試運転と最強道
森を破壊して挑発したおかげかそれとも化け物みたいな魔力を引っ込めたせいかマッドファイアベアやファイアボアなんかの属性魔物が2、3匹ずつ現れたが…
「キレすぎて怖いな。」
「ええ、お陰で毛皮は真っ二つですね。」
「いや、加減とか無理でしょ、グラジオはむしろすごい。」
なんだかダフネに褒められるのは初めてでくすぐったいな。だがまぁ、ジェシカさんの不満もわかる。
だが吸血系幼女の言うとおりあまりに斧の威力が強すぎるのだ。質量で叩き割る武器でまさかずんばらりんと血脂が付く隙すらなくバラバラ死体を量産できるなんてなんの冗談だよ。だがさらに冗談じみているのは防具の防御力だ。見ろよおい、俺が布の服と素手で血しぶきまき散らしながら殴り合った熊くんの手が鎧で砕けたぞ?
「障壁の式に改良はほとんど加えてないですし、そもそも今は新しく出来たことを取り込むために以前より完成度は落ちていますからね、ほぼ純粋な防御力と言えるでしょう。」
「…というか竜を殺しておいて布の服と素手だったっていうのが一番驚き。」
まぁ、色々とね。そもそも力を抑えて武器を振るうくらいだったら全力でぶん殴ったほうが攻撃力が高かったし、下手な装備より魔力障壁による強化と防御の方が強かったからね…通常金属より硬い外皮を持つ幼児とは一体なんなのか…ウゴゴゴ、深く考えてはいけないな。
それにこの防御力にだって種も仕掛けもある。まぁずばり無属性魔術だ。
「やっぱり物体にほぼ無制限に強化を重ねられるのは強いなぁ…」
「本当にただの布切れでしたからね、付与は一度成功すればマシ、素手は付与不可能ですし、障壁への付与は魔力効率が著しく悪いですからね、その点で言えば竜素材でほぼ統一された今の防具なら…まぁ、軽く三十個くらいの重ねがけは余裕でしょう。そもそも付与は魔力さえどうにかなれば別種の強化同士で効力を乗数的に強化できますしね。」
そう、今この防具には硬化と衝撃弱化を10ずつ、さらに魔力循環と俺の魔力による強化をしている。術式魔法は式に魔力を通しさえすれば発生するので、いつも使っているベクトル変更や魔力障壁の様に自力での操作をほぼ受け付けない代わりに他のことに集中できる。
今までは殴り合い中に防御や回避をほぼ出来なくなる代わりにベクトル操作と魔力障壁操作をしてなんとか生き残っていたが、今度からはもっと戦略的に戦える。…え?なんで回避が選択肢になかったかって?そりゃお前、障壁があるうちはほぼ不死身に見えるがその状態を維持するために力を注いでいるから周りの空間を注視したり、動きを見切ったりするなんていう高速思考はできないからだ。体に刻み込んだ動きと本能のままに戦ってなんとか死なずにやってこれた奇跡に感謝して、あの騎士のように防御不可能な攻撃や水銀や吸血鬼の斬撃めいた人知を超えた相手には無力だった俺を越えるため、俺はようやくその手札を持てたわけだ。
「まぁ、問題は魔法と魔術それに魔力の性質を生かしながら武器と防具を適切に使用するってのも普通にマルチタスクすぎてつらいって事くらいか。」
今まであんなに装備が欲しかったのは俺には武具が必要だからだ。当たり前だが、馬鹿魔力を障壁だけに注ぎ込んだって最強とは程遠い、護身にはなるだろうが純粋な戦闘力は武器に魔力で付与をしたのに比べるべくもないくらい低い、格上相手に通じるのが防御力だけではいずれ嬲りごろされるのだ。それをここ最近どころか最初から危惧していたというのにことここに至るまでまともな代物を手に入れられなかったのは俺の不徳だ。しかしこうして得物を手にすると…
「(怖いな。)」
改めて自分の力は生物を簡単に殺し尽くせる物だと再確認する。確かに研鑽や痛みや修練はあったし、この装備を手に入れるために奮闘したのも確かに自分なのだ。この手に掴んだ。しっかりと。…笑みが溢れる。力を、漸く、やっと、最強への道が見えた。
だがまだ道が見えただけ、自分に恐ろしさなど感じている暇はない、そもそも人類の中で中程にいたとしてもそれ以上の実力者が多すぎる。俺が目指すべきは人類最強ではない、最強なのだ。
「魔石と毛皮、それに持てるだけの肉はもったし、そろそろ帰るか。」
「ええ、つぎがあるなら台車か何かが必要ですね。」
