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一日目作戦終了


〜〜ジェシカ〜〜



最初の数合まともに打ち合った後戦場は暫し膠着した。

「俺は魔法使いを、お前は魔導水銀を相手していろ。」

油断なく盾を構える男、周囲に散らばる騎士の装備と違うものを着込んで入るがその実力は明らかだ。防御主体ではない、盾を構えるその姿は守るというには違和感があった。盾は僅かに魔力を帯び、男は常にその腕に装着するタイプの盾に魔力を割いていた。

「…」

互いに見合い、時たまナイフの投擲や小規模な魔法による牽制をしていた。

(不味いですね、初見で魔法を見切られたせいで二対二ではなく飽くまで1人対2人であると印象づけられちゃいました。)

男は左腕に盾、右手に前腕程の長さの両刃剣、腰にはダガーと長剣も下がっている。魔法はあまり得意ではないようで防御時攻撃時共に僅かながら土属性による肉体の硬化や重量増加を行うのみだが、その堅実さはある種完成されており油断なく。隙もない。


ジェシカも魔力を練り上げ短剣を構えるが、水銀にある程度魔力を割いているために完全に目の前の男に集中しているとは言い切れない状態だ。

(こうなるとサッサと水銀の回収をしてしまったほうがいいんですが…)

魔力の操作のために目の前への集中を周囲に広げようとするジェシカだが、一時でも魔力が乱れれば盾の男が突撃してくる。それは魔法の解除すらままならないというある意味で真っ当に魔法使い対策をしてきた戦士の技だった。

「っ!」

「ふん、いい反応だが解除はさせん。コッチも仕事だからな。」

水銀の操作はその形状を維持するというだけでも魔力を消費する。手元に幾らか戻せたリソースと触媒に渋い顔をする。

(下手に魔法を打ち切れば最小限触媒が使用不可になるくらいの被害ですみますが…)

魔法は魔力とイメージでもって現実を改変する業、正しい行使法以外で行えば改変の代償は想定不能、グラジオラスのように逆流した魔力に魔力路が焼け付く事や、それ以外でも爆発、消失、稀なものでは肉体や精神への変性すら起こる危険な物だ。

「言っとくがこっちは装備に対魔力がある程度付いている。貴族様様ってとこだ。」

「そう!ですよねっ!」

こちらへの攻め手を緩めない盾の男はその圧力を強める。思考操作で水銀を操りなんとかあの若者をこちらに近づけさせないことには成功しているが…相手に備えがある以上無理やり中断して痛い目を見るのは彼女だけのようだ。だが、その程度の問題は彼女にとって大した意味はない。


考えろ。思考を止めるな。あの性悪に教え込まれた普通じゃない技術はこういうときに役立つもんでしょう?

「見えた。」

彼女のプランは単純だ。相手の懐に飛び込み若者と男、そして水銀人形を真っ直ぐに並べ魔法を暴走させる。

だが、彼女が踏み込んでくるのを察知した男は盾を構えるのではなく盾を持った左腕を振りかぶった。

「ああ、ここがお前の死線だ。」

男の魔力が盾に集中し振りかぶった左腕から杭のような物が飛び出してくる。だが、彼女も盾に仕込みがあるのはわかっていた。だが想定していても完璧に対処できる事はあまりない、魔導水銀で生成された杭は予測を越える速度で加速し回避に合わせて微かに軌道が変化した。

「っ!あ!」

脇腹を抉られた痛みに制御が乱れ水銀人形が暴発、闘っていた新兵は運悪く剣山の様に変形した水銀に貫かれ絶命、続いて起きた爆発が背面から盾の男を襲うが予想よりも内部で魔力を消費した水銀はそのカケラを辺り一面に撒き散らすのみで致命には程遠い威力になっていた。

