高貴さの責任3
さて、優雅に過ごして優雅に休みたい…というのが本心であり本音であり俺という個人がやりたい事リスト瞬間風速ナンバーワンなのだが…
「キナ臭すぎる…」
「ええ、そうですね、間違いなく厄介ごとでそしてこの街自体がその中心でしょう。」
久方ぶりの水浴びに湯浴みはリフレッシュと共に思考をハッキリさせた。残念ではあるが寝る前に状況を整理しよう。
「まず、あの娘を殺そうとしたのはあの領主、アルベルトだな?」
あいつは演技で怒気を抑えているにしては冷静すぎた。肉親として子が襲われたなら激しい怒りとともに報復に乗り出そうとするのが貴族である。子女の襲撃など彼らの面子に真っ向から泥を塗るような行為だ。相手を完膚なきまでに粉砕する。そういう姿勢が貴族の基本スタンスだ。故に少なからず怒り、憎しみ、そういったものが出てなければならない。
しかし、彼のそれはそういうポーズでしかなく。あくまで一般的な怒りを演じているだけ、そうでなければ戦力は一人でも欲しいはずあそこで俺たちを丁寧に送り返したのが良い例だ。
「ええ、まず間違いなくそうでしょう。そうでなければあんな衛兵の巡回するはずのルートで長時間衛兵が来ないで、しかも見た目を取り繕っていましたが完全な装備で潜伏できません、彼らはちょっと身綺麗過ぎましたから。」
そしてあのバカな冒険者パーティーに依頼を受けさせたのもそうだろう。でなければなにせロクな成果も成績もない彼らが貴族の子女なんていう重要物資を運ぶように仰せつかるはずが無い、少なくともこの国の冒険者ギルドの一部に彼の手が食い込んでいるんだろう。
じゃあなんで殺そうとしているか…理由は複数考えられる。
「一つは彼女に不慮の事故で死んで欲しいナニカがある。俺みたいになっ!」
「ええ、そうでしょうね、親殺し子殺しは神罰対象、しかし事故はどうにもできません。」
これは最も単純かつ貴族的な理由だろう。肉親としての感情と貴族としての感情は往々にして一致しないのだ。
「二つに彼女が死ぬ事で彼らに何かのメリットがある。これはあんまりわからないが…どうなんだ?」
「なくはないでしょうね、問題がどういう形式どんな有利点があるかということですが…そこはわからないですね、あるとすれば敵対派閥の仕業に見せかける事で戦争の機会を得る。とかでしょうか?」
まぁ、これもなくは無い程度にあると思う。しかしこれの場合俺たちがこの街にいるだけで巻き込まれる可能性が高い、何方にせよ補給と物の買い直しなどを済ませたらさっさと出ていくつもりではあるが…俺は怯え、泣き叫び、唯一信頼できるのであろう騎士に縋り付く少女の姿をさっぱり忘れることなどできなかった。
夜も更けている。俺はどうするか考えながら目を瞑った。
(俺は俺の最強のために助けられる者を助けたいが…)
今の俺にそれほどの力はない、そうわかっていても少女の声が響いていた。
「んにゃむ…」
「おぎぎぎぎ!?」
新しい朝が来た。というか既に昼だ。久方ぶりにベッドで寝たら例によって例の如くジェシカさんに抱かれていた。もちろん性的な意味はなく物理的に骨が軋む程度のガチ枕扱いである。
「んしょ、んしょ…」
「ン…ンン♡」
抜け出すために鰻めいた動きをするがそのたびに胸部装甲とか漏れる声とかがエチエチのエチすぎて理性が死ぬ所だった。昨日のうちにこの部屋に仕掛けられた音を伝える魔術や感知系の魔術を剥がしておいて良かった。
顔を洗ってサッパリした所で袋の中身を数える。あの領主の企みなど知ったこっちゃないがこの金払いだけは尊敬する。二人で200枚ではなく一人200枚、つまりこの泡銭は400枚もの金貨と言うことになる。これだけあれば馬車に乗るのも、装備を一通り揃えるのも、ギルドに頼んで装備を届けてもらう事も出来るだろう。
「ま、ここのギルドに頼るのはまずいだろうがな。」
スイートはベルを鳴らせば飯が運ばれてくる。家にあったのとはまた違う少し弱い通信術式を使用すればある程度の注文もつけられる。流石だなぁなんて思いながら今日の予定を考えていく。
「先ずは逃げ道さがしからかな?」
領主館を中心に要塞めいた壁とバリスタなどの防衛兵器を備えたこの街は外側にも強く内側にも強い、もし街の中心で騒ぎがあってもここの騎士団は訓練されているし、昨日の衛兵だって一人一人がかなりのやり手だろう。それでお得意の集団戦術を取られればあの頭おかしい四人組相手でなんとか勝ち越しできる程度の俺じゃあすりつぶされるのがオチだろう。
