念願の鎧を手に入れたぞ?
見た目はサーコート、中にはきちんと騎士鎧まである。問題は…
「ホォー、ヘェー、なるほどネー。」
先ほどまでの素材を見る様な視線以上の粘着質な物が俺を舐る様に纏わり付く。
「…なんだ。」
「イヤァ、お見それしたヨ、キミィ…『魔人』だったんだぁネ。」
その瞬間ゾッとする様な魔力が放出される。そして…何より彼女の全身が淡く輝いた。それに共鳴する様に俺の右手の石が光る。『魔人』、確か彼女はそう言った。そして漠然とだがそれが何を意味するのか判る。つまるところあの騎士団長やおれと同類の人類種であるのにも関わらず魔石を持つイレギュラーの事だ。咄嗟に右手に魔力を込める。
ギャリギャリと膨大な魔力同士の波動が相殺し合う儀式魔法同士のぶつかり合いの様な音が響く。
どうなってんだ。これだけの魔力、普通に人体から放射されてれば感知できたはずだ。
ここで殺し合いでも始まるのかと思い更に魔力を練り上げるが彼女はニカっと笑って魔力を収めた。
「ハハ!なかなかの魔力だけド私のと違ってほぼ自前のだネェ。属性があるか、それとも時代が違いさえすれば立派な魔導師サマだったろうに。」
そう言って彼女は年相応に…歳?いや、待て、彼女の目が鋭くなった。この話題はやめておこう。
「はぁ…寿命が縮む様な思いだったよ。…何者なんだ。あんた。」
彼女はニヤリとして高らかに答える。
「鍛冶屋ダヨ。ちょっと長生きで、魔石持ちのネ。」
そう言っておれが使う予定の戦斧を片手で軽々と持ち上げて笑って見せる。なんだかすごく大雑把にはぐらかされたが…まぁいいか、諦めて戦斧を受け取るとこれもまた解ける様に防具へ取り込まれた。
俺たちが工房から出てくるとジェシカとダフネがいつの間にやら出されていたらしいお茶を飲んでいた。
「あ、終わったんですね。おめでとうございます。グラジオ。」
「おめー」
「あ、ああ?」
なにを祝われているんだおれは。
「ハッハー!そりゃ祝われるよグラジオ、なんせ君は真に竜を下したンだよ。」
…ああ、そういえばそんな風習もあったな。竜武具を身につけることができるという事は真の強者である。古代ではこれを成人の儀式にしていた部族もあるらしいなんて話も載っていた。そこまで考えが至ると俺はようやく自分が倒したものの強大さを理解できた気がした。
『ククク…まぁ、そうは言っても我はまだここにいる故な精々あがけよ?』
…なんか無駄に魔石の中の奴が騒いでる様な気もするが、気のせいってことにしておこう。
一頻り祝福を受け、俺もそれに正しく返したりしていると鍛冶屋が柏手を鳴らす。
「んじゃ、ワタシの作った限りの性能を説明するヨ。まぁ…あんまり意味はなさそうだけどネ。」
そう言って彼女はあくまで事務的に商品の説明を開始した。
「元は重鉄とマッドベア、それにワイバーンの複合重装だったケド竜素材と合わせて鍛造した結果重量を犠牲にバカみたいな物理防御力、それに加えて防御と肉体保護の魔法が発現した全身鎧と質量を自在に変化させる斧になっタ。筈だったんだけどネ…」
全員が俺を見る。俺も姿見を見る。
「たしかに鎧ではありますが…」
「騎士団の正装みたい。」
「少なくとも金属と竜素材で出来てはいるが全身鎧かと言われると…」
「斧もなんか取り込まれちゃってるしネ…」
軽くジェシカさんに小突いてもらったが、俺の魔法とは別に自動物理障壁が発生したし一瞬だが左腕に過剰強化を使用してもバキバキに折れたりする事なく普通に動かせた。
「とりあえずスペック通りの性能は最低限あるらしいな。」
「戦斧はどうなんですか?」
そう言われるとスッとやり方が浮かんでくる。魔力を少し必要とするようだが…自らの手に魔力を集め引き抜くような動作をすると鎧から染み出すように戦斧が出てきた。
身の丈を越すような大きさだがまるで手に吸い付くような馴染み具合だ。それに魔力を込めると質量の変更も可能と…
「…これ、貴族の館とかで武装解除を命じられても…」
「やめといたほうがいいとは思うけど出来るね。」
「ウーン、予想外すぎるネ。その鎧もどこかにまとめたり出来るダロ?」
