免許証更新とかめんどくさい
「…冒険者証の更新をしてもよろしいでしょうか?」
「へ?」
冒険者証を出して、獲物を降ろして、さぁ金を頂こうという一歩手前で受付嬢がそんなことを言い始めた。勿論ダフネの冒険者証はまだ発行されていないし、出したのは俺のものでジェシカさんのでは無い、監査部関係かとおも思ったがそうじゃ無いらしい。
「奥の部屋へ来てください、あ、討伐依頼の達成金と素材のお金はお仲間に渡しておきますので。」
「あ、ああ。」
はて?魔字で書かれた冒険者としての位階はまだ最下級のものだし、そもそもあがるほど真っ当に活動していない、それに更新されるような活躍は王国内でしたかも知れないがそこでの更新は確かなかった筈だ。俺はギルドの奥、冒険者証の発行機である遺構の装置に手をつけさせられていた。
基本的に冒険者証の更新は昇級を伴う。それには勿論試験が付随する訳だが…それも無い。え、まじでなんなの?
まるで意味がわからないままに来てしまったし、なんか装置も反応しているし、もうわかんねぇな。
数秒発光して装置が動作を終了すると装置とつながったモニタの様な板をポチポチと操作した受付嬢、何やら頷きながら証渡してくれた。
「おめでとうございます。事実確認と複数の上位冒険者からの推薦により、貴方の戦闘力の評価を修正、加筆しクランリーダーとしての資格を認定しました。ランク変動はありませんが、本日よりギルドは貴方の力を中級冒険者上位の物として扱います。」
「えぇ…?いや、待ってくれ一体なんなんだ?」
俺が疑問に満ち満ちた情けない顔をすると受付嬢は事務的な笑みとともに説明を開始した。
「はい、では説明させていただきます。まず今回の冒険者証更新の主な目的は『竜討伐』『長距離の移動』『国家間移動』『幻想種及び魔性との遭遇、戦闘、生存』の四つの項目です。」
「…はぁ。」
気の抜けたような返事をしてしまう。だが…ちょっとだけ思い出してきた。冒険者はギルドという組織に認められて活動する自由業、冒険者はやれることを提供しギルドはそれに沿った業務を斡旋する。そのための試験と資格の制度だが、この資格は全部が全部試験だけで判断されるわけではない。
「まず、竜討伐と幻想種関係ですが、コレはいわゆる『戦闘力』の指標です。王国内では騒ぎをこしたくないとの要望からこちらにきてから最初にギルドに寄った際に更新する様にとタイムの街冒険者ギルド長より仰せつかっておりました。まぁ、魔性四怪の一種である吸血鬼との戦闘や領域離脱の経験もされた様ですので査定は上向きに修正されました。」
「なるほど、ありがたい話だな…」
タイムの街冒険者ギルド、なかなか濃密な時間を過ごした場所だったが…ギルド長が色々と弁舌をはかってくれたようだ。受験資格の件と言い実は色々と恩義がある。今度と言わず手紙を出してみようか。
「次に移動距離ですが、実は冒険者証には移動距離を測る機能がございまして、誤作動もままありますが…この装置に読み込ませれば何処で冒険者証を手に入れたのか、何処で依頼をいくつ処理したのか、どのくらいの距離を移動してきたのか、最大移動速度、などを見ることができます。これらの情報からどういう依頼を受けていただけそうかを考えたりもするのですが、今回主に使用した情報は国家間の移動と冒険者ギルドによらなかった時間ですね。どんなに優秀でもその国から動かない方とかザラですし、どんなに強く、どんなに優秀でもちょっと長旅するだけでへこたれてしまう方もいます。事これだけの間冒険者ギルドによることもなく。長い間活動していられるというのはそれだけで能力足り得るのです。」
まぁ、長々と説明してもらったが要は推薦と実践を経て冒険者としての査定を更新したというだけの話だった。
…推薦人にあまり心当たりがないし、戦闘力のみ中級冒険者級に査定され直したが竜やら幻想種やらに揉まれてコレなのだ。上級冒険者はどんな化け物なんだ。確か現在純粋な戦闘力のみで上級レベルの冒険者は両手の指の数ほどしかいない、そしてそれらの規格外は常に人類の生存圏を押し広げる最前線にいると聞く。…まさに冒険者、まさにフロントランナー、フロンティアスピリッツ溢れる話だ。個としての暴力が冒険者であるならばその極地が戦闘系上級冒険者である。俺が目指すべき最強の座はそこをあくまで通過点としなければならない、というかそれ以前に集団戦のプロであり近接魔法戦専門家であるだけの王国騎士を打倒できなければそこにたどり着くのも難しいだろう。
「申し訳ありませんが最後に注意点を、グラジオ様の冒険者ランクはまだ初級のままです。ですので中級冒険者としての依頼やクランの設立などのサービスには制限がかかっております。討伐依頼、探索依頼、幻想種討伐など戦闘力や生存能力を求められる依頼の一部は斡旋可能ですが、基本的な扱いは初級冒険者と変わりませんのでお気をつけを。」
「わかりました。どうも丁寧にありがとうございました。」
「はい、ではパーティーの皆様の冒険者証更新と魔物素材の換金はすでに終わっておりますのでカウンターでお受け取り下さい。」
そう促されてこのギルド会館最高レベルの警備と防備を持つ遺構から出るとそこにはソファでグデっとなった皆がいた。
「あぁ…グラジオおそかった。」
「あ?あ!グラジオ様!」
貴族令嬢らしく優雅にお茶を楽しむダフネという相変わらず気を抜いている時はダメダメ美人なジェシカさんの姿に俺は気付かないうちに力んでいた体をほぐしてため息を吐く。
「どこの世界もお役所は疲れるなぁ…」
免許証更新とか、講習とかそれら諸々を思い出す煩雑さであった。




