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竜鎧


「…えぇ…」

「…本当にここか?」

「…独創的?」

道中温泉街らしい屋台や竜武器生産地らしい質の良い武具の数々を見てきたが、その店は明らかに異質だった。少なくともダフネとジェシカさんが押し黙るくらいには異様な雰囲気を醸し出していた。

まず外装がおかしい、他の店や家がほとんど長方形の滑らかな石の様な格好なのに対し、その外装には竜の骨、鱗、牙、あらゆる竜の部位が入り込んでおり、工房自体も巨大な炉の様な格好をしている。端的に言うならば…生物部品でできた巨大な塔の様な建物だった。幸い、腐臭などはしないため加工技術や処理技術は凄まじいのだろうが、それにしたって凄まじい建物だ。少なくとも普通に装備を持ち込むんだったらここ以外を選びたい、というかここを最初に選ぶという選択肢を俺は選べないだろう。

…だが、装備はここに預けられてしまっているらしいし、入るしかないんだろう。というか俺、原型も見てないんだけど前衛的な現代アートみたいになってないだろうか?真面目に心配になってきた。

だが、いつまでもここでまごついていても仕方あるまい、呼び鈴があったのでそれを鳴らすと意外にもすぐに反応があった。

『はいはーい!』

くぐもってはいるが快活そうな声だ。どうやら女性らしいというのもわかる。だがどんな人物が出てきたとしても第一印象であるこの建物から出てくるのだ。悪いやつではないかもしれないがマトモかどうかは怪しいだろう。ドタバタという慌ただしい足音となにかの爆発音などが暫く続き…

「…あ、いらっしゃいませ〜」

「あ、ああ。」

「黒い。」

「新しいタイプの接客法ですね…」

凄く申し訳なさそうに出てきたそれは煤やら触媒の塵やらで影の様に黒くなったドワーフの女性っぽいナニカだった。


「いヤァースイマセン、ホントひさびさに外の出たんで自分の格好を考えてませんでした〜」

ドワーフは金属に近い若しくは金属そのものともいえる強靭な肉体を持つ種族で、彼らの生み出す作品はどれも素晴らしい武具として広く知られている。

それを考えて目の前のようやく人らしく見える様になった女性を見る。さてはて、一見ドワーフにある金属的特徴を右腕に備えている様に見える。だが…

「失礼かもしれないが。その右腕、義肢だろうか?」

「ありゃ、気づかれちゃいました?」

…噂程度には聞いたことがあった。

「これね〜ある武器を鍛造するのに使っちゃったんですよね〜」

「!?どうして。」

想像もしなかった答えにダフネは思わず声を上げる。だがこれは彼女らドワーフの性、いや、病気に近い。

「いやぁ、どうしてっていってもネェ?人生で一度出会えるかどうかって言う機会に自分の持てる全てを注ぐのは当たり前でしょォ?」

例えば、それは龍には劣るが純粋な幻想種である竜王の素材だったり、幾星霜の果てにひとかけら現れると言うアダマンチウム、そしてこの世界に既に四体しかいない龍だったり、そうしたもはや人間の手に負えない素材を扱う時その触媒として最も強力に働くのが彼らの体に生まれる金属であり、彼らの骨格を支える『骨』『肉』である。

理解不能と言った風情の彼女をよそに俺とジェシカは別の意味で戦慄していた。

ドワーフ、隻腕、女性、ここまで揃っていてわからない奴はいないだろう。彼女は『聖剣』の作成者、人類種の到達しうる最高とまで称えられた鍛冶屋の1人。『狂人』バニヤンだ。


「アア!まずは名乗りですね、申し遅れました。バニヤンです。どうぞよしなに。」

「俺は、今回預けた武器と防具の使用予定者、グラジオだ。」

「私はローブなどを預けたジェシカです。」

「……ダフネ。」

四者四様、だが少なくとも俺は彼女の目、その異様さにたじろいでいた。

「はい、はい…うーん。ジェシカさんのはできてます。そこの坊やのは…ちょっと、イヤァかなり弄らないとダメだね。うん。あの効率厨が本当に私にただの竜武器作成を依頼してきたとは思わなかったけど、思った以上のナマモノだね、キミ。どう?武器素材とかに就職しない?」

「残念ながら自分の体を削った武器を見て喜ぶ様な性癖は持ち合わせてないんでね。遠慮しておくよ。」

だからできれば舌舐めずりをやめてくれ、自分が妙ちきりんなのは重々承知しているがそれでも『素材』など願い下げだ。と言うかそもそもどう使うつもりだこの狂人。

「ありゃりゃ、振られちゃったネェ。んま、しょうがないね。自分の一部を使って装備を作るなんて狂気の沙汰、少なくとも武器を振るうこともなく済んで来た坊ちゃんにはいらない相談だったネ。」

彼女はそう言って残念そうに立ち上がると装備を取りに行った。しかしなんだか引っかかる言い方をしてきたな。魔法や奇跡触媒じゃあるまいし生物の一部しかも偉人やら怪物やらのそれではなくて自分自身を使うなど普通にメリットがないだろう。多少魔力が馴染みやすくなる程度なら血を数滴垂らすだけでも十分だと聞くし、そもそも使っているうちに馴染んでいく。

「…『素材』ね。」

「鍛冶屋…というよりドワーフというのは誰も彼もああいう感じでは無いと思うのですが。」

いや、ジェシカさん自分の常識を疑わないで、普通に普通はああいう感じでは無いし外のドワーフも鍛冶に関わる人もポンと『ちょっと体削ってかない?』的なセリフ言わないから。まぁ、作った物に誇りと執念めいたものを感じる人は居るだろうが『聖剣』の様な気狂じみた妄念の塊を作れる人物と比べちゃいけない。

