表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/129

あまりに電撃的


日の光、柔らかなベッド、澄んだ空気に混じる硫黄の香り、金属を叩くような音とわずかに聞こえる活気ある声…

「クォクォハ…」

まったくもって見たことがない部屋、そしてまたもや動かない体、見れば馬鹿みたいに包帯が巻いてある。障壁を展開して精査するがどうやら治っている。時間経過は不明だが包帯の下の湿布のような物や高価そうな呪符の類から察するにそう長くは寝てないんじゃないかなと楽観的な考えを浮かべるが例えそうだとしても共和国の南部にあるという『ドヴェルグ』とやらが何処にあるかもよくわかっていないのだ。

「さっさと起きなけないとな。」

呪符と湿布を剥がさないように包帯を外そうとするがあまりにギチギチに巻かれた包帯はもはや拘束具めいた強度でなかなか外れない。しょうがないので久しぶりに、しかも一瞬だけ魔石刃を励起し手の包帯を断ち切り手を振るとバラバラと解けていく。

「はぁ…よし。」

解けると漸く体を起こせるようになり、全身の包帯が取れればもう立ち上がれた。しかしながら何故俺はこんなところに…それにジェシカさんとダフネは…そう思って周りを見回そうとすると半開きになった扉の先の視線とかち合った。

「ほぁ」

「?」

背丈は俺と同じか少し低いか、声はまだまだ中性的だが此処の娘なのだろうよく通る。それでいて可愛らしさを押し出すような声だ。だが様子がおかしい。恐らく病人扱いだっただろう俺が立ち上がっているのに誰かを呼びにいくでもなく。さりとてこちらを伺うだけで動こうともしない。

「あー、お嬢さんは此処の「ほぎゅっ!?おとー!!」…えぇ…」

一体さっきまでは何を考えていたのだろうか。そして俺はどうすればいいのか。行き場なく伸ばされた俺の手が虚しく空を切り、俺以外の住人も居るであろうこの生活感のある寝室でただ1人というあんまりな状況が解消されたのは数分後の事だった。




「今回は短いお休みでしたね。」

「ああ、まぁ戦闘が原因じゃないしな。」

「……」

さて、目の前におわしますはこの宿屋兼飲み屋というあまりに一般的な形態を取る温泉街『ドヴェルグ』の宿、トマリギの給餌服に身を包んだジェシカさんとダフネ。両方に共通するのはそこだけでは無い。

「それで。なんで私たちはこんなとこまで飛んでくるハメになったんですか?」

「…流石に、説明が欲しい。こんなところじゃ自殺もできない。…あ、それが目的?」

そんな怒らないで欲しい、いや怒るのは当たり前かもしれないが俺も状況を飲み込めていないのだ。そしてダフネ、残念ながら俺にそのような考えはない。

まぁ、想像はできる。恐らくだがクリスは最短で俺たちをドヴェルグへ送るため完璧な力加減と方向で殴り飛ばしたんだろう。まったくもって最上位の冒険者と言うのは恐ろしい。そんなダイスがクリティカルでもしなければ起こらないような奇跡を平然と固定値の中でやって退ける。

「あー、とりあえず冒険者ギルドに向かわせてくれないか?あと俺も全然わかってないから寝てた間の事を教えてくれるとありがたい。」

というか教えてもらわないと説明もクソもない。

俺がそういうとジェシカさんはため息をつき、ダフネは無表情ながらうっすらと放つ風の魔力で障壁を削ってくる。はて、本当に何が起きているんだろうか。

「わかりました。とりあえず此処の店主に少し時間をもらいます。」



久方ぶりに見る彼女の給仕姿はやはり様になっていたがそれ以上に見慣れてしまった怒りの表情に俺はたじろぐ。そしてなんの疑問もなかったが、あの問答無用で自殺を試みていたダフネがあくまで普通に生活している。

…おれ、今度は早く起きたと思ったんだけどな?

