独り言
無理ストップ
説明抜けがあったんで編集
「…やっぱりか」
草木も静まる丑三つ時…というと語弊がある感じの温泉街だが、階下の騒ぎとは隔絶された空間らしいこの部屋は座禅を組むのにピッタリの場所だった。
あの後『何もできない拘束時間』という妙に精神疲労ばかりが溜まる時間の埋め合わせに二人と一緒に甘味処やら、服屋やら、なんやら巡り観光地でもあるこの街の娯楽をそれなりに楽しんだ。今の所金の問題はないと言える。つい先ほどまで女二人に養われるダメ男だったモノが何を戯言を…と思うだろうが、属性を持った魔石や素材は属性負荷の高いところ特有の産物、ここで価値はなくとも他で売ればそれなりの値になる。
まぁ、運搬コストとか諸々あるしそもそも買い取り手であるギルドによる加工がなければその価値は激減する。そのため純粋な利益が入るわけでは無いが、そうした経費を差っ引いてもこちらの手元に金貨十数枚が残るのだから凄まじい…まぁ、なんでこんなに稼げるかと言えばここの立地だ。
月の石や南極の氷と言うものがある種のコレクション品として価値が高いように…とはまた違うが、ここは運良く人が住める環境があると言うだけで地球の南極とさほど変わらない様な極地である。月と違い人が住めなくは無いと言う点でまだマシかもしれないが、そこで取れる資源というのがどれほどの価値になるかは言わずもがなであろう。
…っと、そうではない、別に今更そんなことに気がついてやっぱりなんて言っているわけじゃないのだ。
例によって例の如く…増えている、なにがとは言わないでくれ、魔力炉という器官は普通は壊れればそれきりだし、再生も修復も増してや容量を増やし強力になって復活なんていうのはありえない筈なのだ。
「ふぅ…落ち着け。」
まあ、うん。魔力が増えている。…成長は喜ばしい、騎士団長もそうだが家を出る前に不穏な気配へと変貌していたママンやその家が関係しているらしい謎の龍モドキ、吸血鬼に水銀と現状では倒せない相手というのは事欠いていない、だが身体の成長が、魔力の成長が俺の制御を飛び越え自らを傷つける諸刃の剣と成り果てている今、その成長を素直に受け止められない自分がいる。
「…たしかに、強くはなるだろうな。魔力障壁は厚く。武器に刻める術式も多くなるだろうし、何より満足して使える鎧がある今肉体自体を強化するあの術式の威力は前よりも断然高くなるだろうよ。」
だが、しかし。純粋な魔力運用や操作、肉体操作などの技量は確実に落ちている。元からピーター氏の様な心筋すら制御できるなどという域には達していないし、そもそもアイザックやバッシュの様に成熟した肉体や年単位での修行時間もない。スキルやレベルなんていうご都合主義な世界でない故に基礎の能力の向上がそのまま戦闘力の向上につながらないのだ。
魔法を使うなら魔力操作が、武技や剣技を使うならば適切な肉体操作術を修めなければ高まったスペックを使うどころか重荷にしかならない、加護という例外はあれどその加護ですらそれを知り鍛えた者とそうで無いものに差が出るのだ。もし俺の持つ力を存分に発揮するとすれば…
「魔本か…嫌だなぁ…マジで。」
アレは利用するとかそれ以前の問題だろう。属性魔法の使用も夢では無いが俺の適性的にSANチェック不可避な展開が漏れ無くついてくる。それに、あの便利な道具にかまけて自分の力を磨くことを忘れれば今まで生き残ってくることすら難しかっただろう。
…懐かしいな、俺があの母親に正体を看破されてジェシカさんを俺の専属にしてもらって…それからもう5年と…5年と?ん、後で彼女に聞くかな。
だが何にせよ俺に必要でそしてきっと今のままでは永遠に手に入ることのない物、それは…
「時間だよなぁ…」
某魔法先生のや某竜玉集めの世界の物とはいかなくてもそういった時間が増える系の修行場所とか無いかなぁ…いや、無いな。この世界、なんだかんだで時間や空間にはタイトなのだ。たしかに俺やもしかしなくても他にいる転生者の様な魂の流入や流出はあるようだが、それ以上の話はとんと聞かない、少なくとも俺の知る限りでは『転移者』の存在は皆無である。
まぁ、当たり前である。質量のある物体が次元や時空間を超えると言うのはそんな簡単な事ではない、古代魔導文明の遺構にすらそんな術式はないのだからあるとすればそれ以前の神代の物か、それこそ教会の教義にあるような神の如き上位存在による悪戯だ。
まぁ、そうじゃない形として空属性はあるんだが…術者の少なさやなぜ故か五大属性の中でも最も希少であり、平均魔力量が最も低い空属性魔導士の情報は真面目に国家機密なので俺の知りうる限りないと言うのが正確な話だ。
「はぁ…」
悩ましい、悩ましくて寝てしまいそうだ。が、身体の成長や鍛錬は時間の経過に任せるしかないにしろ魔力、魂、そう言った面での強化は魔力炉と魔力路の励起、放出と収束、調律と呼吸、などなどなど日々の動作に取り込める若しくは日常的に行える物である。肉体操作や武具の修練などもある程度取り込んでいるがどうしてもメンテナンス程度、現状維持程度に落ち着いてしまうのに対して凄まじく時間効率、修練効率がいいのだ。
歩きながら腕立て伏せはできないが暗算はできる。飯を食いながら腹筋はできないが企画の概要を纏めたりはできる。少なくとも意識が覚醒している間、そして一部だが無意識でも脳が働いているならば魔力は鍛えられるのだ。ま、俺の場合魔力の制御力や練度がそのまま攻撃力や防御力に繋がらないからさほど変わらないといえば変わらないんですがね。
「…」
遠くに喧騒があるが故の孤独な静けさ、既に循環の速度は高速化し掌握する魔力量は全体の7割まで向上した。戦闘中は少し落ちるだろうがそれでも魔道士数百人分のうちの半分以上は引き出すことが出来る。しかし放出はあいも変わらずどころか魔力量に比例するように内側へと惹かれている。
最近はあの竜人ジェシカとでも言うべき姿の彼女と戦った時の記憶を整理しベクトル変更以外の戦い方を模索している。
…いや、模索していると言うのは嘘だ。正確には悪用法しか思い付かなくて頭を悩ませている。
某超能力者の様にこの惑星の自転からエネルギーを奪っても、活火山などから発生する熱エネルギーを戴いても、それこそこの世界を支配する魔力の奔流、大気のさらに裏側にある精霊達の領域に接続することすら可能だろう。問題はそれを行った際俺と言う出力端子であり入力端子であるモノが脆弱すぎると言う事だ。だがその問題さえ解決できれば切札である『魔石刃』や自爆技である『過剰強化』をほぼ半永久的に発動する事や、物の理そのものに干渉し四大元素を操ることすら可能かもしれない。




