近くに存在するという説、大気魔力濾過説というが、その決め手となった話で、一部の魔力濃度の高い空間内にいる時魔法の威力は変わらないがその発動回数が通常濃度の場所よりも増えるという実験結果やそのほかにも色々と細々とした魔力の挙動や魔力を見れる特殊な魔眼を持った複数の人間による観測実験などの末に証明されたが、今重要なのは人間は魔力を大気から吸収して補充しているという特性だ。

たしかに魔力炉は魔力を生み出し貯蓄するが、それが無から生まれない限り魔力には限りがある。そして魔力を大きく失えば精神疲労や脳への負荷、全身を保護する魔力の消失、神経系の損傷などが起こり、魔力を完全に使い尽くせば最悪死ぬ様な重大な症状、魔力欠乏症を発症する。

そして俺の切り札がなぜ切れないかといえば使用する魔力が現状の俺の魔力量よりも多いのだ。空気抵抗に耐えうる魔力障壁、神経系の過剰強化、肉体の過剰強化、魔石刃の展開、それらのうち俺の魔力量で発動できるのは二つだけ、もし攻撃力の要である肉体と魔石刃を使えば認識が間に合わず仕留め損ねるかもしれないしそもそも動くことすらままならず魔力切れで死ぬかもしれない、故に詰んでいたのだ。

だが、もし、もしも俺が待機中から急速に魔力を取り込みながらそれらの魔法を発動できれば…10秒は持つかもしれない、そして認識と肉体が強化され、音速で動けるならば…魔石刃が今までのものと同じ様にあらゆるものを切り裂いた様に彼奴の甲殻を切り裂ければ奴を殺すのに5秒といらないだろう。


わかっている。分の悪い賭けだし、そもそも賭け以前に成功するのか、大気の魔力を無理やり集めて俺の身体がどうなるのか、様々ある。だが、ボゥっとしていれば俺も何もかもが殺されるのならば、死にかけてでも足掻く方が生き残れそうだ。

俺は頭悪いからな、正直言って論理的にものを考えたり、実行したりするのは苦手で思ったことを思った時にやってしまいがちな行き当たりばったり野郎なのだ。

デイダラさんが斧で地面を突き土属性の魔力で操作された大地がトンボに襲いかかるが奴はそれを意にも介さず竜巻で削り取る。デイダラさんがそれを待っていたとばかりに走り出すが…ピーター氏の腕を飛ばした時の様な魔力のざわめきが聞こえた。


「覚悟するか」

魔石を片手に足取り軽く崩落跡に近づき魔力障壁に魔力を回し無理やりに分厚く。硬く。強化する。そして神経系の過剰強化を開始、魔力欠乏による吐き気が俺を襲うが構うものか、色が抜け落ち音がなくなり、限りなく加速した認識のみの世界で俺は魔石に魔力を込めてきた様に大気の形を掴む。魔石ならばここから癖を割り出して魔力を注ぐのだが今回は逆だ。無理やり魔力を奪う。

変化は一瞬だった。

動悸が激しくなり、自分の中に自分ではない何かが入ってくる様な異物感が俺を襲う。だがそんな程度で済んでいるのだ。喜んで利用させてもらおう!

肉体を過剰に強化する。認識のみの世界で身体が動く様になる。骨が軋み肉が千切れるような痛みが俺を襲うが、それ以上に肉体の危険を伝える頭痛と魔力を無理やり補充するために発生し続けている異物感、目や鼻や浮き上がった血管からの出血が起こるが構わない、最後の仕上げだ。

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