「ん」
怪物性が薄まったはずだがダフネは片腕でクマ一頭を持ち上げる怪力だし、俺も担ごうと思えば今日倒した分くらいは担げるが…いや、いいか、街まで近いし、もってしまおう。金子も入り用だしな。防具に戦斧を押し付けるとまるで溶けるように消えていく。
…この世界の科学では空間や時間について正確な知識を持つ人は少ない、なんでこんな話を始めたかというと俺の武具も一見すると装備そのものが溶け込んだように見えるが、それによる質量の増大が見られない、それと同様に重さを変化させるときも物理的に増えたり減ったりする訳でもなく降って湧いたかのように重量が変化する。そういう魔法効果を付与されている。とは聞いたが俺の知る限り下の狂人の最高傑作たる聖剣でも数瞬間のタメや魔力などを流入させる等の外的な出力が必要だったのだ。
もしかすると、というよりはもしかしなくても厄ネタだろう。ダフネはなぜだかもう安定しているのでいいのだが…もしこいつの謎機能を王族やら貴族やらに知られれば面倒だろうが、一番厄介なのは学会や学閥所属の学士や魔法使いだろう。一般的な重量増減は土魔法による物質の変換や属性魔力の性質上のものだ。もしそうでない物があるとすれば、それは重力かはたまた次元な裏やらなんやらにより巨大な質量を隠しているかetc…残念ながらパッと思いつく限りでは時空間系の魔法やら異能やらが発動しているようにしか見えないし、考えられない、そうなれば知識欲という正義の名の下、金と時間と奇人変人の思いつく無限にも等しい魔法の数々が俺を追うだろう。
少なくとも、俺の知る限り真っ当な魔法使いというのは魔法を使う以外の真っ当さを失っているからなぁ…ちらりと謎多き実は記憶喪失系メイドを見る。
「どうかなさいましたか?」
「いや、一応こっちの索敵範囲には敵もいないし、街までの距離も縮まってきたんだけどいかんせん俺の魔力探知はいい加減だからね。
「ふむ…まぁ、まだ修行が必要でしょうね。ですがたしかに門まであと少しですね、周囲に敵影もないですし衛兵の巡回も多くなってきていますね。」
「あのギルマスがいうには今日の夜から明日にかけての間に水銀が帰還する可能性が高いだろう。それに向けて色々と用意があるんじゃないか?」
今は草原の街道をのっしのっしと獲物を抱えて歩いている。衛兵の視線は痛いが、彼らの動きも慌ただしい。持つ装備も常用の槍や剣に加えて夜間巡回用であろう魔道具のカンテラや術式の刻まれた鎧などになっている。
「…私が見た限り、あの吸血鬼の斬撃は並大抵のものではありませんでした。少なくとも装備を更新した今でも真正面から接敵すれば数秒もたたずに八つ裂きでしょう。まぁ、私が比較というのもアレですが、あの吸血鬼が並ではないのはわかっている筈でしょう。と、なれば水銀と名高い冒険者であっても流石に手傷を負うと考えているのでは?」
「うーむ、そんなものかね?」
この街にもうしばらくいるつもりではあるが、最近不穏なことに巻き込まれてばかりなためちょっとは目の前に転がる違和から何かを感じようとしてみるも2人してウンウンと悩むばかりだ。
すると、一瞬ダフネの魔力が揺らぐ。これは…アルカードだ。
「『我が同盟者よ、おそらくかの女は無疵だろう。』…今日は口数が多い。」
「へぇ、なんでだい?」
「『この私に言わせるのか?ククっ、まぁいい。私は我が主人の怪物性の化身に近いものであり、かの復讐に取り憑かれたバトラーは我が主人からその力を奪ったのだ。なれば私はどうなっているかな?』」
「まさかとは思いますが、ここからはるか彼方の戦いの様子が伺えるのですか。」
「『無論だ奇妙な女、実際には私が私である以上私と同じ力の振るわれる様は私にとって我がことのようにわかる。』…なんか、キモい。」
なかなか有用な力のように聞こえるが、本人はダフネの言葉に『キモッ!?き…きき…キモいか…そうか…』などと狼狽えており、今後その力を貸してくれるかどうかは微妙だろう。それに、彼女の怪物性が失われているのに衰えていないのは彼の所為だというのも判明した。つまり彼は彼女らの持つ、『吸血鬼』という力の『根元』に近い存在なのだろう。
結局、そのあとは何事もなく街へ戻れた。




