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回収屋『水銀の』クリス


「で、何が聞きたい?街から安全に離れるルート?それとも今日の晩に食う美味い物?」

決まり文句なのだろうソレを言うと腕を組み死んだ魚の様な目に微かな好奇の光を宿した小人族の女は煙を吐いた。

勿論答えはシンプルに、そして知りたいことを聞くだけだ。

「最初にこの街の簡単な案内が欲しい、高級宿では言えないような奴だ。」

「オッケー、情報料はまあ買い物に免じて最初だけタダって事にしといてやるよ。」

そう言って近くの棚から適当に紙を取り出す。どうやら不正確だが地図らしくこの街の構造について軽く書かれている物、何やら物騒な字面が並ぶものとかなり多岐に渡っている。

「さて、じゃあ此処から始めようかよそ者さん?」

そう言って指差すのは…

「領主館か?」

「ああ、そうだ。ていうかあんたみたいな怪物が気に食わないことがあるんだったら本丸をぶっ叩くのが一番早くて確実だからね…勿論、時間とタイミングは間違えちゃいけないが。」

そう言ってまた口の端を歪める。この回収屋を名乗る荒んだ幼児にしか見えない存在はどこまで知っていて話しているんだろうか?町に入って数時間ほどしかいない人間のことなんてそうそうわかるとも思えない、しかし現に相手は確信を持って喋っている。

「ま、そうは言ってもこの子爵領は衛兵も騎士も精強だし、正直言って弱点らしい弱点はほとんどない、あるとすれば此処が王国との最前線だった頃の名残である地下軍事施設との塞がれた接続部分くらいだ。」

煙が吐き出される。

はて、まじめに何故この表通りで死体漁りや盗品一歩手前な物を売り捌くこの店主は何者なのだろう?今の情報も確度は分からないがもし本当なら国家機密級の情報だろう。

知れば戻ってこれなくなるような気もするし、それはそれで最強を目指す俺に必要なモノを得られるような予感もある。

「くひひっ!悩んでいるね?」

「ああ、まあね。」

小人族特有の少し大きな頭と三等身ほどしかない体をくねらせ妖艶に笑みを浮かべる店主に多少ドギマギしながらも絞り出すように声を出す。勿論悩む、当たり前だ。大当たりをいきなり引いて混乱すらしている。

「ま、答えを言ってしまえば此処はギルドなのさ、坊や。」

「は?」

そういうと彼女は地図や書類の隙間からスッと冒険者証を取り出した。

そこには…

「冒険者ギルド内部監査部長?」


「ああ、そうとも!王国から来た大型ルーキー君?」

その瞬間に俺は魔力を高め戦闘態勢に移行しようとするが素早く突きつけられたナイフがいとも容易く魔力障壁を突破し、いつのまにか背後を取られていたことで硬直する。

「落ち着けよ、私は内部監査、つまりギルドって言う巨大組織の自浄作用、此処の噂は結構聞いてるし、だからこそ私はこんなところで魔力による隠蔽をしてまでジャンク屋をやってんだよ。」

この人…ヤバイ…!

「今回あの貴族様が動けば此処の冒険者ギルドも動く。そこで証拠を全部押収して現行犯をとっ捕まえる。そしてそんな鉄火場になんの因果かこの街の事態を警戒するルーキがきたってわけよ。理解できる?」

そう言いながらも相変わらずナイフは俺の首筋を舐めるように這っており、放たれる殺気の鋭さ故か冷や汗が出る。

「つまり…あんたは此処の街の冒険者ギルドと敵対してるって事か?」

「うんうん、しょうゆうこと、理解できて意味がわかってそしてなんで此処に来てしまったのか…わかったのかにゃ?」

ああ、身をもって理解できたとも、今漸く感知できたそれは魔術しかも店全体がその効果範囲内、恐らく魔力隠蔽を破ってこの店を発見できる事、そして何よりこの街に疑念を持っている事、それらがトリガーの引付けの魔術、いや…

「魅了魔術の応用か。」

流石に女性耐性のない俺でも三等身寸胴ボディにドギマギはしない、それはつまりこの女が何かしらのアクションをしたという事、隠蔽が得意なのだろう。俺の未熟な感知では漸くその残り香が掴めたくらいなもので確固たる証拠はないし俺の魔法耐性を貫通してきたのを見ても普通の魔術ではない。