そして盾による奇襲を避け切られたのを認識し剣を構え直すよりも早く彼女の踏み込みは完成し、まっすぐと突き出された拳が鎧に命中すると同時に魔法が発動。

「ふん!」

魔力に耐性がある外側から土魔法によって変形させるのは手間だが、素材の関係上刃などを想定した程度の装甲物理的な装甲は厚いわけではない。ましてや鋼の様に硬化した身体強化済みの人間の打撃なんてものをまともに喰らえば…

「っご…お…」

「ふぅぅ…ただのミスリル鎧を配った雇主に感謝ですね。」

傷口を金属化し応急処置をした彼女は一息ついたが、すぐに意識を切り替える。模擬戦時に変質し唯一残った魔法具である『竜鱗の指輪』、これには微かだが彼が打ち倒した竜の力が宿っている。魔法的な補正も中々の物だがその真価は回復効果だ。

数秒魔力を吸わせ動かない必要があるがそれで怪我が治るなら儲け物だろう。

「…グラジオ様は気付いて無いですけどね。」

彼が最近ごく自然に肉体の損壊や損傷を回復しているのは恐らく竜の血を浴び、その力を喰らったからでしょう。これにはまだ科学的証拠はありませんが、ドラゴンスレイヤーと呼ばれる超人や一部の冒険者は自然治癒と言うには強力すぎる再生力を持つ事が知られています。

しかし、この話の不可解な点はその血や肉を喰らった王侯貴族などにはその特徴が見られない事です。

「これでよし。では…この奇妙な魔力の終着点を目指しましょうか。」

しかし、逆に私やグラジオ様の様に人間として竜に近づきすぎたケースもよく知られていません。できれば街に来た時何処かの診療所にでもいければよかったのですが…それはまた今度ですね。


いつもと同じ方法で索敵し反応がないのを確認して駆け出した。



空は既に暗く。月は低かった。



〜〜グラジオラス〜〜



「ゼェ…ゼェ…」

「大丈夫かよ?」

「…問題ない、俺が怪しまれる事は万に一つもないからな。」

妙なことを言う男だ。先ほどから何度も立ち止まっているし、俺を持ち上げている間もゆらゆらと揺れている。こんな軟弱な騎士見習い疑われて仕方ないと思うのだが…まぁ、さっきから周りに気配を感じないからそう言うルート取りをしているのだろうか?

まぁ、何にせよ最初の騒ぎによるダメージの回復の為に集中していたい。そう考えながら自身の障壁とその中にある自分の身体を精査する。が…

「ありゃ?」

斧の損傷があまりないのや衝撃、硬化などの様々な付与は未だ健在なのはいいが、瓦礫やら障壁で受けたとはいえ操作をしていないために火傷、切り傷に複数の打撲や最低でもどこかにヒビの一つでも入ってるものと思っていたのだが全く何もない、気持ちが悪いくらい健康体だ。

…今更だが竜の血を浴び竜の魂を喰った俺は純粋な人間と言えるのだろうか?正確には魔石が取り込んだとはいえ俺自身の魔力や治癒力に明らかな差が生まれている。これが所謂ドラゴンスレイヤー症候群という奴なのだろうか?

グラグラと揺れ、時たま男が咳き込む音が聞こえる中また厄介なものを抱えてしまったのでは無いかと頭を抱えた。


ガタン!

「ぎゅむ!?」

「っごほ!?っっがは!」

衝撃、そして久方ぶりの外気、そして脇腹に滲む血を押さえて蹲る男。

「お前は…」

あの馬車でここのお嬢様に縋られていた死に体の騎士、なのだろう。傷の位置も大雑把にしか覚えていないしそもそも手当てをしたとはいえ正直生きていたとは思わなかった。なにせ微かに呼吸がある程度でほぼ止まっていたんだからな。

