二日目?
そこにあったのはあまりにもあからさまに扉だった。
覗き窓からは中の様子がのぞけるのだろうが俺の身長では届かない、だが中は一体どうなっているのかくらい想像がつく。
「グッ…アガッ…!」
「地下を全部使った封印…しかも中にいる相手を一方的の弱らせる特殊な未発見魔術ね…。」
そんな悪趣味な事を喋ってくれたのはなかなか口を破らなかった黒尽くめの風魔法使い、お仕事はここで魔力を注ぎ領主の命令のもと内部の少女を切り刻み続けると言う最悪な情報が飛び出てきた時うっかり顎を粉砕してしまったが…まぁ、死んでないしセーフだろう。
未発見魔術もなんだかチープ、いや、強力といえば強力なのだが今の使い方ではその真価の一厘たりとも発揮できていないのではないか?と思ってしまう。いや、だがこんなモノなのだろう。こいつが言うには『この家に連なる血を封じる』とかなんとか…だが恐らく魔法陣の真の力は『吸血鬼としての特性を封じる』つまり吸血鬼殺しの陣…現代魔法でも、現在発見されているどんな技術でも殺しきれない不死を殺せる可能性、教会が知れば喉から手が出るほどに欲しがるだろうなぁ…
「んじゃ、開けますか。」
これから人を1人攫って行くのだ。資金確保の為の算段を考えたっていいだろう。確認したがどうやら領主館とも繋がっている様だしサッサと中に入ろう。
扉に手を掛ける。
…正直言って、入りたくない。マジで、さっきまであった血の匂いや悍ましい魔力の奔流も感じ無いが、俺の直感がこれを今開けるべきではないと叫んでいる。
だが、今この瞬間が最も彼女をさらうのに適しているのも確かなのだ。
「魔法の効果か声も何もないが…そもそも吸血鬼の血が流れているとは言え10かそこらの少女な訳だ。それを助け無いって言う選択肢は俺には存在しない…筈だよな?」
おかしい、何かがおかしい、だがそれを理由にここを開けなければ一生後悔するかも知れ無い。
そう思って、決心して、意を決しておれは扉を開け放った。
風切音。咄嗟に腕を前に出すが、それを嘲笑うかの様に障壁が砕かれ腕を砕かれる。その勢いで胸まで貫かれそうになったが魔力によるエネルギー操作に成功、撃力の全てを受け流し蹴りに乗せて放つ!
「づあぁ!」
「ガァァアアアアア!」
そこにいたのはあまりにも美しく。あまりにも恐ろしい怪物だった。その瞳は金色に輝き瞳孔はヒトならざるモノである事を示す様に縦に割れ、輝くような銀髪を振り乱している。そして均衡の取れた肉体は男性の求める艶やかさと肉体的な美の全てを兼ね備えている。だが獣の様に、理性のかけらも感じられない構えと捕食者としてのサガか舌舐めずりを繰り返すその口元には鋭い牙が見えていた。
アイエエエエ!ゼンラビジン!ゼンラビジンナンデ!?