「当たらずとも遠からずってとこだね。」

そういうとナイフをしまいまた目の前に座る。

「改めて自己紹介だ。グラジオ君、私はクリス、クリス・メルクリウス、人呼んで『水銀の』クリスだ。宜しくね?」

目を剥いた。『水銀の』といえば冒険者としてだけではなく遺跡探査とそこで発見された術式魔法の解析研究者、俺のよく知る無属性魔術の発見者であり、現在使用されている汎用魔術の7割を発見したカリスマ的冒険者だ。小人族であるとは聞いていたが…

「お会いできて光栄です。あなたの書いた論文、読ませていただきました。」

「ゔぇ…まじか、君意外とインテリ系なのね。」

失敬な、これでも元大学生で今生でも魔法学園卒業者から教えを受ける立派な学徒だと言うのに!

「パートナーに『最強を目指すから人助けは辞められない』とかほざくような奴は大概脳味噌まで筋肉って相場が決まってんのよ。」

何故か呆れられたんだが!?



お茶を出され、漸く品物を選び終えたジェシカさんも合流し改めて話が始まった。

「で、この街の裏情報を欲しがるって事はあの貴族様と何かしらやらかすって認識で良いの?」

「…まあ、そうだな、俺の信じる最強のために救える人を救う。勿論、俺が助けられる範囲での話だけどな。」

特に愚かしいのは救えない、救おうとしても命を投げるような奴を助ける事は出来ないのだ。少なくとも、今の俺では、な。

「グラジオ!貴方様は!」

「いいだろジェシカ、お前だってあの娘を助けたいだろう?」

「それは…そうですが…流石に今の状況でそれを言い出すほど向こう見ずなのはいかがかと思います。」

…ま、そうだよね、俺も色々と考えた。結局は俺がバカだ馬鹿だとこき下ろしていた奴らと同じような物である。何も知らずに彼女を殺す策に翻弄されるか、事情を知って貴族と真っ向から対立するか、最高に頭の悪い対比だが結局こうである。

「まぁまぁ若人共、もうちょっとあたしの話を聞くがいいさ。」

そう言って彼女に諌められる。

「まず、ジェシカ、君の懸念する事もわかるが現状最速でこの街を出るには3日掛かる。そして私の掴んだ情報が正しければ3日以内に此処は鉄火場になる。騎士も兵も増員されて冒険者ギルドは傭兵稼業の臨時募集をほぼ完了している。」

荷物を着々と組み立て品物を引き出しながら、彼女はこの狭い店の大きくない壁に貼り付けた夥しい量の資料を元にしゃべり始める。

「そしてグラジオ、君がやりたい偽善行為について責めるつもり推奨するつもりもあたしにはない、ただ邪魔はするな。確実に此処のギルドの首をすげ替え場合によっては共和国上層部からもぎ取ってきた強制監査状を使って貴族ごと始末するんだ。段取りが狂わされると不味い、だから動くなら策を練って事前に相談しろ、冒険の結果は前準備で8割だ。わかるだろう?」

「ああ、もちろん、考えなしに行け面倒ごとになるのはわかっているよ。」

カウンターの上に並べられる商品、斧と防具、背負う形に紐を通した鞄には服と野営道具が収められている。

「…それで、クリス様は我々に何を求めているのですか?」

彼女の情報を聞き考え込んでいたジェシカさんが口を開く。勿論、俺を止める事は諦めていないだろうが此処での騒動に巻き込まれる覚悟はできたようだ。

「簡単だよ、これからの動きに無干渉か、それとも積極的に関わるのか、シンプルだろ?」

簡単な荷造りを終わらせ自分で入れたお茶を啜った年齢不詳の小人族は燃え滓を落として煙管に葉っぱを詰めていた。

俺は既に決まった答えがある。だがジェシカさんがどうするかは彼女次第だ。

「かかわります。既に騒動の渦中にいるような物ですし、他人や自分以外の何かによって動かされる状況に甘じているのが良いこととはいえませんから。」

そういうとしかたなさそうに肩を竦めながら獰猛に笑みを浮かべた。

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