おっと、心はガラスだぞ?
「ジェシカさん、ジェシカさん」
「はい、何でしょう若様?」
「…流石にこれは酷いと思うんだ。」
「…出世街道から外れまくった私に言いますか、それ?」
誕生から一年、本来、というよりもジェシカさんから聞いていた話だと貴族様の誕生日というのはそれなりに豪勢なものらしいのだが、俺とジェシカさんは現在、屋敷の敷地内である森の奥地、屋敷から一本道でこれはするものの『あ、ここでこのまま家ごと焼けば一瞬ですね』みたいな想像の捗る陸の孤島にいた。
まぁ、1歳になる前に歩けるところを目撃され、父上殿があくどい笑みを浮かべて使用人さんがたになにかを言っていた時点で既に嫌な予感がしていなくもなかったのだが…
「一軒家だね」
「ええ、私と若様の他にもう2人ほど住んでもいいほどの物件ですね…どうやら基本的に生活に必要な家具は運び込まれているようです。」
何という事でしょう。獣や魔物の出ることもある裏山と屋敷との中間地点に明らかに外側から鍵をかけられるようになっている監禁小屋ができているではありませんか!
じゃ、ねえよ!
「…これ多分僕とジェシカさんほぼ放逐されてるよね」
「ええ、若様の巻き添えでうっかり私までなっているのは非常に遺憾ですが既に屋敷の方々との連絡装置まで無くなっているのでそうでしょうね」
ジェシカさんがいつもと違うメイド服を着ていると思ったらどうやら襟のあたりにあった通信術式入りの家紋や服の隅々にあった家紋が無いタイプの物だったらしい、というか…
「え、連絡できないの?」
「はい、一応お手紙を渡されましたが…期待はできないでしょうね」
そう言って俺と彼女は家の中に入りながら手紙を読むことにした。
『ジェシカ・フラウラス
貴殿の任務は誰にも、何者にもグラジオラスの事を知られる事なく10歳まで育て上げる事を命ずる。
任務達成の暁には9年分の年俸と金貨1000枚の恩賞を、失敗の際には打ち首を与える。
尚、以下の規定に触れた場合即刻クビを跳ねる。
・裏山を含むフレイアール邸敷地から出る
・グラジオラスの存在を知らせる。あるいは知られる
・グラジオラスを殺害する
貴殿とガラフ・A・フレイアールの名誉にかけてこの契約は執行される。
追記
貴女がうっかりミルクを取り違えたり、赤子に飲ませれば命に関わるような物を避けてしまったりしたのが悪いんですよ?
わかってますか?
というかそもそも貴女も知っていたでしょうけどグラジオラスくんは魔法貴族の伝統では死産だったということにして処理するのが通例よ、貴女が情にほだされて庇っているのかと疑ったりもしたけど…多分、貴女侍従長や料理長からの『忠告』真面目に聞いちゃったんでしょ?
…誠実なのはいい事だけど、このままだと貴女ごと消されるわよ?
アナスタシア・A・フレイアールより』
…
「あわわわわわわわ」
さて、隣であわあわ言ってる微妙に残念なクール系メイド型命の恩人に感謝の祈りと一蓮托生になった不安を感じながら現状を整理…
できるか!できるわけないだるぉぉぉ!?
とりあえず両親によって幾度も暗殺が試みられていたのはこの際いいが、まさか10歳になる前に片付けてしまおうという算段だったとは…このメイドがポンコツじゃなかったら死んでいた…っ!
おそらく10歳というのはあのおじいさんの前での方便だ。少なくともガラフやアナスタシアは半年しない間に消せているものと思っていたんだろう。で、なかなか死なねえと思ったら1歳になってていつのまにかアナスタシアさんの腹は膨らんでいて、流石に弟か妹かどちらでもいいのだろうがそれらに俺を認識させるわけにいかず。俺とポンコツさんは獣や魔物溢れる屋敷の敷地内という名の森に飛ばされた。
いや、だが待てよ、何でここなんだ?ジェシカさんを闇に葬って俺を地下かなんかに押し込めて魔力を据えるだけ吸えばよかったのに何故ここなんだ?
何かヒントは…見落としは………あ
俺は膝から崩れ落ちるように地にひざまづき手を合わせ握り込んで天高く突き上げた。
「アナスタシアさんマジ天使ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
俺はあの時うっかりしてしまったものすごく図々しいお願いをした自分とそれを約束どうり叶えてくれたアナスタシアさんに感謝した。
そう、俺は日がな一日魔石に魔力を充填し魔法を使い、魔力操作を鍛え何だかんだ異世界の技術である魔法や魔石について実験をしたり何だりしていた。いつのまにか俺の部屋は紙束とからのインク瓶、爆発痕と大量のクズ魔石によって圧迫されていた。
ジェシカさんが日に3回部屋で転ぶようになり、落ちてきた哺乳瓶を肉体強化でキャッチしながら流石にマズイと考えていた。その時の俺はガラフに俺の立場を突きつけられ9割くらい勢いと嫌な事を考えないようにするために研究を続けていた。そんな状態で何度も何度もすっ転ぶジェシカさんに倉庫かもしくは俺が何か爆発させてもいいような場所をくれないかと頼んだことがあった。
あの時すぐに返事がもらえなかったので流石のアナスタシアさんもそこまではできないと思っていたのだが…というか今思い返すと何故そんな発想に至り、しかも何故それをわざわざ俺を殺そうとしている親に言ったのかという疑問しか湧かない感じのぶっ飛んだ要求だったが、今にきてこんな形で俺を救ってくれるとは…人生わからないものである。
「とりあえず…一通り設備を確認するか…」
未だにあわあわしているジェシカさんは流石にもう正気に戻って欲しかったが、今を逃せばいつ彼女が現状を正しく理解し、整理できる時間が取れるかわからない、錯乱の果てに『お前を殺して私もシヌゥ!』とか言いださないよう。彼女には思考の整理に務めてもらおう。
俺がそんな風に思っていると扉が叩かれた。