いや、餅つけ、beKOOOLだ。打ち抜かれた腕の再生はどう言う訳かもう始まっている。この分なら1分以内に使える様になるだろうが、目の前の獣がそれほど我慢強い様には見え無い。
一度揺らいだ精神が平静に戻るのには時間を要するが、目の前の異常に対処するだけの備えはしてきた。樽の入っている間に防具へ仕込んだ強化術式を発動、腕への強化は必要ないので具足を硬化、鋭化する。
キン
と言う独特の金属音が発生すると具足の鋭角部に鋭い輝きが灯る。
「ガァ!」
今からするのは体が完成してい無い俺にとって凄まじい負荷となるとピーター氏から止められていた技、武技宣誓からの基礎動作四つの連続混成接続。しかもピーターさんの完全模倣、不完全になる事は承知だが今この状態を乗り切るための苦肉の策という奴だ。
「『我、魔纏し武技にて彼方へと至らん!』」
武技は魔力の持つ現実改変力を利用した理想の模倣。
つまりは!過剰強化による前借りと同じく自らの至るべき理想像を自身に投射することに他なら無い。
「その呪いを断ち切らん!フェイク・アロンダイト!」
肉体を理想の形に完璧に振るうただの基礎動作、だがその一撃は音を越え魔力によって鋭さを得て大気ごと直線上の物体を叩っ斬る。
「ガァ!?」
吸血鬼の身体がパックリと二つに分かれ、その後に連続して繰り出した斬撃三つの結果が遅れて発生、サイコロの様になって崩れ落ちる。
振るった後に残るのは無理やりに理想の結果を引き寄せた負債、右足の骨と腱が壊れて断裂した筋肉から血が吹き出す。
武技宣誓も武技発動すらなく自身の肉体の100%を掌握するピーター氏の人間辞めてる具合がハッキリとわかる一撃。もし同じコンディションで放った場合彼ならば最初の一撃でこの砦ごと真っ二つだ。
「ったく。師匠達人間辞めすぎだろ…。」
足の破損は10秒もあれば治る。だが相手もサイコロになったって言うのに既に半分はその形を取り戻している。…右腕に絞れば脚と同じくらいには治せる。大気に満ちるおどろおどろしい魔力を吸収し吐き気と引き換えに魔力を補填、それを右腕に送り込み痛みと引き換えに無理やりに元に戻す。
さて、恐らくこの女性が暴走したあの少女であると言うのは予測がついている。血の一滴すら残らずにその内側に収められていく異様さに舌を巻きつつ戦斧を引き出す。左腕は未だプラプラ状態だが右腕が動くならば上々だろう。
相手もサイコロステーキ状態からすでに復帰している。幸い痛みで動きが鈍る生物的な感性の持ち主なようで某ダイナミック不謹慎なアニメの気狂い吸血鬼やロリ吸血鬼の様なフィクション共の様な絶望感はない。
「アアアアアァァァ!」
「っつい!?」
しかしノーモーションからの魔法発動は戴けない、正しい法則に則った改変ではなく俺と同じ力押し、だが相手は肉体の崩壊よりも早く再生するガチチート。まぁ、人間じゃないから。多少はね?
「っくぅ!障壁も簡単に抜いてきやがって!」
「アアアアア!!!」
まるで嵐、まるで化物、暴力と言うわかりやすい形をとって暴れ狂うそれは間違いなく人間の敵であり人の世ならざる存在。障壁による減衰はあれどそれでもなお俺をケバブか何かにしようとしてくる風の刃を避け、怪力による正面攻撃を戦斧でいなす。
俺も単純な身体能力という点ではかなり人間を辞めているはずだがそれを嘲笑うかの様に押し込んでくるあたり血や生まれと言うのは理不尽だ。
「ぐお!?」
ミスった。
受け損ねて浮かされた。地面と足が離れた瞬間から俺の身体を俺自身が支える事は不可能となる。何のために重めの装備を着ているのか分からなくなるほどあっさりと浮き上がったおれはそのまま障壁ごと壁に叩きつけられる。
「アハ!」
「無駄にスマイル有難うよ!!」
高速戦闘な上肉体の損傷持ちである以上全てのリソースを戦闘に割けばその後の行動が困難になるのは明らか。だが今の失敗はエネルギー操作さえ使えば問題なく対処できた。
壁面で俺を擦り下ろそうとしてくる美女に毒を吐きつつエネルギー操作、反転。
「バァ!?」
「づお!」
壁に押し付けられる力もろとも返したのでおれは落下。相手は腕が吹っ飛んだが血が吹き出るだけであいも変わらず凄惨な笑みを浮かべている。
これ、勝てんのか?と言うかそもそも何が原因なんだ。
この空間が特殊なのか上から何かちょっかいをかけられると言うのはなさそうだが、相手の様に目の前の相手を床のシミにするのは俺の勝利条件ではない。なぜ、どうして、どうやって。彼女の異常の原因を取り除き、取り敢えず彼女を拐うのが目標。
さぁ、どうすればいいか。どうすれば俺は勝てるんだ。
「アハ!アハハハハ!」
「さっきより人間っぽくていいね?」
まるでおもちゃを見つけた子供の様にあまりに無垢な笑みを浮かべる彼女の猛攻を1秒でも長く凌ぎながら、俺はようやく見つけた彼女の救いかたを探し始めた。




