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剣の神官と女神の剣  作者: 橘トヲル
83/105

83話 墜落


 あっという間に地表が近づいて来る。

 火を噴いて地表目指して飛翔するインドゥアを追ってシュウは落下を続けた。

 すぐに空に浮かんでとぐろを巻く魔龍王の体も見え始める。

 インドゥアは一直線にその体へ向けて加速した。

 このまま刺されば間違いなく大ダメージを与えられる。

 その確信と共に突き進む。

 雲を吹き飛ばし、空気をもはねのけながらまっすぐに。

 最後の雲に突入し、一瞬でドーナツ状に霧散させる。

 すると目の前に魔龍王の蛇身が一気に映った。

 王都の上を這いずるように、覆う様にとぐろを巻く姿はまさしく圧巻。

 その背に向けて、インドゥアはまっすぐに進んでいた。

 漆黒の光線を放っていた魔龍王が、金の瞳をこちらへ向けたのはインドゥアが突き立つ直前だった。

 確実に当たる、その確信が揺らいだのはまさしくその瞬間だ。

 魔龍王の体が、その巨体に似合わぬスピードでインドゥアを避けたのだ。


「だが、甘い」


 インドゥアに、指示を送る。

 矢柄から噴き出していた炎の位置が変わり、矢が直角に突き進む方向を変えた。

 見る者が見れば無視された物理法則に文句を言いたくなる光景だが、これが神々の兵器と言うものだ。

 そして今度こそ魔龍王は避けられなかった。

 インドゥアが、魔龍王のどてっぱらに突き刺さる。


「GGGGGGGGGGGIYYYY!?」


 王都中に響き渡る叫びだった。

 だがそれだけでは止まらない。

 インドゥアは全くスピードを衰えさせることなく直進したからだ。

 引っ張られた魔龍王の体が、王都中を覆っていたその威容が流されていく。

 進む先は王都を囲む山脈。

 魔龍王がその身を隠していた魔龍山脈だ。

 大きくひび割れが走り、中身が抜けたことよって崩れた山脈へ蛇身が叩きつけられた。

 衝撃が轟音となって響き渡る。

 魔龍王が現れた時と遜色ないような轟音だ。

 ぶつかった魔龍王の体の上には崩れた山脈が覆いかぶさって重しとなる。

 あまり意味はないだろうが多少の時間稼ぎとなることを祈りたかった。

 王都の上空でその様子を見たシュウは、インドゥアを還す。

 代わりに呼び出したアヴラウラ=テンプスターズで風を操って再び地上に着地した。


「シュウさん!」


 すぐにリットが駆け寄って来る。


「小僧、無事か」


 おまけにゼストも駆け寄って来た。

 ゼストはどういうわけか上半身裸で、生身をさらしていた。


「リット、お前の親父は露出狂なのか?」

「違わい! 魔龍王の攻撃を躱しとるうちにこうなったんだよ!」


 そう言って弁明するが、リットの目はどこか冷たい。


「冗談のつもりだったが前科でもあるのか?」

「もうよい! それよりもだ。あれで倒せたのか?」


 そう言って視線を遠くの山脈に打ち付けられた魔龍王へと向ける。


「そんなわけないだろう。これからが本番だ」


 手ごたえはあったが、とても倒せたとは思えない。

 多少でもダメージがあったならもうけものだが。


「とりあえず、これから戦場はあっちになる。避難民を近づけるなよ」

「おい、一人で行く気か?」

「これから使う兵器は周囲一帯を破壊するからな。周りを見て加減するなんてことできないから誰も寄せ付けるな」

「……分かった」


 ゼストがシュウの真剣な視線を見て理解したのだろう。

 本当にここから先は一切の余裕がなくなる。

 そして使う武器も、もはや武器ではない。

 兵器と言って遜色のないものになる。

 そのために魔龍王を魔龍山脈の方に移動させたのだから。


「シュウさん、どうかあなたに女神の祝福がありますよう」


 そう言ってリットが目の前に跪いて祈りを捧げる。

 一瞬、光がシュウの体を包む様に広がり消えた。

 ブレスの魔法の様だ。


「ありがとう。リットもここで待っててくれ」

「……分かりました」


 リットが頷くのを確認して視線を魔龍山脈へ向ける。

 土埃の立つ山脈には魔龍王の蛇身が変わらず横たわっている。


「来い、ディガイアス」


 手の中に喚んだのは巨大な戦斧だ。

 柄は深い茶色の木が絡み合っており、その先には鋭い両刃が付いている。

 その大斧を、持ち上げる。

 ずっしりとした重み。

 それを、


「ふんっ!」


 そのまま地面に垂直に突き刺す。

 すると刺した瞬間に大地が鳴動し始める。

