高貴さの責任2
夜の町に入れられた俺たちは衛兵の案内でこの町で一番大きな屋敷へと歩いていた。だが…うん、何か変だ。俺とジェシカさんが目指していた街はエレメント王国王都からほぼ3日の共和国側、つまりまだエレメント王国内の筈だ。俺はジェシカさんに小声で話しかける。
「…ジェシカさん、ここ、共和国じゃないか?」
「ええ、私もちょっとそんな気がします。」
ま、最初からそうだったがまず冒険者パーティーにいたエルフが何の抵抗もなく街へ運ばれていったのが一つ。まぁ、これは冒険者ギルドのおかげかなと思ったのでさほど違和感はなかった。次に目を疑ったのが獣人の衛兵、これはもうエレメントじゃあありえない、何せ人間至上主義だ。獣人やその他人間以外の人類は奴隷くらいしかいなかったエレメントではまず見ない、というか文字通り存在しえなかった。
「だが一体…」
「恐らくグラジオの操作技術の向上と彼の攻撃力が合わさった結果でしょうね。」
そんなアホな、あの町から3日と言ったってそんな生やさしい距離じゃなかった筈だ。
「ここが領主館だ。冒険者といえどなかに入れば貴族の規則に則ったある程度の節度と礼節を持って欲しい、いいかね?」
考え込んでいるといつのまにか領主の館とやらについていた。少し辺りを見ればボロボロになったあの馬車が置いてある。どうやら最後の最後でお手製の車輪が壊れたようでメイドや騎士の一部が眠い目を擦りながら掃除していた。
中はザ・貴族の館、と言うには少し物寂しく感じる広間、俺が元いた家が気違い染みた上流階級だったのもあるが、この家は一品一品のセンスも品もいいのになんだか物足りない気がする。
「ようこそいらっしゃいましたね、冒険者、依頼を受けたアルス様は…」
そこに現れたのはシャンと背筋の通った老紳士、恐らく筆頭執事だろう。身につけた品は一級だがそれ以上に彼がそこにいるということです館の歪さが少しマシになったような気がする。いや、正確にいえば…館自体が主人とそこの住人をよりよく見せるための装置ってところか?
「俺です。」
「…ふむ、ではあなた方がお嬢様と我が家の騎士を助けたと言う流れの方ですか、畏まりました。ではお部屋にお通しします。」
そう言って通されたのは真夜中だと言うのに煌々と光の灯る豪華絢爛な応接間、案内してくれた執事は入室して暫くすると主人を呼びに行き入れ替わりで茶菓子と紅茶をメイドが配膳する。そうなってくると優雅にそれらを楽しみながらふかふかソファに身を沈めたくなるが今の姿と立場では遠慮せざる得ない、くっ!風呂は無理でも水くらい浴びるべきだった!
小汚いという言葉があるのだから大汚いと言う言葉もあって然るべきだろう。それが自身のことでないなら笑い話で済んだのだが、残念ながら俺のことだ。そんな盛大に血塗れなわけではないが数日間森で過ごしたせいだろう、土や垢が付いている。
そんな俺の姿や身綺麗にしているとはいえ同じ環境にいたジェシカさんをみても顔をしかめないあたりプロなのだろう。
剣士くんと魔法使いちゃんが座って少し経つと応接間のメイドが扉を開ける。襟に見える光と微かな魔力の流れからウチのメイドも使っていた伝達魔術だろう。
「やぁ、冒険者達夜遅くにすまないね、僕はこの街で領主をしているアルベルトだ。」
声色だけは和やかな挨拶とともに入ってきたのはこれまた和やかそうな表情の若い男、身なりは立派だし、あの子の背丈から見た年齢からも違和感は感じない…だが若くして領主となると言うのは貴族として優秀か、何か別の功績を立てたかの二択だろう。
そしてあの子供を襲っていた訓練された兵士…キナ臭すぎて鼻が曲がりそうだ。こう言うのが中世風封建制度の嫌なところ、地球での歴史を見れば明らかだ。
「私の娘を救ってくれたこと、感謝する。とりあえず…報酬の話からしようか?」
そう切り出したアルベルト、勿論それを止める理由はない、ていうか正直言って今回の件はどう足掻いても手に負えない、来て早々貴族同士のいざこざに巻き込まれるのは勘弁だ。
が、俺のそんな心情を見抜いてか見抜かないでか知らないが素朴剣士が声を上げた。
「ちょっと待って、領主様、今回の襲撃どう考えても出来すぎていますし相手もただの盗賊には見えませんでした。こちらも仲間を失っています。まずは事情からお話しいただけないでしょうか?」
「…それはどういう意味かわかっていっているのかな?」
「はい!俺と仲間は冒険者ですがこの領地を愛し、この領地で生きることを誇りに思っています!そして何よりダンとヴィックス、それにアリアの仇を討ちたいのです!」
アホだ。アホがいる。お前はどこぞの貴族か騎士かと突っ込みたくなるほど地雷臭たっぷりな発言どうもありがとう!くたばりやがれこのクソバカがああああ!
そこで薄らと貴族が笑うのが見えた。
「ふむ…ならば「領主様、申し訳ありませんが私とツレは報酬だけで結構です。事情をお話しなさるならこの部屋を退室しますがよろしいですが?」…了承した異国の冒険者、セバス!」
「ハッ!此方に」
「その方に共和国金貨200枚ずつ、そして宿を取らせろ。勿論上級宿だ。来て早々にこの国の嫌なところを見せてしまった。せめて宿は良いというところを見せろ。」
「畏まりました。では、こちらに…」
素朴くんと魔法使いが信じられないものを見るような目をしてくるが、その目をするのはこっちの方だ。冒険者として駆け出しのうちに貴族と関わるのはタブー、いや、むしろ自殺行為だ。囲い込まれるか傭兵紛いの捨て駒に仕立てられるのが関の山、既にそういう目にあってまだくじけないのは才能だが、その嗅覚では生きていけないだろう。
俺たちは執事に連れられ優雅に地雷原から抜け出し、その日は貴族仕様のスイートでゆっくりと休んだ。




