一日目の一手目
「意思表示ご苦労さん、お礼にこいつを授けよ〜」
そう言って彼女はいつの間に取ったのか、自然な動きで胸元から取り出した俺たちの冒険者証にスタンプを押付けた。
「な!?」
「え!いつの間に!?」
ハッとして胸の内側に縫い付けておいた葉っぱを見るがとられている。一体何が起きたんだ?
「へへ〜、これでキミらは『ギルド内部監査特別協力者』!腫れてギルドの鼻つまみ者さ。」
押しつけられた印は魔力に反応して浮き上がり、通常時は感知すら難しい程にまで隠蔽されている。どうやらギルド証へ直接干渉したようだ。
「って!そんなことよりどうやってスリ取ったんですか!」
「くひひっ!ひみつサッ!」
「グラジオ様、落ち着いて下さい。」
ジェシカさんに怒られて身を引く。
何かがおかしい、この人の速さは単なる速さとは違う。何か異次元のものだ。魔力を励起させた俺の認識からいとも簡単に外れたのもそうだが、今回は本当に目の前に居ただけで俺のだけでなくジェシカさんのものまで証を取っている。
「くひひっ…」
煙管を蒸して人を食ったような笑みを浮かべる妖艶な二頭身女性をどう感知しても違和感を感じられない、しかし確実に彼女は何かがおかしい、それはこの店という範囲を完全に魔力と未知の魔術で持って隠蔽しきっている。という非常識さからも明らかだ。
だが…
「いや、うん、そうだな。落ち着こう。」
今は彼女のあざやかな手腕に隠された業を問い詰めるときではない、ここの事情に首を突っ込むと決めたのだ。いずれ判るだろう。
それに…今はあの娘とこの街をどうにかするのが先だろう。
「フゥ〜…さぁて、若人の猛りも見てて楽しいが事態はそんなに良くないんだ。お遊びはここまでにしておこうね。」
紫煙を吐き出しくつくつと笑った彼女は資料を引き抜く。どうやらこの街の地下に広がる要塞時代の名残、地下道の見取り図とこの騒動における重要人物のリストの様だ。罪状もある程度まとめてある様だ。
まず、彼女が手に取り説明を始めたのはリストの方だった。
「今回の監査の結果、私が掴んだのは領主であるアルベルト・ウィンター、ウィンター領冒険者ギルド長ゲインによる情報封鎖と不正依頼受注、冒険者選抜不正などなどの20件以上の管理違反、制度違反。」
「…そこまでわかってんのか。」
「もう踏み込んで仕舞えば良いのでは?」
そう、ウィンター家によるギルド長の買収とギルド長によるギルドの私物化は明らかだった。だが彼女は苦々しい表情をし、
「ああ、うん、アルベルトの貴族席抹消とゲインの制裁にはもう十分な程に資料はあるし物証も証人も揃ってる。元々ウィンター家は魔獣との関係が示唆されていたし、他の貴族によるリークもあってそこは崩しやすかったんだけどね〜」
そう言って1人の小太りながら人の良い印象を受ける人相書きの男を指差した。
「マグダネル・ザンダース?」
「そう、大戦によって半数を失った共和国貴族席を財政難から売り出した結果貴族に成り上がった商人貴族、ウィンター領の隣、あのお嬢さんがこちらに帰ってくる途中に襲われたとアルベルトが主張するであろう人物なんだけど…どうも帳簿にない金の動きがあってね、それが大まかに二つの流れでこの街に入っているんだ。」
違う資料片手に眉間のシワを深める。二頭身幼女はなかなかにシュールだし、資料を全て知っているわけではない俺にはその違和感というのがわからない、確実なのはここのギルドはザンダース領を攻めるための傭兵として冒険者を集め領主は同じく隣を攻めるための口実作りと軍備を進め、その一環としてギルド長を買収し冒険者をいい様に使おうとしているということ…そしてその動きに何故か攻められる側が加担している?
「…つまりどういう事だ?」
「それがわからないんだよ、そこがわかればこっちもしょっぴける。内戦を使った小銭稼ぎだろうが、冒険者ギルド内部になんらかの働きかけをしているのか、それが良くても悪くてもギルドという組織を監査するこちらとしては処罰の対象だ。少なくとも、本部になんの連絡も無いしね?」
溜息と紫煙を吹き出す。ニコチンやタールでは無いため身体への影響はそんなになさそうだが薬草らしい薬臭い空気が充満しむせる。
「そして、これがまた尻尾を出さない、この隠され方はなんらかの悪意がある。そういう隠され方をするってことは確実に後々の厄介ごとに繋がる。私も本業は冒険者であり遺構探索者、やるときは一気に終わらせちゃいたいんだよ。」
「で、俺たちに何を期待しているんだ?」
流石に話が長い、彼女が俺たちに何を頼みたいのかが全くわからない、痺れを切らした俺の言葉に彼女は肩を竦めて答える。
「情報収集、っても私や監査部のシーフみたいに集めるんじゃなくてねこっちの地下道のちょうさをしてほしい、少なくとも今日一日でこの街の地下全域の探索を終わらせてくれ、報酬は金と情報、勿論非公式だからね逃げてもいいけどこの街は既に街道の封鎖と検問を開始してる。冒険者証しか身分証がない君らではもうどこの街にもいけないよ。」
「選択肢がある様でないのは好きじゃないんですけどね。」
ジェシカさんはそう言うが、その目は見取り図を読み込んでいた。
因みに地下は狭く軍需物資を運んだ以外に研究施設に類もあるらしいがそのどれもが現在どうなっているかわからない様だ。領主の元へ踏み込むのは戦争直前、2日後に設定されているらしいので俺たちへの依頼は領主及びギルド長がこの地下を使って逃亡できない様にする工作の下準備だそうだ。
少女の救出を確実なものとするために必要なことではあるし、俺自身斧を使った戦いや動きの確認をする必要がある。ある意味これは準備運動なのだろう。
「わかった。」
「おっけー、じゃあこの羊皮紙に踏破範囲の作図をお願い、地下の地図は写しを渡すけど多分老朽化とか災害によって崩壊、崩落、魔獣の発生が予想できるから通れない道や魔獣との遭遇地点には印を頼むよ。」
こうして、俺たちの共和国初めての受注依頼が始まった。