 魔龍王が出現した時にも負けず劣らぬ揺れだ。


「な、何ですか!?」

「心配するな、こいつの能力だ」


 遠くで轟音と、魔龍王の叫び声が聞こえた。

 能力はきちんと発動していることを理解し、安堵する。


「何をした?」

「あれだ」


 疑問を投げてくるゼストに魔龍山脈を指さす。

 そこには少し前まで存在しなかった物が見えた。


「山の形が変わって……いや、槍……杭か? あれは」


 ゼストの言葉に頷く。

 王都を取り囲む城壁よりもずっと高いところまで土で作られた杭が伸びている。

 遠くから見ると細い山が新しくできたように見えるかもしれない。

 だが実際は地面から巨大な石の杭が天に向けて伸びているのだ。

 ディガイアスの能力は触れている間大地の支配権を得ると言う物。

 地に落ちた蛇を狩るのにはちょうどいい兵器と言えた。


「それじゃ、行ってくる」


 シュウは自分の立つ足もとの地面を数センチ隆起させた。

 ディガイアスは地面に触れていないと効果を発揮できない。

 もし今能力を解除すれば魔龍王が空に逃げてしまいかねない以上、このまま地面を伸ばしていくつもりだった。


「お気を付けて」

「避難が進み次第、後を追う」

「あんたが来ても意味はないと思うけどな」

「囮ぐらいにはなれるさ」

「……期待しないで待っておくよ」


 ゼストに憎まれ口を叩きながら、地面を操作する。

 一気に視界が広がる。

 ついさっき落ちてきたばかりの空にぐんと近づいた。

 足もとの地面がもともとここに建っていた王城よりも高く伸びあがる。

 それも垂直ではなく斜めに、魔龍王のいる山の方へ向かって。

 途中で強度を確保するために真下の地面から足を作って伸ばす。

 これで一本の橋にいくつもの橋桁がつながった。

 そうこうしているうちに山脈はあっという間に近づいてきた。

 山脈周辺は惨憺たるありさまだ。

 インドゥアがぶつかった衝撃で山脈が一部消し飛んでいた上、一緒に吹っ飛んできた魔龍王によって山脈もズタボロだ。


「おいおい、マジかよ」


 山脈に叩きつけられた魔龍王に対して、シュウはディガイアスを発動し無数に生み出した地面の杭で突き刺し動きを制限したつもりだった。

 実際、地面の杭が突き刺さってはいる。

 魔龍王の体を無数に貫き、百舌の早贄のような状態だ。

 恐ろしいほどのサイズ感違いさえなければだが。

 そしてその杭が刺さった状態で魔龍王は暴れまわっていた。


「GIGIGIGIGIGIGIGIYYYYYYY!」


 金属を擦るような、嫌な叫び声とともに蛇身をうねらせくねらせ杭から逃れようとしている。

 煙幕の如く土煙が立ち、崩れかけの山々が倒壊し始め木々はこそげ落とされていた。


「くそっ」


 さらに地面を操り地面を鞭のように作り替える。

 長く伸ばしたそれを、蛇身に絡みつかせる。

 少しでも動きを止めておかないと怪獣大決戦の跡地になること請け合いだ。

 すでに魔龍王の周囲ははげ山同然なのだから。


「GGGGG……」


 全身を覆う様に大地の鞭を這わせてようやく動きを止めることに成功する。

 魔龍王の視線がゆらゆらと、何かを探して蠢く。

 今がチャンスか。

 そう思って、伸ばした鞭の一本の先端を魔龍王に向けて振り下ろす。

 落としながら先端を薄く広げて刃にする。

 魔龍王の頭のすぐ下、人間なら首を目がけて一撃を叩きつけようとした。


「GYIIIIIIIIIIII!」


 カッ、と魔龍王の周囲に黒光が収束する。

 光点から定規の様にまっすぐな光が迸り、鞭の一撃を付け根から切断した。

 そして攻撃はそれにとどまらない。

 無数の光点が発生し、まっすぐな光が幾つも放たれ大地の鞭を切り裂いてく。

 あっという間に拘束が解かれていく様を、シュウは真上まで近づいて見ていた。


「最後の仕上げだ」


 暴れに暴れ続ける魔龍王を眼下に収めながら、シュウはディガイアスに指示を送る。

 山脈の岩肌を尖らせ再び杭状に。

 地面を鞭状に。

 光線を吐き出しまくる魔龍王に向けて放った。

 無数の光線を受けボロボロになりながらも、その体を覆っていく。

 そして蛇身までたどり着いた部分を硬質化させる。

 魔龍王はその異変に気が付いたのか一層体を蠢かせて拘束から逃れようとしていた。

 それを見下ろしながら、シュウは足場から一気に飛び降りた。

 眼下で暴れる魔龍王の金眼と真正面から向き合ったのはこの時だった。


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