それは流石に…いや、出来そうだな。魔力を行き渡らせ手に集中させると小手を残して全てが消え失せた。やろうと思えば指輪、チョーカー、サーコートだけ出したりも出来そうだな。
「もしかしなくてもアーティファクト級の代物では。」
『…フン』
「フーム、多分着用者の魔力が馬鹿げてたせいダネ、もしくは君が魔人だからカ…もしくは他に何かあるんだろうケド…よぐわがんネ。」
突然知能指数が低下し感じがしたが、まぁいいだろう。手札は多くて困ることはない、なんとなくだが魔石の中身の奴が不機嫌なので何か起きたんだろう。それが俺にとって面倒ではない類の変化であるのだからとりあえずは歓迎するべきだ。あ、そういえば。
「代金は?」
「先払いでいただいてるネ。ま、いいもの見せてもらったからいくらか謝礼を出してもいいケド?」
「いや、結構だ。」
「チェ」
言外に何かを要求されそうだ。とりあえず金の工面に奔走しなくてもいいのはよかった。だがとりあえず装備の試運転はするべきだろう。…少なくとも、今は余裕があるからな。
「んじゃ、外で魔物狩りでもしてくるよ。」
「ヘイ、まいどありがとネー。」
「というわけで街の外だな。」
「久々…ではないですね、私とダフネは何度か出ていますから。」
「うん、だけどそんなに奥に入ってない。」
火山の下敷きになるような形で存在する洞窟都市、その外は大雑把に二種類ある。
一つは俺たちがいる洞窟の外側、都市の裏と正面にある門から出た荒野。もう一つは廃鉱山や鉱山、それに天然洞窟がひしめく洞窟都市の地下だ。もちろんどちらの生態も興味深いが…今は手っ取り早く腕試しがしたい、そうなると閉鎖された生態系である洞窟よりも多様な魔物や動物のいる荒野の方が良かったのだ。
「ふむ、荒野ってよりは草原のように見えるけど…あ、奥でなんか燃えてるな。」
「ウィルオブファイア、炎の生霊ですね、この辺りは火山のせいで魔力傾向が偏っているので自然発火もそうですが火属性の魔法生物や魔力生物が多く生息しており、森や草原が一瞬で更地になるのも珍しくないらしいですね。」
「なるほどなぁ。」
大まかな話を聞きながら本当に久々に斧の型を繰り出す。イヤー、まじで、俺メインウェポン戦斧なのに今まで武器らしいものを持ってなかったとかまじ蛮族すぎない?あれ?けど苦戦した覚えが…いや死ぬほどあるわ。まじ武器手に入って助かったわ。
そんな思いとは裏腹に体というのは案外覚えているものらしい、むしろキレが出た。
「んじゃま、ちょっとやってみっかな。」
戦斧を出し近くの魔物を見繕う。…ジェシカさんが。
「相変わらず放出は点でダメですね…」
「面目ない…」
魔石を持つ生物は魔力をそこから取り出すまで魔力の気配が薄くなる。勿論竜のような存在は例外だが、微小な魔石しか持たない動物が変化した物は感知しづらいのだ。投石でウサギを数羽仕留めたりはするが俺の放出する魔力で大帝の魔物が逃げているようだ。彼女の渋い顔でわかる。
「うーん、よし、ちょっとジェシカさん索敵引っ込めて。」
「?はい、かしこまりました。」
というわけでちょっと強引に魔物を釣りだそう。俺は魔力の放出を最低限にし訓練がてら広げていた俺の領域を縮小しいつものサイズにする。そのあとその辺の石ころを…俺はそこまできて自らの斧を見る。俺は魔力を斧へと込めてその魔力をさらに刃の部分に収束させていく。所謂魔力撃だが…
「ッハぁ!」
ランスロットさんの薫陶とデイダラさんの基礎、程よく魔力で強化された身体能力で放たれた横薙ぎは扇状の光波を生み出し草原の草を刈り飛ばし、目線の先にあった森の木々を目に見えるレベルで削り飛ばして消滅した。
「『飛斬』ですね、しかしまぁ戦斧を持つのはかなり久しぶりのはずですが、見事です。」
うむ、手足に魔力を収束させるのは実は結構危険だし、魔法も載せられないから威力がイマイチなのだが、やはり文明の力は素晴らしいな!
「…人間?」
「…まぁ、武技宣誓無しでかつ魔力による強化も最低限ですから人間かと言われるとグラジオとしか言えませんね。」
…あれ、おかしいな、視界が水っぽいぞ〜




