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幕間:護国棄却の血闘鬼


「くはっ!くははははははははっ!」

素晴らしい素晴らしい素晴らしい!不死の化け物に相応しい魔力!恐怖の象徴に相応しい異能!過去此の家が捕らえその血を媒介に身に宿した吸血鬼とは此処までのものだったのか!


黒髪混じりの灰色といった風情だった髪は白く。しかし老いさらばえた物ではなくそれはむしろその偉丈夫に相応しいものとなっていく。

「想定以上、考えうる限り最高だっ!」

ウィンター家当主に取り入り従僕となった時は肉体の保持、限定的な不老と再生能力こそあったが儀式によって得た原初の吸血鬼に近い力は肉体を最盛期に、そしてあらゆるすべてを異常なまでに向上させた。


かつて護国の剣、魔法王国唯一の無属性騎士団長と呼ばれていた最盛期の肉体は無駄な物を削ぎ落とされた剣の様。だがそれだけではない、不死の血吸血鬼としてふさわしい美しさと恐ろしさの調和は1人の人間だったモノを大理石で彫られた英雄像の様相に。


肉体年齢25歳、技量は神域、その精神性は悪鬼そのもの。


国に剣を捧げその国に裏切られそれでもなお国難を引き起こした仇敵を追うその姿は最初から人のモノを逸脱していた。

「セバス!一体何が…」

開け放たれた扉。

流石に先刻までの揺れや地盤崩壊は上の階にも伝わっていたらしい。そして何より自らの最も強力な従僕たる執事との契約が途切れたのに慌てたアルベルトは忌々しい娘を閉じ込めた独房にまで降りてきたのだ。

「ああ…旦那様。」

しかし、ソレがその男の失敗だった。

美として完成された姿は男女問わずソレを直視したモノを強張らせる。ましてやソレが最高級の吸血鬼先祖返り、その力を簒奪したモノであれば生半な精神では耐えられない。


だが、男の心はソレに見惚れるのではなく憤怒に燃えた。

「貴様ぁ!奪ったな!?」

「ええ、頂戴いたしました。」

自らの娘を殺された風を装い戦端を開き、戦場である此の町で収集した命と娘に宿った先祖返りの力を利用し自らが行おうとしていた儀式。

そもそも彼は自分に娘が殺せない事も、あの強力な不死性を撃ち破るための策が此の家に伝わる秘術にしかないと知っていた。知っていて利用していた。それは最後の最後にしぼりつくしそのすべてをお我が物とする為だった。

『最もその血の力が強い者が当主になる』

ならば私が奴の血を奪えば良い。


そのために準備しそのために不死性の剥奪をする事なく心を壊し続けて反抗させる気をなくし飼い殺してきたのだ。

ただその血に宿った魔性を強化する為の道具として、素材としてのみ彼女に価値を見出していた。

それを、たかが使用人に、自らが従僕としたはずの男に掠め取られたのだ。

「おお!おおおおおおおおおお!!!」

激情が魔力を吹き荒らし様々な音となり、波となり、空間そのものを震わす振動と成った。それは怒りであり、歓喜であり、殺意そのものとなって真性の吸血鬼へと近づいた男へ振るわれる。

『死ね!死ね死ね死ね死ね死ね!!あの娘の代わりに貴様を殺しその精神すら消しとばし再び贄にしてくれるっ!!』

逃げ場のない震える空間による圧殺。アルベルトは吸血鬼として完成されているとは言い難いがその不死性を必要なだけ引き出すことはできる。魔力の過剰消費で砕ける魔力路を怒りによって痛みを消し不死性によって再生する。

ギリギリと引き絞った指を鳴らし魔力と音による自己暗示を発動。

破壊は起こらない、ただ空間ごと圧搾する。

風魔法の真価である拡散と収束。風とは空間に満ちる大気そのもの、その揺らぎを増幅しその波の生む力が及ぶ範囲を徐々に収束する。魔法使いであり魔性の血を持つ男の最高火力。それを受けたモノは一つの例外もなく消…

「温い。」

緩やかにただ上から下に振り下ろされただけの様にも見える一撃。

だが戦場において磨かれ年月によって練り上げられたその技量と吸血鬼として手に入れた身体能力、多少のズレはあれどそのすべてをほぼ把握した男の斬撃だ。

空間そのものが歪み男の肩口に切れ込みが入る。

「ぐあ!?」

「空間を切るなど…魔法でなければできない、そう諦めていたが。」

その口端は三日月の様に歪められる。

「人を辞めるとはこういう事なのだな。」

一閃。

最早吸血鬼としてほぼ完成されたセバスを前に男はあまりに脆弱だった。

「あ?」

「さらば元主君よ。いや…仮初の止まり木にすぎないか。」

男は霧となって消えた。

そこに残るは不死性の有無など関係なく切り刻まれた蠢く肉塊のみだった。

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