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恐ろしき竜、竜の如き甲殻


それらは魔力では無く恐慌し慌てふためいた獣どもを食べるために現れた捕食者である。恐竜と思しき存在は言わずもがな恐ろしいが、真にヤバいのは…

「蜻蛉か…」

「ええ、通常種と違い魔獣化した物は格段に巨大化しその速さは人類の動体視力を軽く振り切ります」

漫画とかでもそうだが節足動物というのは基本的に外殻の内側は殆ど全てが筋肉であり、その運動性能は巨大化という単純な要素一つで測り知れない脅威となる。前世において種類にもよるがトンボは時速100kmを越える速い昆虫だ。それに加えて空中で獲物を捕らえ捕食するその様は見まごう事無きドラゴンである。

そして速さだけに目が行きがちだが、彼奴の恐ろしさはそこだけではない、複眼による圧倒的な視野角と昆虫故の痛みへの耐性、正直言って最初からクライマックスである。しかもこれで肉体強化などの魔法の補強を考慮していないのだ。


そして恐竜、原初の世界、シダとコケなどの裸子植物と爬虫類という今では考えられないほど矮小になってしまった彼らが覇者であった時代、その時代の象徴が彼らである。

どうやら俺の知る限りの知識で言えば、あれはかの有名なティラノサウルス的なアレだろう。血走った目を見て思い出すのは彼らが慢性的に痛風を患っていたという話、正直言って太陽も何も出ていないし気温も低いのになぜ彼が出てきたのかはかなり謎だが、それだけあのフレイアール邸の魔力の波動は凄まじかったのだろう。いや、もしかすると魔力というとんでもエネルギーを前提に進化してきた彼らだ。魔力を代謝することで恒温生物と同等の体温を発生させられるのかも知れない、だがそうだとすれば…

「不味いな…ディノザオリアだ。しかも魔力に満ち、気が立っている。」

「…ああ、バランスのとれた中級冒険者のパーティーならなんとかなるが…」

ピーター氏とデイダラさんの戦力評価的には弱そうに聞こえるかも知れないがそんな事はない、中級冒険者というのはキチンと連携のとれた仲間と入念な事前準備があって『なんとかなる』程度の世界、つまり元上級冒険者や常に戦いに身を投じてきた最強の剣闘士、百人相当の魔力を持つガキや魔法学園卒業生がいようがそれらが完璧に連携をとれていなければ話にならないのだ。

というかガキと大学出たねーちゃんが凄まじく場違いだなぁ、オイ?

…まぁ、そういうわけで取り巻きに小型のラプトルのような爬虫類数十匹が食い荒らされている間に作戦を考えなければ死ぬだろう。

「ジェシカさん、あいつらの弱点わかる?」

「…一応、生物学魔物学両方を履修しました。図鑑的知識の延長であれば多少はわかります」

とりあえず土壁とデイダラさんの魔力回復で連射できる石礫の弾丸で牽制入れてもらっているが時間がない

「とりあえず言って」

「はい、まずオオヤンマは甲殻の隙間と火属性、また昆虫類であることは確かなので殺虫剤の類を多量にかけるか摂取させれば死にます。ディノザオリアについては…スタミナ切れと水、もしくは上位属性の氷で熱を奪うかですね」


………

「ピーターさん、土壁で跳ねあげられても戦えます?」

「いや、死ぬな、少なくともオオヤンマと空中で戦おうなど自殺行為もいいところだ。」

「俺も無理だぞ?というか、そもそも奴ら相手に単独など何をしようと自殺に違いない」

デスヨネ、うーん、じゃあ仕方がない非常に気がすすまないが…特攻?

いや、いやいやダメだ。あんまりにもやってられないからと言ってジャパニーズ特有のカミカゼスピリットにかられてはいけない、というかどうやって倒せばいいんですかね?コレ?いやはやーコマッタナァ?

「…グラジオラス様、何をするつもりですか?」

「いや?所でこの辺に土魔法空洞開けられない?」

いいか?古来よりこういうのは一点突破火力で押し切るしかないんだよ、とりあえず目の前に二つの障害があったら片方を全力で粉砕してから後を考えればいいんだ。だから俺は…




王者は苛ついていた。自らの周りを飛び回る羽音のうるさい羽虫が自分と同じ思惑でいるのもそうだが、なによりも魔力を纏うことで激しく痛む身体が叫ぶ。肉を喰らえと、逃げ回るだけの魔力の少ない虫けらでは無く。魔力をたっぷりと蓄えたなんとも美味そうな餌が愚かにも向かって来ていると、彼の本能は苛立ちと食欲のままに目の前の愚かな餌どもを食い散らかせと叫んでいた。そして、滾る本能と魔力のままに強化された肉体が思い切り地面を踏みしめ走り出した次の瞬間、彼の視界は白く飛び、そのまま其の脳髄ごと暴力的な魔力の暴走に呑まれたのだった。



「よし、とりあえず片付いたな」

俺は笑みを浮かべる。だがそれと同時にもう二度とこの作戦が取れないのが苦しい、重さにして100キロ近い魔力過充填魔石穴の下に仕込んだのはコレだけだが、逆に言えばコレだけのリソースを一点に注がなければおそらく殺しきれなかったのだ。

「…なんとまぁ、豪快だな」

「うむ、魔力を込めただけの魔石が二、三個ならこうはならなかっただろう。彼奴の恐ろしさは膨大な魔力とそれによる皮膚や筋肉、骨の強固さ、つまりは硬さだ」

そう、金平糖魔石のやばいところは周囲の空間ごと捩じ切るような暴力的な魔力暴走が拡散して発破するところだ。ただの魔石でも出来なくはないだろうが、通常の充填魔石ではこの5倍は必要だっただろう。

…ちなみにあっさりと倒せたように見えるが、コレは場所の問題だ。あの場所は地下室の一部、魔石保管庫の横であり、中の魔石を殆どなんの苦労もなく穴に移せたのもあるし、そもそもこの類の魔獣は森の奥地などの僻地にいる化け物だ。実際もう一度これをやるには100キロ近い魔石とそれを全て過充填する魔力が必要なのだ。正直、割りにあってないだろうし、そんな大量の魔力を一気に爆発させれば誰だろうとコレくらいはできる。それに本来ならあれらの魔獣は高い知性、もとい野生の本能がある。魔力の濃淡など簡単に見抜いてきたはずだ。

だが今回は周囲に魔力が満ちているし、そもそも俺が魔力を障壁として纏っているため魔力を視覚的もしくは嗅覚的に掴める奴らにすれば迷惑もいいところだろう。そういうこともあって、こんだけあっさり行ったのだ。

だが、戦いは終わっていない。

「っ!来るぞ!」

「アースウォール!」

デイダラさんが斧を地面に叩きつけ魔力を流し込み爆発的な勢いで大地を隆起させドームのように形成した。そして突如として其の上部が削り取られ其の後に続いた衝撃波でドームは完全に破壊された。

「…あと、5回だな」

デイダラさんのつぶやきは明確な重みと共に俺たちにのしかかった。

そう、一体になったとは言え残った化け物は文字通りの化け物、最速の昆虫でありドラゴンの名を持つ竜の如きモノ、だが同時に俺は楽観ではなく確固たる意志を持って笑った。

一体殺せたのだ。化け物も死ぬのだ。俺たちが死ぬようにあれもまた死ぬ生き物なのだ。

なれば…殺せないなんてことは無いだろう。

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