口端から垂れる血を乱暴に腕で拭った男はよろめきながらも立ち上がる。

「はは…無様なところを見せた。いや、姿を見せたならもう誤魔化しようがないだろう。私はウィンター家時期当主であるダフネ・ウィンター様の従者、アルカードだ。」

そこまで語って彼はまた体制を崩すが流石に目の前で地面とキスされるのは気分的に良くない、咄嗟に支えるとその男としては長めの髪から血の様な赤い瞳が覗いていた。だがその美しさよりもさらに際立つのは男の口元にある特徴だ。

「…牙?」

まさか、ぱっと見獣人としての特徴は無い。かと言ってこの世界で吸血鬼といえば人類種では無く人型の魔物だ。こんな場所にいるはずも無い。

だが相手は貴族、しかも何を思ってか内乱を起こそうとしている様などうかしてるタイプだ。何を用意してたって不思議じゃ無い、俺は斧を構えながら男を壁に寄りかからせる。

「吸血鬼の様…かな?」

「まぁ、正直そう思っている。」

「…残念ながら私は吸血鬼では無いよ、人間でも無いけどね。」

そう言って首筋を見せる。汗ばんだ衣服をずらし濡れた様な髪を手でかきあげ吐息を吐く。無駄に艶っぽい動きをする…だが男だ。いや、ボケている場合じゃ無い、そいつの首筋には二つの孔が開いている。明らかに動脈まで到達している筈だが血の一滴も出ていない。

それは今の人間に到達できない魔法にして魔術の深奥、事象として知られてはいるがどう研究することもできない今と昔、魔物と人間の境にあるとされる神秘。

「眷属化、お前は吸血鬼かそれに類する上位存在の眷属ってことか?」

「ああ、私はお嬢様の従者にして眷属。彼女の持つ数多のうちの一つです。ま、今はこうして傷の一つも癒せないか弱い人間モドキですがね。」

そう苦笑する男の笑みはやはりどこか雰囲気を持っているが、どうやらこれは所謂魔性という奴なのだろう。いや、というかまて。

「お嬢様の眷属だと?」

そうなるとこいつの使える主人であるところのあの少女は吸血鬼であり、その親であるここの領主もー

「そうだ。彼女の魔性故ではなくその良き心と道理をねじ曲げようという意思に応えて疑問に答えよう。そうだ。ここの領主、ウィンター家は大戦時に人間を辞めている。人間を辞めたからこその貴種であり、文字通りの貴き血の持ち主だよ。」

アルカードがそう言い切るとそれとほぼ同時に彼の身体が砂の様に崩れ始めた。

「おい!」

「はは、大丈夫さ。呼ばれているだけだよ。それじゃあ、またすぐに会おう。我が主の救い手…」

謎めいた言葉を残し、それ以外の一切を、彼の痕跡はその衣服すら残さずに男は消滅した。転がった桶と斧を構えて惚ける俺だけが残った薄暗い道には物理的な気温や湿度の変化を誤認させられるかの様な淀んだ魔力が吹き抜ける。

「…なんなんだ。一体。」

呆れる程に高い魔力の密度のせいかここの辺りに常人は近づけないだろうが、いったいこの奥に何がしまわれているのだろうか。戦争の切り札だろうか、それとも開けてはいけない物の類だろうか。今の俺にわかることは何も無い。

「…王国もロクでも無い奴等ばかりに出会ってきた様な気がするけど、こっちはこっちで相当にキナ臭いなぁ…」

ゆっくりと歩みを進める。警戒心は最大で歩く歩幅は最小に、魔力の波をかき分ける様にゆっくりと歩く。

きっとこの先にあるのは厄ネタだろう。

だが、俺の予感がこの先にあの、か弱く見えた少女が居ると言っている。この淀んだ。カビと血の酸化した匂いが混じる混沌の先にいるのが俺が助け出そうと思った少女であって欲しく無いというのは…俺の独善的な願いなのだろうが、あの男、アルカードの言う事に嘘は感じなかった。


月は天高く掲げられようとしている。


おれは、どうすればいいのか。

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