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一日目の二手目


クリスから押しつけられた紙束を鞄にしまい店を出る。出た瞬間にその店の存在は限りなく薄くなる。注視すれば魔力の流れや違和感に気がつけるかもしれないが、この乱雑に店の並ぶ場所で印象に残るものが少ない品揃えや店構えの場所に注視することはまず無い、あるとすればここの存在を認識している人間だけだ。

「隠蔽、ってわけじゃ無いんだな。」

「ええ、極度に関心が抱きにくい、気にしていないものは見えていないと同然ですからね。」

どんなふうに魔法を使えばこんな現象が引き起こせるのか、少なくとも俺が知る範囲の魔術と魔法では精神に作用する物、空間や時間に作用する物、生物に関わる事全般は出来ないとされている。

魔導書と加護ならば話は別だが…そこまで行くともうわからない、少なくとも俺がわかったのは彼女が恐ろしく強い事くらいだ。


店から離れると直ぐに俺達は雑踏の中に紛れた。途中視線を感じたこともあったが途切れ途切れで害意も殺意もない、恐らくアルベルトの仕業だろう。

「見られながら侵入は流石に流石にまずいだろうなぁ。」

視線もそうだが地下への侵入ルート、路地裏や一見ただの店に見える建物の裏など様々に隠された出入り口に衛兵では無いがそこを見張る人物がいる。

「ええ、何処かでうまく撒いてみましょうか。」

さいわいにしてジェシカさんは装備を一新してはいるがまだ装着はしていないし、俺は服の下に着込んでいる。どこかで着替えて顔を隠せばさほど苦労せず着けてきている奴の目眩しくらいは出来るだろう…だが、門番を誤魔化すのは難しい。そうなってくると俺に取れる選択肢は限られてくる。

そして決断する。

「いいよ、このまま行こう。」

「…理由があるのですね?」

勿論だ。

「殴ってしまったほうが早い。」

というのも向き不向きの話である。ジェシカさんはともかく俺は隠形について気配を殺すか気配を放つかの二択くらいしかできない素人だ。このまま隠れん坊合戦やら隠密合戦になると相手に主導権を握られることになる。だったらば…

「殴って黙らせる。ですか…野蛮極まりないですが結局やる事はそうですからね。」

そう、彼女も出入り口を守る何者かがいる事、そしてつけてきている何かがいるのはわかっている。その上で騒ぎを起こさず侵入できる自信があるのだろう。野蛮極まりないとか失礼極まりないが同意してくれる。

だが…

「いや、騒ぎを起こすのは俺だけだ。次の路地で装備品を着て外周付近の出入り口から侵入を試みる。ジェシカさんは出来るだけ静かに入って探索に専念してくれ。」

「…本気ですか?非公式の地下空間とはいえ此の規模の領地を治め内戦まで起こそうとしている様な貴族の兵ですよ?」

わかってる。だがジェシカさんに戦闘させたくない。

「流石に森の時みたいに街ごと消滅させられたら困るし、そもそも正面戦闘が不得意なタイプでしょ?」

「ええ、まぁ確かに今もあの力を封じてあるだけで制御できてませんし何より小面からよりも奇襲と致命の一撃での一撃離脱が私の得意な型ではあります。ですが!」

「それに、だ。」

ジェシカさんを突き飛ばすとほぼ同時に俺の視界が爆炎によって遮られる。そう、街に帰ってくるという事はつまり暗殺者どもの住処に踏み入るのと同義、少なくとも俺みたいに国のほぼ中枢から追っ手が放たれているような奴には手配書の一つや二つ出ているだろう。

「オイオイオイ効いてねぇぞ?」

「アレが金貨20枚の首ってやつか…手配書より若いナァ。」

遠くから聞こえる声から察するに隣国だからか暗殺者だけでなく賞金稼ぎにすら金を出したようだ。

まぁ、苗字や真の名が知られて困るのはアッチであり、それが国内で漏れるのが最悪のパターンだろう。そう考えると隣国への移動も無意味に感じるかもしれない。だが必要はあったし少なくともあの国の中では俺たちにも制限があった。

