表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/129

不運でも不幸でもない実直なポンコツ


コーン…コーン…コーン……

「ふあーぅ」

朝日とともに遠くに何かを叩く様な音が聞こえる。

私は、欠伸が出るのを止められずにはしたなく大口を開けて息を吐き出す。隣にあったぬくもりは既に冷め始め、私よりもずっと早くに起きて動き始めたのだろう。ギシリとベッドから足を出し、少し冷える中を歩いて水が汲んである甕から水を汲み、顔を洗い、歯を磨く。寝巻きからメイド服に着替え、髪を直し、メガネを磨く。

「完璧ですね」

私はジェシカ、ジェシカ・ランドウォーカー、ランドウォーカー家三女にしてアルケミー魔法学園を卒業した魔法メイド、運良く公爵家の侍従長に気に入られこのまま出世コースを爆走…する筈だった。

原因は斧を担いでトテトテと歩き回り勤勉に働く子供、しかし責任の所在を見れば明らかにこうまでなってしまった原因は私にある。

「おはよう、ジェシカさん」

「おはようございます。グラジオラス様、すぐに朝食を用意いたしますね」

今更つける必要もない敬称は私たちを切り捨てた公爵家への当てつけである。



ジェシカ・ランドウォーカーという人物を一言で表せば『お人好し』である。

だがそこに打算が無いわけではなく、寧ろあるからこそ善意が妙な結果を生んでしまっていた。というか、彼女は余計な気を回さなければそれだけで完璧だった。だがその余計なが本当に余計過ぎて全てを台無しにしていた。

学園では友人関係やなんやかんやとあったが、卒業論文を発表することになった時『もっとこうすれば…』と、わざわざ既にほぼ完成していた研究をもっと良くしようとして期限に間に合わず結局追加分は添削された。

ここにきてからも色々と気を回しはするが言われた以上のことをしようとして一年で皿を50枚、植木を10個、本や雑貨を破損すること数百回…もともと少しドジなのと相まって自分の許容量を超える様な気の回し方をするので毎回エキセントリックな失敗をすること請け合いだった。

ちなみにここにきてからも家に斧をぶち込んだだけでなく皿を落としそうになったり、幼児であるグラジオラスを抱き枕にして殺しかけたり、調味料の分量を間違えたり、うっかり焦げた何かを生み出したりとなかなかのそそっかしさを見せていた。

だがその仕事ぶりや姿勢は実直かつ丁寧で、先ほどまでの失敗も途中で静止さえ出来れば完璧かそれ以上の仕事を見せていただろう。

それだけに彼女のあだ名は『残念メガネ』自らの手で自らの努力を無にきしてしまいがちな彼女に戒めとともに贈ったものだった。


「いただきます」

「地母神よ、日々の恵みに感謝いたします…」

できた朝食はサラダとパン、スープ、どれもこれも質素清貧極まった庶民的な食事だ。私がこんなものしか作れないのもこの環境のせいですが、それ以上に屋敷からの物資、魔石と交換のそれらの選別作業のせいでもある。

お屋敷から荷物を持ってくるのはグラジオラス様ですが、私はその中の整理を担当しています。

勿論大半は使えるのですが、肉や瓶詰めなどには毒が仕込まれており、いつもいつも手紙が入っています。大概はガラフ様ですが、稀にアナスタシア様もおふざけで入れている様で結構な量の物資が毒によって取り除かざる得ないことになります。

というか、やはり彼は相変わらず命を狙われています。そもそも私がここにいる原因の半分以上、いえ、9割くらいは彼の暗殺失敗…もとい、わたしが念を押されて、たまには態々瓶や中身を巧妙に入れ替えられたりしているのにも関わらず。彼を殺し損ねたからなのでしょう。


勿論、貴族にとって色なしが生まれることは致命的であり、秘密裏に処理することは知っています。ですが、いざ自分が手を汚すとなると…そうですね、改めて自分を振り返るとその時の私は善意ではなく私のために彼を殺すのをためらいました。勿論、半分くらいは新しいメイドのための訓練だと思っていましたが、あまりに続くので最後の方にようやく思い至った。という方が正しいですがね…何か非常に残念な人を見る様な視線を感じましたが…いえいえ、最後はきちんと毒を彼に与えました。

公爵家の威厳を損ねるなんてことをすれば私の首で済めばまだいい方で一族郎等闇に葬られることも無くはないです。

ですが、やはり自分の命が一番大事でした。そのために彼を殺すことになっても、そのためにアナスタシア様のお気に入りを殺すことも私は良心の呵責と嫌な気持ちになるだけで生き永らえることができ、もしかすると昇進もできたのかもしれません…

ふと、目の前の彼と目が合いました。

そう、そういえば…彼のスープにはきちんと肉が入っています、なぜか?それは毒を入れたはずなのにここに私がいる彼の方の原因に関係しています。

「ジェシカさん?」

「ッハ!な、なんですか?」

「いや、パンを咥えてぼうっとしてたからさ…大丈夫?」

危ない危ない …小麦粉は貴重ですからね、肉体強化によって毒も何も効かない彼のパンは幾らでもありますが、常時魔法形態の肉体強化を発動し続けることなど私にはできないし、毒を無効化するほどの代謝を得ることも不可能です。

…因みに、日々毒物を摂取しているせいか彼に耐性が生まれてきているようです。そろそろ、私がわが身可愛さに彼を今も殺そうとするのは止めるべきなのでしょうが、授業の時と食事時しかまともに仕事をできない私です。毒の耐性というのはあって困るものでは多分、ないので、ライフワークの一つとして研究しますか…え?私の研究論文?『土魔法における罠の毒とその有効性』です。

「あ、あとお代わりもらってもいいですか?」

「はい、たくさん食べてくださいね?」

そしてガラフ様やアナスタシア様から毒を持ったボーナスが貰えて、私は研究していた毒の耐性と毒の働きについてはグラジオラス様を使った人体実験ができる。…これがWIN-WINですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