独り言Ⅱ
魔力循環高速化によって身体機能が向上しそれ伴う時間感覚の延長と思考加速は考え事をする時はいいが肉体がそれに伴わない、見ることは見えるがよけれないのと同じ様に電気信号の連続である思考は雷速までは確実に加速できるが電気信号を受け取ってそれに反応すると言うしごくまどろっこしい人体というのはそこまで速くならないのだ。
俺が来客に気がついたのはそんな超人的感覚で術式の整理と効率化、魔石刃展開のための魔力収束の効率化の検討をしていた時だった。
「やぁ、正直言って首が飛んだかと思ってたけど生きていたね。嬉しいよ。」
銀糸の様な、と言うにはあまりにも細く輝く髪とやはり銀の様な無機質な瞳、それらが大小二つの月と洞窟都市であるドヴェルグの天蓋を覆う光に照らされ、それはそれは絵になる光景だった。
じっくりと1秒、俺の体感だと10秒近い間それを認識しやはりドヴェルクのギルドマスターと瓜二つである事やあの斬撃についての皮肉や色々と思ったが…
「いや、開口一番に死んでたのかと思ったと加害者から言われるとかなんなんだよせめて謝ってくれよ。」
まぁ、文句が出た。
「アハ、ゴメンね。」
無駄に爽やかに謝られても困る。
とりあえず加速を緩め日常生活に支障がない程度に強化を下げた。あの状態で無理やり動けば物理限界を超えた動きを起こそうとして身体が破綻する。有り体に言えば過剰強化後と同じくらいのバラバラ一歩手前になる。ので元に戻し、椅子とテーブルを用意し、寝巻きだった身なりを竜鎧で整えた。
「改めて名乗ろうか、僕は水銀、メルクリウス。まぁ色々と特殊だけれど小人族で…そうさな。黄金色の一目惚れ暴走エルフとも知り合いだ。なんで君の事は色々と知っているよグラジオラス『フレイアール』君。」
一目惚れ暴走エルフ?知り合いの黄金色のエルフといえばタイムのギルマス位だが…長命種が一目惚れとなると相当の傑物なのだろう。まぁ、なんにせよ王国側、特にあのおっそろしい炎熱系最凶の男には漏れてないと信じるほか無いくらいには絶望的に垂れ流されている俺の個人情報を知る目の前の小人に目を向けた。
「はぁ…知っての通りだ。グラジオラス、今はグラジオって名乗ってるからできればそう呼んでくれ。」
「オーケーグラジオ。そいで、出迎えがあったってことは情報の伝達はギリギリうまくいったってとこかなぁ。流石、純粋な人間じゃ無いだけあって復活が早いね。」
「あぁ…なんとか………あ?」
あ?
眉間にシワがよるのがわかる。今この女は、少なくとも俺の認識する限り間違いなく人間である俺になんて言った?
『純粋な人間じゃ無い』?
いや、まて、俺はいつから『自分が間違いなく人間である』なんて考えていた?
頭痛がする。
魔力の循環によって魔法への耐性は上がっている。高濃度の魔力を体表面に纏う俺の魔法耐性は特殊な属性や貫通技術などがない限り抜けない、いや、待て、俺は何処から来た誰に面倒を見られてきた。
…あの母親が俺に対して毒が効くと勘違いしたままいるか?親父殿は彼女に抑えられてほぼ動けない筈だった。ならばあの毒をもってきたのはママンかジェシカさん、大穴で兄様くらいだ。もし、もしあの恐ろしく手練れで宮廷の伏魔殿の作法すら知る戦略級魔法使いならば俺に対して毒以外のアプローチをかけていないなんて事はあり得なくないか?
頭痛が酷い、何か考えてはいけないことを考えているのか?
人間じゃ無いと言う言葉の何が引っかかった?あの時メイルリーンの使い魔はなんで俺のいる場所に直接介入して来れた?どうして俺は、いつから、どうやって……ふとそこで何処からか知らないはずの知識が湧きそして違和感を流しさろうとしていく。
耳鳴りがしてきた。
…思考を続ける。
いや、そもそも造られたのでは無いかと言う疑念への答えを何故求めなかったのか?そしてそんな状態で身体に何か細工をされていないかと言う考えに何故至らなかった?
