恐ろしき竜、竜の如き甲殻 弐
デイダラさんの魔力はさっきの土壁5回分、魔力回復を考慮すれば無理して6回だろう。だが防御の心配は今はいい、問題は攻撃法だ。ピーター氏の投槍や投石は脅威なのか避けるのだがジェシカさんの石礫は避けようともしない、そして俺は…
「きついなぁ、どうしようかなぁ!」
「グラジオラス様!急いで!」
わかってるよジェシカさん!だけど魔力の過充填中に話しかけないで頂戴!ぐぬぬ…
現状我々は非常に原始的かつ微妙に近代ちっくな戦闘を強いられている。
要は爆発物をぶん投げて戦闘機を落とそうみたいな、そういう話だ。まぁ、時速100キロを超える高速飛行物体にグレネードをぶつけるなど前世ならゲームキャラしかできないような芸当だしGMによってはクリティカル以前に許可すらしてくれないありえなさだが、生憎とここは異世界、そしてピーター氏は強力な聴覚と第六感、素晴らしい眼を持った肉体的な能力に長けた獣人であり、その能力の全盛期は超えているがそれを補って余りある経験と知識を持った戦士である。
そして彼は弱らせられた状態でかつ魔獣使いと呼ばれる特殊な魔法使いに意識を操作させられた状態だったが、この大怪物を単独で撃破したこともあるそうだ。ま、その時は今より10歳は若く。単純な膂力のみで甲殻を粉砕したらしいのでなんの意味もないといえばそうなのかもしれない、だが、重要なのは硬い事は硬いが砕けないほどではない、という事だ。
奴の何が問題なのかと言えばやはりその運動性能と堅牢な甲殻だろう。隙間にのみ攻撃が通じるとか、そういう話でなければもっと簡単なのだが、今見たところ奴の最高速は時速1000キロを超える音速かそれ以上だ。土のドームを粉砕した後からの衝撃、アレが証拠だ。
だが、そうなればその甲殻は音速に耐えうる強度を持つはずだ。実際はそれに近いが獣人族の膂力で粉砕できる程度、その時の相手が弱っていたのもあるのかもしれないが、少なくとも戦闘機などの外装を覆う金属などよりはマシだろうし、兎の獣人族は脚力こそ強いが腕力はそこまででもない…はずだ。うむ、ピーター氏の腕が特殊かもしれないが、まぁ、その時はその時でなんとかするしかないだろう。
「ぬぅん!」
身体を大きくひねりバキバキと体が変形するかのように筋肉が隆起すると天高くこちらを見下ろすトンボ野郎に向けて投射、風圧で周囲に集まってきたヒトデが吹っ飛んだ。
「不味いな、雑魚共が群れてきた」
デイダラさんが防御役な為魔力に惹かれ寄ってきたヒトデを吹き飛ばしながらボヤく。まぁ、そりゃあそうだろう。今はボヤく暇があるが、お空を飛んでるあの怪物の気分一つで俺たちは一瞬で挽肉だ。
魔力の充填速度を少しでも上げつつ。空を飛ぶ化け物についてもう一度考える。
甲殻に破壊できる見込みができたはいいが、問題がある。俺の腕がバキバキに折れたように音速を超えた時の空気抵抗は生体をたやすく壊す凶器となる。そして装甲でなければ一体何で凌いでいるのか…そう考えていると上空の魔力が蠢きトンボに集約されていく。
アレは…そうか!
「外したか…っ!やっべ全員伏せろ!」
ほぼ同タイミングでピーター氏の叫びとともにジェシカさんが俺を押し倒し、デイダラさんとピーター氏は横っ飛びをし前転を挟んで走り出す。それと同時に先ほどの突進よりは遅い物が、奴の顔のあたりから圧縮された透明のなにかが連続して発射されると、機銃のような音と共に辺りに破壊がまき散らされていく。
家の一部やヒトデ、まだ見ぬ未知の魔物など群れてきた雑魚諸共殺意がばらまかれ、風穴と破裂音が鳴り響く。向かってきた空気の弾がギリギリ目の前を通過した時は走馬灯が見えたが、そんなもの見ている場合ではない!
なぜジェシカさんはこれを…いや、そうか、この世界では魔法は当たり前のものなんだった。ドラゴンが空を飛ぶのは風魔法を使うから、同じ理由で空を縦横無尽に翔るあのトンボも当たり前のように風魔法の使い手であるという事だ。それ故に魔獣、それ故にファンタジー、なんというか察しの悪い自分に涙が出てくるがやるべきことはやらねばならぬ。直ぐに魔石は金平糖のような形の変形し俺はそれを彼に投げ渡す。
ピーターは焦っていた。
(俺の投擲じゃあ前の弱っていた奴の様にはいかないか…)
だが現状は自分の投擲に頼るしかなく。遠距離攻撃という物の重要性を再確認するが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない、せめてこの手に弓があれば話は別なのだが…
「っと!」
空気の破裂する音と地面がえぐれる音、回を重ねるごとに上がっていく精度と威力、そして何より…速度、風魔法は全魔法最速かつ最低の前兆という相手取るには最悪なタイプの魔法使いであり、空を飛ぶ魔獣の多くが持つ厄介な魔力だ。せめて水か火の魔法使いがいればあの虫にひと泡ふかせられるのだが、あいにく自分は風属性しかも魔法として形にできるのは2発がいいところ、グラジオラスが無属性でさえなければもう少し簡単だったのだが…
(いやいや、なにを言っている俺は、あのような用事に頼らざる得ないなどランスロットの家名が泣く。誇り高き戦士であり湖の精霊の加護を受けし者がこの程度で根を上げてたまるものか!)
弱気になっては呑まれる。戦士の死ぬ時は勇敢に戦った時だが犬死するのは臆した時だ。そう自分に喝を入れた。
「ピーターさん!」
その声に反応してを伸ばす。放物線を描いて魔石が投げ渡される。幸いにして今彼奴はこちらに近づいてきている。
(この魔石の威力ならば一撃当てさえすれば地面にたたきおとせる!)
祈るように掴み取ったそれを投げた時、彼は異常に軽くなった自身の体に気がついた。
「ピーター!」
「ピーターさん!?」
幸いにして魔石は奴の口にあたり反射的にかそれを噛み砕いた間抜けは爆裂と共に地に堕ちた。だがなぜだろう。左側が軽い、意…しきが…




