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刺されてオギャッてバブリーです

…なにも突っ込まないでください、ええ、分かってます。分かっています


背中に鈍い錘のような物の当たる音と共に鋭く刺すような痛みが襲いかかってきた。じんわりと暖かく滴るように拡がるように俺の中から何かがこぼれた。

「え?」

最悪なことに呼吸ができない…背中から肺と心臓を打ち抜くような刺し方をされたのだろうか?間抜けな顔のまま膝から崩れ落ち前のめり気味に倒れた。何となく高速で流れる記憶や景色にもう死ぬのでは無いかと言う嫌な確信を持ちながら相手を見てやる。いや、と言うかそもそも何故俺が刺されている?痛い、痛いし苦しいし俺を見下ろしてくる血のべったりと着いた包丁を持った女は吃驚と困惑と動揺に塗れた顔をしてこちらを見ている。

「………誰?」

…もう最悪である。まさかこんな短く人生が終わるなんて、しかもその終わりが何処かの誰かの痴情の縺れの巻き添えかよ、あー、なんかひんやりしてきて思考がぼやけてきた。最後の最後にこのバカなクソ女に何か言ってやる!

「くた…」

くたばりやがれクソメンヘラが顔も何も知らねえけど関係ないやつさしてぼけっとしてんじゃあねえこの女、とか長文で罵りたかったが俺の最後の言葉は非常に短く。そして何も伝えきれないまま終わる。


ああ、20まで生きてたけど何にも残せなかったな


両親や友人やいろんな人のことを思い出すと涙が溢れ、見開いたきっと充血でもしてるんであろう目から流れ出る。


俺、剣崎菖蒲(けんざきあやめ)の人生は、数多の未練を残して閉幕した。




『よちよちよちー、かわいいでちゅねー』

そして、その暗転ののちが髭面のオジサンの変顔だと言うのだから俺はもれなく泣いてしまったよ、なにせ超強面で顔に傷が何個もあるようなヤクザ顔である。小市民たる俺のメンタルはもう色々と限界だったのもあるが、理解しがたい本能のようなもので俺は泣き叫んでいた。

そして慌ててそのおじさんを退けて俺を抱きかかえた女性を見るに俺は泣きわめく肉体を放り出して放心していた。


やっべ、転生ものかよ




言っておくが、俺はソウルライクゲームとRPG的世界観、TRPGなんかを愛好する少しばかりと言うにはズブズブすぎてしかしてオタクと言うには金払いの少ないタイプの人間だった。読む本も二次創作や電子書籍なんかが多かった。

そしてそう言う類を読む者にとっては憧れであり、俺としては勘弁願いたい類のお決まり的な超常現象、所謂『転生』知識と記憶を持ったままの『強くてニューゲーム』的なアレだった。

ほんのちょっぴりの期待を込めて座ってない首で周りを見るが、うむ。少なくとも俺のいる部屋は中世レベルの文化度でコンセントやらなんやらはないし、それにしては高度な技術によってできた工芸品や光源がある。…これが何を意味するのかわからない俺ではないが現実を直視したくない、だがあえて言うのならば科学以外のなにかもしくは凄まじく科学の発展した世界に生まれたらしい、うん、まだ確定じゃない、俺の想定で最悪は剣と魔法の異世界ファンタジー、次点で貴族系だ。

うん、だから俺は見てないぞー、壁にかかった生物学的にちょっとおかしいツノの生えた熊のような怪物の首の剥製なんてミテナイヨー、ボクマダアカチャンダカラワカラナイヨー…

「あう!」

うん、ダメだね、認めるほかないよねだってお母さんとかあの強面のオジサンと言う名のお父さんとかが平気で赤ちゃんをあやすのに指から火を出したり水を出したりしてたもんね、ちょっとすごめの手品とか、発達しすぎた科学は魔法と見分けがつかない的なあれなら良かったのだが、種も仕掛けもございませんとばかりに指先どころか手のひらから火の玉を出すオジサンに体は喜んでいても頭が痛くなっていた。

だが同時に言いようもない興奮のようなものもあった。やはり俺もRPG大好きなゲームっ子である。好きなジョブは魔法剣士なお年頃だ。剣と魔法のファンタジー異世界は非常に嫌だがそのような超常現象を自らの手で起こせるのだと思えば一瞬機は紛れ、俺のボディはその緩みを察知して色々と漏らすのだった。



おしめを取り替えてもらいながらそのことから意識をそらすために何故俺が転生が嫌か、ファンタジーが嫌なのか挙げ連ねて自分で整理しておこう。

まず、無駄に尖った文化構成が想定されるため非常に原始的かつ論理的には正しい階級制度によって腐敗などが進んでいる可能性が高い、またこう言う世界において王族や皇帝というのは絶対にいる物である。このような世界や文明の場合魔法の力や特殊性、勇者やら魔王やらなんかの血筋などなどの理由から異常なまでの確率で中央集権制の専制君主制が採用されている。そして専制君主とくれば貴族制、権力と武力があれば腐敗なんて後は簡単だ。夏場の大学生の部屋の作り置きカレーが腐るのと同じくらい自明の理だろう。

そして、ファンタジーとか言うクソみたいなリアルは武装した人間よりも圧倒的に強い存在がうろちょろしている。挙げつらねればきりもないし、そもそも首の太さだけで俺の寝ているベビーベッドよりあるような熊みたいな化け物とか前世でも会いたくない化け物だ。そしてそれくらいならゴロゴロしているのがファンタジー、それが理不尽であり、英雄譚や物語としては面白いところである。

最後に魔法、またそれに類似した存在の事である。

ぶっちゃけ転生もそうだがこうした超常現象は憧れやらなんやらがあると言うより、一種のフィクションだからそう言う羨望のような感情を差し挟めるのであって実際あるとなると非常に迷惑かつ理不尽なのだ。


上記、諸々の理由より俺は現状が非常に不安だ。まず生まれが怖い、今の所良好そうだが格式が高すぎても、ましてや王族などありえないし、前世において魔法使いと呼ばれる存在である両親から生まれた俺がそうでなかった場合にどうなるかも恐ろしいし、なにより長兄であった場合最悪だ。

あ、とりあえずマイサンは付いていたので男です。さっき漏らした時確認しました。

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