ひっそりと国を越えたとはいえあのガラフがその程度で諦めるとは思えない、貴族の誇りと家の名にかけて俺を殺すことに注力してくるだろうというのはわかっていた。

「騒ぎは起こさないほうがいいんだったなぁ…」

あくまでも情報収集と最低限の武力介入による終結を目指していた彼らには悪いがどの道一回でも戦端が開かれれば血は流れるし、騒ぎも起こる。流石に俺1人で全てを蹂躙するなんていうのは夢物語だが、俺が表だって動けば注意は多少逸れるだろう。



鞄は既にジェシカさんに押し付けてある。俺は斧を抜き放って地下への入り口へ、放たれる下級魔法や矢弾を最低限回避しながら、時には門番や見張りに飛び道具を誘導しながら入っていこうとするが…横あいから放たれるは突き、それも熟達した長槍での刺突だ。

障壁に触れた瞬間に解る。ヤバイ。

「おぶえ!?」

咄嗟に身体を逸らし僅かな明かりが見える暗闇へと身をねじ込もうとするが鋭い一撃がそれを阻む。

「妙な手応えだ。だがまぁいいだろう。」

入り口の方は門番が物量に押されて吹き飛ばされ、魔法と矢弾が飛び交う紛争が起きている。そんな様子を気にする事なくたたずむのは軽装の槍使い。

「ここの私兵…って感じじゃないな。雇われか。」

「ああ、ここの領主はキナ臭いし職場はいささか暗過ぎるが…金もたんまり飯も酒もある。その分くらいは働いてるのサ。」

身長にして170ほど、体格に優れているわけではないが此の狭い通路で自在に槍を扱う技量。それだけ知られたくないものか、それとも保身の為の備なのか、何がなんだかわからない。わからないが。

「押し通る。」

我が最強への道のため、己が信ずる信念のため、雇われだろうが悪党だろうが…それが忠義の騎士だとか善人であっても立ちはだかるならば薙ぎ倒す。

幸い邪魔は無いようだ。魔力を励起、循環させて笑みを浮かべる。

「ッヘ、いいねいい気だよ。ガキィ!」

「ハァァアア!!」

ああ、なんでもいい、とりあえず今は暴れたいんだ。目の前にいて泣くあの子をどうにも出来なかった自分に、予測はできても防げなかった事態に巻き込んでしまった自分に、そして何よりあんな子供を出汁にして意地汚く這いずる大人達にっ!

「むかついてんだよ!オレはぁ!!」

地面を掴み取り腰を捻るようにして放った一撃は相手の二本目に流された。だが…長槍を引き絞ったままクロスレンジに入ってくるとはふてぇやろうだ。いなされて斧が壁にめり込むのならば、それを踏まえて壁ごと振り抜けばいいだけだ。

「っつダァああ!」

「まっ!?」

防御の後攻撃の態勢に入っていた男は驚異的な反射で受ける事はしてきたが壁を切り崩し土砂を撒き散らしながらも加速し、振り抜かれた戦斧は易々と止められるようなものでは無い。

「ハァァ…マジかよ、冒険者ゴッコやってる奴らじゃねぇほうかよ。お気に入りだったのによぉ〜」

半ばから砕けた長槍と軽装ながら僅かに着込んでいた革鎧にめりこんだ瓦礫、どうやら凌がれたようだ。だが…

「今回はオレの勝ちだな。」

「…あ!やべっ!」

オレが奥で相手が手前、入った時と入れ替わりになり壁の一部を削り飛ばしたせいか天井が崩れ始める。相手が驚きと焦りで一瞬動きが止まった様子を見せたのが最後、崩れ落ちた瓦礫は入口とその先を完全に断絶させた。


だが油断できない、奥はもちろん入り口の瓦礫を吹っ飛ばして入ってくるかもしれない相手への警戒もするが、音沙汰はない。

「…ふぅぅ〜」

戦闘中はアドレナリンどばどばだが、終われば相手の冷静な戦力評価をしてしまう。俺は冷や汗が流れ出るのを軽く拭い、奥へと歩みを進める。

願わくば二度と彼と出会いたくはないが、そういう手合いの方が再開率が高いのが世の定め、彼でなくとも雇われの強者が内部を守っている可能性もある。気を引き締めて行こう。

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