静寂と赤の街
申し訳無い…誠に申し訳ない…許して…ください!
謝ったのでとりあえず投稿
兵士、冒険者、騎士、商人、市民、その他諸々…
「酷いな。」
「ええ。」
地獄が何処にあるかと問われればそれは此処だろう。
死と恐怖の濁流が血という形で可視化され、赤という色で持って彩られていた。
魔力障壁越しにしか色を感じなくなった右目で今の光景を見ることはできないが恐らく白と黒で見えたとしてもその凄惨さは変わらないだろう。
領主館を中心にまるで景色がズレたかの様に周囲が斬り飛ばされているが、それと死体は関係無い。この状況を引き起こした原因は…
「あぁぁああぁあ…」
「ゔぉああああぁ…」
吸血鬼の血、その血に宿る魔性が歪に引き出された怪物であり人から魔物へ堕ちたモノ。この世界で広く知られる吸血鬼の発生源。
「食屍鬼、グール。腐乱死体と違い魔力ではなく体液で広がる厄災…ゾンビより希少なアンデッドを見ることになるとはね。」
「恐らくあの老人の仕業では無いでしょう。あの老人の血では人の身が耐えられない。」
あの老人には目的がある。目的以外の殺しはしない、素面で魔性を従える精神力は素晴らしい物のはずだがどうしてこんな凶行へ及んだのか。最早それを問う事も出来ない。
今の問題はこの惨状を生み出した原因とそれへの対処。ぶっちゃけ今すぐにでも逃げ出したいくらいだし、眷属ではなく怪物に作り替えられたグールを元に戻す技術もない。だが…いや。
「この街に教会ってあったっけ?」
「確かあったはずですが…私も貴方様も指名手配されていた筈です。対アンデッド用の装備があるかもしれませんが…」
「いや、別にオレ達が避難するわけでも火事場泥棒する訳でもないよ。人が集まるとしたらそこかなって話。」
恐らくだがアレは単純なのだ。俺が最強を目指すのと同じかそれ以上にシンプルな目的のために力を求め眷属と成り下がり吸血鬼へと成り上がった。
ならばあの歳で、いや逆かあの年になってまで頑なに想い続けた物はなんだ。
憧れ?
違う。恐らくもっと恐ろしい、負の感情かそれに近いモノだ。だがその一途さを信じるならばアレは化け物と成った今でも彼の信じるものの為に余計な事をするだろう。問題はそこに彼が力を求めた元凶が現れた時どうするかが未知数という事。
だがどうやらこの街の住人は運が良かったらしい。
領主館から始まる大通りその一角から巻き上がる血煙、壁と結界に覆われた教会らしき場所に群がるグールが凄まじい勢いで肉塊を通り越して紅い煙に変えられていた。何者かまではわからないが守るために力を振るえる誰かがそこにはいた。
「…とりあえず教会を防衛するようなことはしなくて良さそうだ。」
「その様ですが…どうするつもりなんですか?」
第一に自らの安全、第二に人命、時たら第三は約束だ。まぁ、結局自分勝手な優先順位だが保守的で自己中心的な順位だろう。
「とりあえずクリスと合流しよう。今更だけどね。」
「…そういえば私達ギルドの内部監査依頼を受けていたんでしたね…忘れてましたよ。」
忘れんなよ…いや、まぁ俺もそんな真面目な理由で言ってるわけじゃない、それにどちらかと言えば俺の提案はあの教会にこもっている人々と一緒だ。俺とジェシカだけでは贋作の真祖吸血鬼になったであろう怪物に打ちあったったとき幸運に恵まれて倒せたとしても『彼女』が目覚めれば止められないし負ければ今度こそどうなるかわからない。俺達が死ぬのも嫌だし考えた通りの人物だとすれば『彼女』だけが持つアルカードという存在と微かに残る怪物性すらも糧にしかねない、いやするはずだ。
だが冒険者として高みにあり、魔法使いとして高位であろう彼女ならば…もしかすれば吸血鬼化の解除やグールの治療すら可能なロストマジックを持っているかもしれない。救うとほざいて他力本願この上ないが別に俺は自己中心的に彼女を救えればいいだけだ。感謝も、何もいらない、ただ単に今という現実に勝手に絶望し切ってしまっている彼女が誰かに似ていて、それがどうしようもなく苛立つからこうしている。
そう、そう割り切ったはずだ。
「ひどいエゴイストだな、貴様は。」
路地に入った途端に彼女の口が開く。ジェシカさんはギョッとするが俺が手で制す。だが視線は鋭く魔力はうねる。
「何者ですか。」
「貴様に答える名などない、同盟者を利用せんとする女狐となれば…いや、根本が歪んだ相手には言葉も無用か。」
「無礼ですね、殺していいですか?」
何故に彼女らは仲が悪いんだ。まだこれが初会話だろ。
「ふっ…我が主人を救わんとする者よ、貴様が思い浮かべた人物を頼るのはやめたほうがいいぞ。」
「なんでだ。まさか吸血鬼としての特性を破壊できる可能性があるからか?」
もしそうならむしろ向かっていく。だがコイツは面白そうに笑い今にも飛びかかりそうなジェシカを意にも介さず喋る。
「いいや、我が主人のそれをどうこう出来るモノがこの世にあることはあり得ない。これは忠告だ。今からでも引き返したほうがいいだろう。」
「グラジオ様、貴方様の判断に私はある程度従いますが、この口先だけがうまそうな何某かの言葉に従うのは嫌ですよ?」
短剣を手に俺を伺う彼女の様子に呆れてか、それとも諦めたのかアルカードはその気配を霧散させる。
「『引き返したほうがいいだろう』ね。」
「グラジオ様?」
「いや、彼女の中にいる奴の言葉にしては弱気だと思ってね。」
彼女の外で出会った彼は弱気な青年といった風情だった。しかし吸血鬼として暴走した彼女の従える彼は横暴な嵐そのもので、彼女の中にいる奴はどこまでも見通すようなそれでいて冷静すぎる様な人格だった。
「多重人格極まっているし、何が正しいのかもわからないが奴がこちらに選択肢を与えるという事自体に違和感がある。」
そう結論付けたが俺と彼女は既に目的地のある筈の商店街に飛び出していた。いや。
「グラジオっ!」
「んぐぅ!?」
それはあまりに場にそぐわない美しさでもって煌めいた。
鋭いジェシカの叫びと共に襟首を掴まれ、飛び出しかけた俺は恐らく魔法が発動したのだろう金属の擦れるような不快な音と共に柔らかい物に包まれ、視界の明滅、路地裏に投げ飛ばされる。そこから瞬きの間に路地は平地になっていた。
『素晴らしい!これが吸血鬼!これが四怪!この世の始まりよりありし呪いの一端か!!』
「はぁ…危なかったねぇ危うく君たちまで切り裂くところだったよ。」
余裕綽綽と言った風情で煙管を片手に持った彼女が目の前にいた。
そしてその目の前には余りに美しい獣がいた。