違う。今確信してしまったのだ。そしてそんな予測できた事実に『グラジオラス』が耐えられなかったのだ。
彼は発狂したかの様に叫び自らの手で自らを破壊を試みるが今の彼に過剰強化の様な特殊な魔法の制御はできない、異常なまでの再生力、復元力は誰の攻撃であっても等しく回復する。
そして俺は漸く見つけた。
なるほどひどい、まさか魂と思考だけしかもどちらも中途半端に覚醒させておく事で自意識を徐々に塗り替えられてもいつのまにか得た知識が流入してもなんの違和感もないかの様に錯覚させる。オサレ漫画の名言製造機もビックリの完全催眠である。
大きな呪縛は三つ、魔本由来の徐々に精神を蝕む物、宝石を利用した思考制限と誘導、そして魂の外縁に直接刻み込まれた時限解除性の知識流入。俺はいつの間にか魔石の内側の様な世界でそれを俯瞰していた。
外を見ると制御しきれなくなった魔力が俺の身体を傷つけ始めた頃だった。
そりゃあそうだ。あんなアホみたいな量の魔力を制御するには彼の魂は幼すぎる。俺はさっさと目の前にある手の内に収まりそうな球を掴む。その手は見覚えのある前世の物、なるほどそれで『愚物』やら『虫』やら散々な評価だった訳だ。力を込め呪詛の塊を握り潰す。
その瞬間、何かが切れる様な感覚と共にストンと腑におちた。
俺はどこで目が覚めた。
親父殿の変顔?
いや、違う。
それ以前の空白
俺は…
「ああ、そうか。」
「大丈夫かいグラジオくん、顔が真っ青だ。震えも、汗も、呼気もおかしい…アレ、僕地雷踏んだ?」
ああ、うん、地雷である。想定外だ。まさかこんな所であのおぞましい風景を、空間を、思い出してしまうとは。俺が彼女を母と呼び続けるのは恐れから、あの二人を未だにママンや親父殿と呼び続けるのはそう考えておかないと自分の成立に自信が持てないから。
よく思い出せ、魔力による自己再生は手足がもげても治る様な怪物めいた再生力を持っていたか?
何故多くの人類がそのポテンシャルを持ちながら生存圏を維持するので手一杯なのか?
俺は、一体、いつから、何をどこまで…
「落ち着けグラジオくん。魔石に喰われるぞ。」
術式、魅了、精神作用系、現代魔法文明では再現不可、その根源は魂に対する干渉、故に防御には魂の強度が求められる。
「『メルクリウス、貴方は…古代魔導文明の遺産…なんですね。』」
「えっ?いや、まて、君は…?」
俺は剣崎菖蒲、元は成人した人物で…異世界人、今はグラジオラス・フレイアール。だがしかし、その実、俺は今の今まで『剣崎菖蒲』というかパーソナリティを失っていた。「グラジオくん?」
少々怖い表情で困惑した様子のメルクリウス、まぁそれもそうだ。俺だって目の前の人物が突然この世の誰も知りようがない自分の秘密をさも知っているかの様に話せばそんな風にもなる。
えっと、ああ。うん。それらしく振る舞うだけならできるか。
「俺はグラジオラスであってるよ…まぁ。元から存在してないんだけどねそんな人物は。」
「…大丈夫じゃなさそうだ。今すぐ彼女達を呼んでくるからちょっと待って」
手を引く。大丈夫、今の俺なら魔力特性を見誤ったりしない…少なくとも怪物印のビックリドッキリチートを自覚した俺にとって、ちょっと頭痛が痛い程度の些事に等しい…ちょっとアタマヨワヨワな喋りになったがキニスルナ。
扉向きの力をそのまま反対へ、俺を介抱しようとしてくれた相手にするには少々手荒だが彼女の反撃である魔石糸の動きも全部解っている。知覚できる世界の加速し必要情報のフィルタリング、物を壊さない様に彼女に当たらない様に、そして術式の発動は起きない様に丁寧に制御を奪い…適当なところに縫いとめた。