「おい…あいつらしいぜ、この宿の看板娘の待ち人ってやつはよ」

「ゲェ、まじかよ、てかアレ男除けの口実じゃねぇのか…っても、ガキか子持ちって感じでもねぇし何なんだろうな?」

テーブルに座り周囲の人がこぼす言葉に少々辟易しながら待っているとすっかり魔法使いの冒険者らしい格好になったジェシカと平民服を着こなしたダフネがやって来た。男共の戯言はその看板娘の登場で打ち切られたが、今度はどうにも無粋な視線が彼女らに向く。あまりに稚拙な気配の殺し方、ゴブリンでももっとマシな技術を持ってる。手慰みに魔力を調律し不躾な野郎共の周りにだけ魔力を集中させると瞬く間に酒場は静寂に包まれた。

「貴方は寝て起きても強くなるのですね…まぁ、好都合といえば好都合ですけど。」

「…アルカード、起きてる?『あぁ、勿論だ我が主人。』そ、『ちなみに自殺は不可能だ。あの小僧っ子の力が多少衰えたところで怪物性のほぼ全てを持っていかれた主人どのでは太刀打ちできまい?』…ッチ。」

何は起きているのかわからないと言った風情の冒険者を尻目に、ついでに背後から罵倒というか何か圧を感じながら店を出る。


そこに広がっていたのはおれの知る限り、という注釈はつくがいわゆる日本人が想像する温泉街とはいささか風情の違う景色だった。

それは例えば燃え盛る樹であったり、或いはマグマの様にも見える高熱を放つ物体を鷲掴み金床と槌でもって加工する半裸の鍛治士であったり、そして内側の木張りから想像もできなかった無機質にも見える岩窟の群れであったりした。

呆気にとられるおれをジェシカさんはヒョイと持ち上げ慣れた足取りでギルドがあるらしい場所へ向かう。

「お上りさんしている場合じゃないですよグラジオ、ちょっとはシャキッとしてください。」

「あ、ああ…」

この巨大な洞窟とも呼べる空間は幾つもの未知の光源で満たされており、磨りガラスのように不透明なガラス窓から見えた景色からは此処が穴ぐらであるなど想像もできなかった。

だが流石共和国南部最大の都市、人は途切れず物資を運ぶ荷車は絶えない。

二足歩行の蜥蜴のようなこれまたファンタジーさ溢れる生物に心奪われているうちに目的地についたらしい。

「はぁ、言っておきますが別に慣れた足つきだったのはここに通っていたとかそういうわけじゃないですよ。そもそもここのギルドマスターから直々に貴方が起きるまで来てはいけないと念押しされていましたからね。」

「…グラジオ、貴方、1ヶ月も寝ていた。『寝る子は育つというが、身長に変化がないあたり根拠のない言い伝えなのだろうな、クハハ!』…私の口で私が言おうとした皮肉を言うのをやめて、アルカード。」

なんかもう箱入り吸血鬼娘から毒舌自殺志願者(副音声付き)とかキャラがぶれ過ぎてんよ…俺はヌルッと腕から抜け出し扉を開ける。

「ようこそ『岩窟都市ドヴェルグ』へ、放浪者。君たちを歓迎しよう。」

「な!?」

そこにいたのは小人、しかもただの小人ではない。いや、まさか。

「クリス…さん?」

「いいえ、私はここのギルドマスター、ああ、誤解がない様に言っておくけどあの超越級冒険者が私に似てるんじゃなくて、私が彼女に似てるんでもない。『私達はだいたい同じような顔立ちなのだよ』勿論、男女差はあるがね。」

その微妙に中性的でありながら女性を感じさせる話し方もあの恐るべき遺構探索者にそっくりだ。

「まぁまぁ、上がりなよ『グラジオくん』成功も失敗もしていないキミの話を聞かせておくれ?」

…一体、なんなんだ?彼女は何をどうしてどこまで知ってて俺が来るのを待っていたんだ?ジェシカさんの驚愕から彼女もそしてあまりに無関心なダフネも俺の名前を彼女に伝えていないのはわかる。だがそれくらいは調べられているだろうと想定はしていた。だが「成功も失敗もしていない」、これがわからない。あの念話めいた会話でもたらされた情報であるはずのその一文をどう導き出したのか、それは何か彼女と『彼女』があまりに似ているのと関係があるんだろうか?

俺の中で様々な疑念や疑問が湧き出るが…とりあえず依頼を果たそう。あぁ…紙が欲しいなんでもいいからノートにまとめて整理したい。頭痛が痛いとはまさにこれだろう。わからん殺しここに極まる。

「ま、ここでするのはアレだね、上の応接室まで上がってもらうかな。」

「あ、ああ…」

今度は驚きではなく思考のショートによって吐き出されたあまりに曖昧な音は、あまりに間抜けで自分でも失笑ものの返事だ。まるであの酒場の男共を笑えない不甲斐なさに苛まれる前に、俺は俺のなすべきことをしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