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間話2


「ドラキュラ、いや、それは今の伝承にはないか。簡潔に鬼の系譜小鬼から始まったわけではないがその名が付く魔物は大抵人に似ていて人を辞めている。」

月下、妖しい明かりの差し込む人気のない街の中で少女の様なそれは腰をかけていた。

それはそれは絵になる光景に違いなかった。まるで妖精の様な麗しくも幼い姿の彼女、しかし纏う色香や艶やかな髪、仕草は妙齢の魔女。月光を浴びて輝く闇精霊とでも言うべきか。

最もその絵を著しく崩壊させている要因さえなければ。の話だ。

「超一線級の遺跡探索者であり、この世界における魔術の祖。いやはや驚きましたぞ。貴女様にこうして逢えるなど…思ってもいませんでした。」

「監査長…このジジィ…危険すぎぷぎゅ!」

そこにいた招かれざる客は見た目こそ痩せ形で如何にも好好爺的な顔をした老紳士。しかし今し方片手で成人男性を釣り上げあまつさえその頭蓋を握力のみで粉砕。とても人間のなせる技ではなく、また技ですらない。

「ふーむ。ああ、坊やか。大戦の時以来じゃないか見たところ元気そうじゃないか。」

紫煙をくゆらせそう言って腰掛けに深く坐り脚すら組み始めた彼女に一切の揺らぎはない。

それもそうだろう。彼女のは暗部。監査機関でありギルドの闇を担う長命種、1人2人…いや100人200人目の前で殺されたとしても彼女には届かない。それは彼女が無頓着だからか、それとも何か別の問題かはさておきあまりに無感情な女に紳士は顔を歪める。

「…貴様、私を覚えていて、それでいてなおその様な舐めた態度をとっているのか?」

「違うさ。お前なんてどうでもいいからそれらしく振る舞っているだけ。」


瞬間。大気が爆ぜた。

「あらまぁ、怖いねぇ最近の若者は。」

レイピアを抜き放った老紳士は憤怒の表情で先ほどまで100mはあった距離を一気に詰め彼女に肉薄していた。それは確実に彼女の頭蓋を貫き、殺すに値する筈だった。

「貴様っ!」

しかし彼女は涼しげな態度のまま煙管の膨らみでレイピアを受けていた。言うまでもなく。彼女の煙管はただの装飾された真鍮製のパイプに過ぎない。対して紳士の刺剣は現在人類が加工しうる最強の素材である竜骨の剣、真鍮製は愚か伝説級の鉱物にすら傷を付ける様な代物だ。

だがしかし…

「それは『俺』に届かない。」

シャランと言う美しい金属音がすると同時にか細い流星が老紳士の腕と身体を切り刻む。

「くぅっ!」

「はぁ…ダメダメダメダメ全然ダメだ。不死身に任せて今日3回も奇襲してきて出来たことは監査官1人殺しただけ。まるで意味がないぞセバス。」

たった二度、たった二回手を振っただけで相手の首以外をミンチに変えた女は男勝りな口調で呆れ、勝ち誇り、馬鹿にしながら首を蹴飛ばした。

「グ…っくは!やはり貴女は素晴らしい!いつかこうなると予想してあのクズに仕えこの力を得た甲斐があった!」

「はぁ…大戦の時殺してあげればよかったね元王国騎士団長…セバスティア・K・ブレイド。過去現在の王国において無属性唯一の騎士団長殿?」

だが老紳士はその名を捨て今はただのセバス。

「昔話はよしてください。吐き気がしますよ。」

そう言った老紳士は徐々に肉体を再生していく。だがその姿は骨と皮とシワが深々と刻まれた老人の物ではない。

「ふぅぅ…これで漸く。本気を出せますね。」

胸に手を当て息を吐き魔力を練り上げる。

「ふぅん?まぁいいさ。やってみれば?」

「言われずとも!」

魔力が心臓のある左胸に収束し鋼のように澄んだ音とともに輝いた。




紳士用の礼服は既になく。その身を覆うのは鈍色の近代的な鎧のようにも見える装備、華美な装飾はなくむしろ無骨でさっぱりとさえしている。

「…加護ってやつではなさそうだね。」

「ええ、むしろ魔物の固有技能に近いでしょう。原理も道理も通らぬ技能ですから。」

その手に握られているのは剣…だがその有り様は剣のように見えるだけの別物だ。

「『聖剣』か。私も見たことはないけど知ってるよ。けどそれは…」

「ええ、これは『聖剣』ではない、私は勇者ではありませんからね。言うなれば魔剣、銘はありません付けたとして意味はない。」

クリスは手を振るう。それに示し合わせたかのように銀剣が横一線に閃く。その様はまるで月明かりではなく自ら発光するようで、銀の残滓が大気に解けると流星は解け弾かれ切り取られた。

「…オッケー、今ので大体分かった。」

「戯言を!」


銀光が迸りクリスの身体を貫かんと一直線に奔る。

「取った!!」

セバスは夜になって高まった吸血鬼の眷属としての力、そして生前とは位置が変わった魔石から取り出した力と言う二つの切り札を出し人間の認識できない速度で人間の常識を超えた現象で持って目の前のあまりにも変わらない怨敵を斬り刻まんとした。

だが…

「調子に乗るなクソガキが。」

彼女の身体がズレる。振り切った腕から見るに漸く私は彼女に手傷を負わせたのだろう。

「「ハハ!」」

なんだ?音がズレている。

「大戦から数百年だったか百年だったか…どうでも良すぎて忘れたけど、貴方、不死に堕ちて弱くなったねぇ?」

「「は!?何故…」」

其処で察した。自分が今どうなっているのかを、そしてこれから彼女の手に纏わり付く幾条もの光でもってどうなるのかも。

「どうかこれで心折れてくれると助かるんだけどね?」

私に認識できたのはそこまで。闇夜を切り裂く月明かりのような光が肉体を引き裂き、千切る。

だがそれでいい、私はあくまで機会があればみずからの手で彼女を殺せれば最善だったと言うだけ。彼女にこの街の秘密を知られず。あの鈍い当主をも出し抜きあの怪物から奪えればそれでいい。

眷属として本体を殺されさえしなければよかったのだ。


私の勝ちだ!

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