「ック…一体なんだよ!か弱い女の子にさせていい格好じゃないよ!?」
「ポーズはちょっと制御できんかったかぁ…」
その結果、というか俺のうっかりのせいで水銀の名にふさわしい美貌を持つ彼女がちょっと滑稽に見えるくらい完璧に逆さ吊りとなり、重力によってワンピースの裾が落ちるのを必死に抑えていた。
「いや、まぁ、うん、落ち着いてくれ。」
「落ち着けるかぁ!!」
至極まっとうである。
「じゃあ首を切りかけた罰だと思ってくれ、ちなみに今そうなってるのは魔石糸の操作を続けてるのを俺が抑えてるからなんで攻撃しようとしなければ解ける。」
「っ…!私から糸の制御を奪ったとか!冗談じゃないんだけどっ!んぐべ!?」
あ、落ちた。まぁ仕方ないじゃろ。俺が操作できるのはあくまで力、物質そのものじゃない、それにかかる力が霧散すれば必然的に俺による操作は不能になる。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ!キャラ崩壊とプライドの危機だよ!」
いや、それは知らんわ。
さて、とりあえず色々とあったが俺と彼女は再び席についた。まぁ色々で片付けるにはまだ俺にも整理できていないが、それもこれも全部あのおぞましい我が生みの親の所為ということにしておこう。
「それで、どうしたっていうのさ。キャラ変わりすぎ…っていうかそのえげつない能力とか、口調とか、ほんとに大丈夫なんだろうね?」
クール系お姉さんロリとかいう狙いすぎて寧ろ性癖な彼女の取り乱した姿というさらに尖ったよさみに俺の色々なサムシングが爆裂しそうだが、真面目な話をしよう。
「あ、やっぱりまた今度でいいですか。」
と、思ったがこういうのは旅の仲間に伝えるのが先決だった。やっぱこのうっかり俺に対する封印の核を粉砕した次の機会に…
「あ゛あ゛ん?」
「アッハイスイマセンハナサセテイタダキヤス…」
「まず、俺は俗に言う転生者って奴なんだ。ま、これはいいだろ?珍しい事は珍しいけど問題にはならないし。」
「…まぁ、ね。それで?」
「詳細は省くけど、俺と言う魂はすでに十分な自我を持つある程度自立した存在だった訳よ。」
だが、彼女にとって、アナスタシア・A・フレイアールにとってそれは邪魔でしかなかった。
「彼女ら一族が目指していた成果物は『強大な魔力の器(魂)』を備え『竜の心臓と言う超級魔力炉』とそれを扱うに足る『異界の生命体の血と強力な魔法使いの血から培養された肉体』を持つ『魔力による事象操作力が高い素体』、あくまでも素体である以上俺に意識があるのは不味かった。だけど消してしまうには別世界の知識や経験、技術とそれなりの思考スペックは惜しかった。」
そうなってくると打てる手は少なくなる。しかし守護神としてそして良き隣人としてフレイアール領を守っていた龍をぶっころがして素材にしたり、俺とは別枠で異世界人を拉致し魔本とリンクし暴走させて敵対派閥を吹っ飛ばすついでに召喚物を現世に固定しそっから態々別天体を支配する神の如き存在を奉る奉仕種族のサンプルを採ったりしているマッド集団にブレーキは存在しない。
「なんで、俺の魂を封印するのは大前提、しかもその思考や知識を完全に縛らず。それでいて違和感をもたせない、その為に作り出された擬似人格であり彼女らにとって都合がいい無垢な魂として導入されたのが…」
「いや、もういい、もうそれ以上さも他人事の様に喋らないでくれ。」
彼女はそう言って俺を止めて、今日の所は帰る。そう言い残して去っていった。
衝撃! 100話を越えてやっと主人公が出てくる(時たま出てきてた)