「ジェシカ、それ世界の終わり。」

「…まぁ、そうですよね。すいませんちょっとあてられてしまいました。」

そんな話をしていると奥の方からローブや短剣と言ったジェシカさん用の装備を持った女主人がニヤニヤしながら出てきた。

「この店狭いんだから聞こえてるヨォ?だーれが気狂いだって〜?」

「すまない気違いの言い間違いだった。」

「なんの訂正にもなってネェ!が、まぁそうだ。だが『聖剣』の時も、そしてこれからも祖先たる火の神と鉄の神に恥じる様な行いをするだけサ。ホイよ、これがジェシカの分、土魔法使いで剣士なんだっていうから魔法使いのローブとしての機能を最低限にまぁまぁの防御力を付加してあるヨ。」

それは一見ただの剣士魔法使い用ローブの様に見えたが、布のように見える素材は劣竜の鱗を特殊な加工によって糸の様に紡ぎソレを布の様に鍛造した物で、要所要所に劣竜革、鱗、角などが散りばめられている。しかも触媒として作用する金属群による手足及び急所の保護が行われており、恐らく軽く魔力を通すだけで肉体の金属化以上の防御力を発揮してくれるだろう。そしてソレは暗器としても活用できるだろう。ローブだけでも十分な出来栄えだがその技量、美しいとさえ思える技巧の数々はブーツや手袋、細かな装飾品やポーチなどのその隅々まで行き渡っている。

「ほぅ…」

「凄いものだな…俺の装備にも期待してしまう。」

だが…

「黒竜の素材はどうしたんだ?」

「んむ、この装備には最低限しか仕込んで無い、劣竜と黒竜で9.9:0.1くらいだね、残念ながら魔法使いの装備に使うには魔力の抵抗が強すぎてネェ。てか竜素材は基本的に『倒した本人』以外をほとんど受け付けないノサ十分だと思うけどネ?」

なるほど、納得だ。てか改めて考えると魂だけになっても俺を殺さんとしてきた奴の肉体だものな、真っ向から敗北を叩きつけ屈服させなければ殺されたことすら認めない。竜とはそういう生物なのだろう。

「んで…グラジオくんのなんだけど…ちょっと奥にきてくれないかイ?」

「ああ、しかし調整ってのはそんなにすぐ済むのか?」

新しい装備に歓喜するジェシカさんとむくれ気味なダフネを横目に奥へと通される俺、奇抜な外観からは想像もできない普通の工房振りに逆に驚くが今はそれより自分のまだ見ぬ装備に対するワクワク感が勝っていた。

「ウーン、ソレは君次第だネェ。」

そう言って布を取り払う。

ソレは鎧というにはあまりにも大き過ぎた。板金は厚く。重く。ヒトが着るにはあまりにも荒削りだった。

「これは『竜鎧』竜の死体から直接鍛造した所有者に合わせて変化する魔道具であり鎧サ。」

そう言って彼女はナイフを取り出した。

「この類の鎧は作り出すは易く、しかし着こなすは難いモノさ。そこで君には幾らか血を流してもらう。奴隷契約をはじめとして魔法と魔力と契約には『血』が1番の触媒となるのサ。」

「つまり、血と魔力を使ってこの鎧を屈服させろってことか。」

俺がそういうと彼女は頷く。

「竜武具ってのは簡素な物でも、たとえソレが爪先の一欠けでも持ち主を試してくる。そしてそんな物の全身鎧やら戦斧やらを持つなら必ずその手で竜を殺せなければいけないんだヨ。」

『竜はその素材となっても自らを打ち倒したものしか認めない』…か。そんなわけあるかと本を読んだ時は思ったが実際に相対して、そしてあんな目にあってようやく事実だと認識できる現実だ。

俺はナイフを受け取り、指先から血を出すと鎧に垂らした。

ザワっ…

「ヘェ〜、凄い反応だ。てかまじでそんな見た目で竜殺し様なんだネェ〜」

「信じてなかったのかよ。」

血に反応して鎧がざわつく。鱗や骨や皮や牙で出来た鎧の形をした死骸とでもいうべきソレはそんな状態でも魔力を放射し俺にぶつけてくる。そして俺はソレを真正面から叩き伏せる。

魔力同士のぶつかり合いで大気が叫ぶ様な奇妙な音が発生するがバニヤンはニコニコしながらソレを聞く。

流石は伝説の鍛冶屋と言ったところだろうか、魔力の放出自体が不向きなのも相まって冷や汗と疲労感が吹き出す俺から見れば吹き荒れる魔力を何事もなく受け流すその姿は異様である。



どれくらいの間やっていただろうか。主観ではもう1時間は経っている様な気がするが、かなり深く集中しないと魔力を放射するのは難しいため自分と外では時間の感じ方が違うだろう。

『フン…まぁいいだろう、あのメスの時の様に鎧で襲いかかってやろうとも思ったがこの不快な場所でやってやるのは興が乗らん。運が良かったな、羽虫。』

頭にそんな声が響くと鎧は崩壊した。

「は?」

「え゛」

正確に言い直すと鎧は崩れ、その形を失い黒い球の様に圧縮された。

空気が凍る。

「えぇ…?どうなってるんだ。」

「イヤァ…見たことない、というか見たくもない現象サ。まさか私の作品が壊れるなんて…」

だがそこからが本番だった。鎧からただの黒い塊の様になってしまったとかと思われたがぬるりと俺の体に吸い付き気がつけば黒いサーコートの様な物になっていた。唖然とする俺と彼女だが俺の方が少し早く我に帰り、少し戯ける。

「…どうやらなんとかなったらしい。」

「えぇ…お前さんまじで素材のバイトしないカ?」

ソレは本当に遠慮したい。

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