というかそう考えるとやっぱり冒険者って強いんだな…いや、冒険者になろうと思う奴が可笑しいだけか?…うん、そう思っておくことにしよう。
それに此処から何処かに行くにしても先ず指標がいる。予定では温泉がある共和国の街に行くという話だったがここら辺はこの大陸のほぼど真ん中にあると噂の巨大な樹に近く。周りは平原で火山やそれに類する温泉が見られる地形とは思えない、それに貴族のリゾート地というくらいだ。こんな貴族1人が治めている所じゃなくて王領とか、それに類する何某かの強権が治めている場所の筈…
「っち!昨日のなんかキラキラした目のバカ2人に聞けるだけの事は全部聞いとけばよかったな。」
とりあえず宿を別のところに取るのは必須、ついでに買い物しながら情報収集だな。
「…う、うにゅーグラジオラス様…ムニャ…」
…とりあえずこの寝坊助ポンコツメイドを起こそう。こう呑気に寝てられるとちょっとムカつく。
「ううぅ…酷いです。鬼畜です。やはり娶ってもらうしかありませんね!」
「はいはい、じゃあちゃんと起きましょうね〜」
さて、ちょっとマッサージ(意味深)で強制的に起きてもらったジェシカさんと共に街へ出た。とりあえず最初に行くのは服飾屋、とは言っても仕立て屋ではなく古着屋だ。流石にジェシカさんは綺麗だが俺の方は自分の魔力の余波でもはや布である。此処らで普段使いの服とついでに大きめの鞄か袋を手に入れられないかと思いやってきた。
…というか最高級のスイートにボロ雑巾みたいなのが服で居座っていたと思うとちょっと恥ずかしい、いくら服装のセンスがないとはいえ一定の美術センスと調和と言うのはわかっている方である。と言うか大学生にもなるとさすがにTPOは弁えざる得ないのだ。
商店街、何処か上野のアメ横のような雑踏とカオスな品揃え、不揃いな店が最低限の秩序で並んでいて懐かしいような想いを起こさせる。店はかなり多岐に渡ったが古着だけでなくカバンや靴、状態は良くないが手入れすればどうとでもなりそうな武器防具まで置いてあるリサイクルショップめいた場所があったのでそこにした。
「いらっしゃっせ〜」
気怠げな店員の声かけ、だがその眼はお世辞にも綺麗とはいえないというかやる気とかそういうものが全般的に感じられない…白かったであろう前掛けの一部にある赤黒いシミがなんなのかについては気にしてはいけない、こんな生死が常に意識されるような名ばかりの法しかない場所では特に、である。
「ふむ…」
「私は少し奥の服を見てきます。」
手前にある靴をはじめとする革製品を少し手に取る。靴はまだいいだろう。なんだかんだこの木の靴が馴染んでいる。それにぶっ壊しても修復が楽なのもいい、どうせ踏み込みで毎度毎度粉砕しているからなぁ…けど欲しさはある。どうやらゴム質の何かで底を補強しているようであるし、つま先付近には内側から鉄板のようなものが付いている。デザインも良いが…
「サイズだな。」
どう見ても大人サイズ、俺の足には合わないだろう。気を取り直して他を見る。
「へぇ?」
次に目に付いたのは鞄、それもトランクの様な形で金具にベルトをつけて手持ちや肩掛け、背負子にもできる様だ。大きさも俺が2人くらい入れるほどの大きく叩くと少し硬い音がする。見た目も好きなタイプだが…
「銀貨10枚だ。」
「ふむ…」
金属製のジョッキを磨く店員が俺の視線に応える。どうやら値段も悪くはない、布や食料、水など旅道具を入れても余裕があるだろうし、金具には袋を吊り下げても良い、本体に骨組みが入っているため耐久性も悪くないだろう。更に魔力の通りも悪くない、寧ろ鉄なんかよりずっと良い、生物由来の物だから当然といえばそうなのだがこの箱自体が一匹の動物の皮と杖などに使う様な良い芯材で組まれているからこその伝導率だろう。
「買う。他にもナイフと簡単な野営道具と身の丈くらいの斧を見せてくれないか?」
俺の言葉と渡した金貨を見て一瞬何かを考えた店員はニヤリとわらう。
「それに情報だろう?よそ者さん?」
「ああ、勿論だ。」
所謂TRPGにありがちな冒険者セットを箱に詰め込み、いくつかの袋と容器、そして大人用の鍛造鋼の両手斧、手甲と具足をセットで売りつけられた俺はカウンターの椅子に腰をかけ煙管に火を灯す店主の笑みに応えた。
「宜しく。俺はグラジオだ。」
「ああ、金払いのいい客は好きだぜ?俺はクリス、ケチな回収屋だ。」
自由であることと高貴である事は似ている。それはどちらも責任と義務があるという事だ。




