無属性という魔力の考察 中
まぁ、それでで在る。事実を列挙してもらったのは理由がある。というか理由もなくこんなことをしている時間があったら樵している。
一つは最近めっきり使っていない強化魔法というのがどういうものなのか、そもそも無属性という魔力の持ち主はどれくらいいるものなのか、二つに他の属性と比較した際の無属性の特色の再確認だ。
収穫はあった。無属性魔力が強化魔法に向いていると言うのは前からしっていたが、あの屋敷にある教本では属性魔法が最優であるというか、ある種驕りめいた事実の歪曲があったのだが、こちらにもそういうのがあったとしても、無属性魔法使いを名乗る無属性魔力の持ち主たちが複数人で主観的ながら事実の検証をした結果として他の属性より現実に対する影響力が高いという結論を出したのならば、恐らくそうなのだろう。
まぁ、都合のいい結果だけの抽出や個人の資質によって違うとかだったら意味がないを通り越して『無』その物なので、この本が薪の代わりになるだけだがな!
とりあえずひとしきり無属性を取り巻く事情や一般的にどの様なものであると認識されているかの確認、利用法などについて聞き終わり、ノートにまとめているとジェシカさんが用意した紅茶とスコーンをカップに盛り付けながら口を開いた。
「ところで、グラジオラス様の肉体強化は一体どの様にして魔力を使っていますか?」
「ただの肉体強化だよ、多少のアレンジはあるけど…多分、変わったところはないと思う」
そう、ただの肉体強化は本当に何の意識もなくただ漠然と強化している。と言えば良いんだろうか?というか魔力を自分の体内やあんまりに巨大すぎるものは感知できるが未だにきちんと知覚できるわけではない、そこにあるということはわかるのだがピントが合わない顕微鏡を覗いているような、ボンヤリとした感じでしかわからない、故にどの様に魔力を使っているかと言われてもよくわからないし、何か変わったところがあったとしても自覚できない、強いて変わっているところあげるとすれば魔力障壁関連だが、そこは今の俺の切り札だ。彼女に悪意はなくとも使用人としてアナスタシアやガラフに尋ねられれば言わざる得ない、故に言う必要はないだろう。
…ていうか、そこまで潰されるとマジでこの家を生きて出ることができない、対策されない様に、気づかれない様に、手札を増やし逃げ出しても何とかなるくらいに力をつけなければいけないので、もういっそのこと農民とか、一般家庭とかに産まれたかったと思う事数千回目だ。
「いえ、十分おかしいですよ?なぜ一日中肉体強化を発動し続けて魔力が枯渇しないんですか?」
「え?」
え?だってジェシカさんも教本にも肉体強化は日常的に発動する物であるとかなんとか…
「ええ、普通の人の持つ魔力量では、とかそういう話ではなくそもそも肉体強化というのは身に纏う余剰魔力が引き起こす現象の様なものであるとされています。なので常日頃から人はその肉体の持つ骨格や筋肉量を超えた物を運んだり、動かしたり、事体を使うことに関して様々な恩恵を得られます。が、肉体強化を魔法として発動させれば確かに明確にイメージされるため強化率や深度も高くなります。ですがそんな事をしていれば魔力の操作も追いつきませんし、そもそも魔力が切れます。」
「もしかして俺は…」
「はい、常に肉体強化を魔法として発動し続けていますね」
…ま、まぁね、魔力だけはたくさんあるから?
「いえ、グラジオラス様の肉体強化魔法そのものがおかしいのです。確かに持続時間も驚異的ですが、それくらいならアナスタシア様もできます。が、明らかに強化率がおかしいですよ、肉体構造に精通したお医者様や研究者、そういう方々もイメージがきちんとしているので強化率が高まる傾向にありますが、イメージを強固にしても消費される魔力は膨大です。少なくともきちんと人体について勉強して魔法学園を卒業した私がグラジオラス様と同じ事をしようとすれば、1秒持つかどうか怪しいです。」
…この世界は魔力によって簡易に超常現象を起こせるが、術式発見までの長い時間それだけに頼っているわけにも行かなかった。そのためにかなり学問は発展しているらしい、人体をはじめとする生物学については進化論などを目にするくらいには進んでいるのはわかっていた。
なので、肉体強化など魔法使いにとって危険な近距離からの離脱のためにそれらの効率化を図るのは当たり前であり、それによってどこがどこにどう働くかが解明されて行くのは自明の理である。なのでジェシカさんが前世の俺レベルの肉体への理解度があると仮定した状態で強化魔法を発動し深度を俺レベルにするとジェシカさんで1秒、ならば俺は100秒であるはずだ。
確かに妙だ。いや、そこが無属性魔力の適正なのか?
「はい、確かに最初はそうだと思っていたのですが…流石に異常です。いくら強化に向いているとは言え、そこまで隔絶した差があるなんていうことは聞いたことがありませんし、そもそも全員が全員そうなら世の中の無属性魔力がを持った剣士や騎士はもっと化け物めいた人がいっぱいいるはずです。」
「た…確かに」
もはや慣れた手つきで自分で自分に紅茶を入れて飲む彼女の言葉に俺はよくわからなくなってきた。




