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剣の神官と女神の剣  作者: 橘トヲル
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46話 決断


「それで、決まったのかしら」


 家の扉へと向かいながら、マーリーが尋ねる。

 リットを連れていくのか。

 それとも置いていくのか。


「……?」


 返事がないことを疑問に思い、振り向くとシュウは空を見上げて佇んでいた。

 その顔が、マーリーをまっすぐに見据える。


「決めたよ。リットは魔王討伐には連れて行かない」


 はっきりとそう言った。

 マーリーは強化前と比べてはっきりと意志の籠った瞳にわずかな疑問を抱いたが、今言うことではないと口をつぐむ。

 大なり小なり影響が出ることは分かっていたからだ。

 最悪、人格が崩壊するレベルでの変容もあり得ると覚悟していただけに、うまくいったことは喜ばしいと思う。


「そう。それじゃ、あの子はマルクドーブの街に置いていくの?」

「いや、このまま王都に連れて行こう。現状一番安全なのはそこなんだろう」

「防備と言う意味ではそうだけれど……」

「それと、魔龍王の居場所は分かっているのか?」

「……以前は魔龍山脈北東の山頂付近にいたわ。あたしたちが戦ったのはそこよ」

「ずいぶん王都と近いんだな」


 王都は魔龍山脈に囲まれた土地にあると聞いていたが、そんな目と鼻の先だとは思っていなかった。


「もともとは別の場所にいたのをあたしたちが戦うためにおびき出したのよ。それに、今もそこにいるとは限らないわ。あれは10年も前の事なんだから」

「それもそうだな」

「この10年の間に何度も調査されたけど、魔龍王どころか魔物一匹すら見つかっていなかったのだから、移動したと考えるのが妥当でしょうね」

「なら、なおさら王都だな、国の中心なら情報も集まる。俺の刀剣召喚の強化にも情報がいるし」


 脳構造が強化されて、脳内で武器を検索しても気絶はしないようになったが、最初から知っておけるならそれに越したこともない。


「そうね。それじゃまずはマルクドーブで足を確保するのが先ね。歩いていたら半月はかかっちゃうもの」

「わかった。というか、あんたは一緒に来るのか?」

「当然でしょ? じゃなきゃいったい誰が女神を倒す剣を造れるというの?」


 確かに、今の計画では女神と直接会ってマーリーに対抗できる武器を作ってもらわないといけない。

 果たしてそこまで行けるのか、脳構造を強化したシュウにとってもかなり不安の残る話だったが。


「旅の間、あたしは普通の猫として同行するわ。リットには拾ったとでも言いなさい」

「そんなんで女神の目をごまかせるのか?」

「今までばれたことがないから、そう期待するしかないわね」


 なんとも根拠の薄い自信だった。

 とは言え、今はほかにできることもないしマーリーを置いていくこともできない。別れて行動しても合流できるとは思えない以上、その案で行くしかなさそうだった。


「とりあえず、リットを起こそう」


 二人は家の中へと戻っていった。


   ◇


 マーリーが魔法を解除すると、リットはすぐに目を覚ました。


「リット、おい。起きろ」

「うーん……あと5分……」

「そう言うのはいいんだよ」


 お約束のような寝言を言うリットから掛け布団を引きはがす。

 すると、リットがゆっくりと目を開いた。


「ああ、おはようございます、シュウさん」

「おはよう、体に異常はないか?」

「何を言ってるんですか?」


 首を傾げながらも自分の体を確認するリット。

 しかし特別異常は感じなかったようで首を左右に振った。


「そうか、よかった」


 とりあえずホッと一息つく。


「ここは、どこですか?」

「ここは、魔女の家だ」

「魔女の家?」


 首を再び傾げるリットに説明する。

 森の中、霧の中をさまよっていた二人をこの家の魔女が助けてくれたこと。

 リットが気を失っている間に魔物の襲撃があり、倒すためにシュウの能力が強化されたこと。

 そしてそのさなかで魔女は死んでしまったことを告げる。

 魔女が死んだくだりでは沈痛な面持ちのリットには悪いが、当然これはマーリーと二人で考えた嘘だ。

 リットにマーリーの存在を知らせず、シュウの能力を強化できたことを伝えるにはこうするほかなかった。


「ここにいたのはマーリーじゃなかったが、結果的には彼女のおかげで目的は達成できたわけだ」

「そんなことがあったんですね」

「にゃー」


 納得したように頷くリットの前に黒猫が飛び乗る。

 いきなりベッドの上に乗ってこちらを見上げる黒猫に驚くリット。


「こ、この子は?」

「魔女が飼っていた猫だよ。死ぬ間際に託された。このまま連れて行こうと思ってる。いいか?」

「いいんじゃないですか? 可愛いですし」


 そう言って猫のあたまをそっと撫でている。

 手つきがかなり優しく、壊れ物を扱うようだ。

 あまり触りなれていないのかもしれない。

 黒猫の方は機嫌よさげに相手をしている。本当に堂に入った演技だなと感心した。

 その様子に胸をなでおろす。

 どうやって危険な旅に猫を一匹連れていく理由を考えようかと思っていたが、これなら大丈夫そうだ。


「それで、これからの事なんだけど。一度王都に行こうと思っている」

「……王都に、ですか」

「そうだ」


 あからさまに嫌そうな顔をするリットに頷く。


「魔龍王に関する情報も集めたいし、刀剣召喚で喚べる剣の幅も広げたいからな。この国の中心なら情報も集まりやすいだろう」

「それは、そうですが」

「……城に戻りたくないか」

「見つかれば、連れ戻されるのは確実ですよ」


 ならば好都合だ。

 実際はこの国で一番安全であろう城に置いていくのが目的なのだから。

 しかしそんな考えはおくびにも出さず続ける。


「城まで行く必要はないさ。城下で情報収集できればそれでいい。魔龍王に対抗できる可能性は高まってきたわけだし、ここらで居場所を掴んでおくのも悪くないだろ」

「そう、ですね。わかりました。行きましょう」


 不承不承、と言う雰囲気だったがリットが頷く。

 これで次の目的地は決まった。


「マーリーさんに会えなかったのは残念ですが、魔龍王討伐のきっかけが手に入ったなら良かったですね」

「ああ。一度マルクドーブの街に行って足を確保してから王都に向かおう」

「分かりました」


 そう言って頷いたリットだったが、その顔が何かに気が付いたようにはっとする。


「どうした?」

「いえ、ここに魔物が現れたということはマルクドーブの街にも襲撃がある、の、では、と……」


 その顔が徐々に青ざめたものになっていく。

 それを聞いてシュウもはっとする。

 森の中で襲ってきたのはドラゴスケルトンだった。

 ここへ来たのはミナトだったが、だとすればほかのドラゴスケルトンはどこへ行ったのか。


「すぐに準備して街へ向かおう。俺は荷物を用意してくる。リットは下に行って何か腹に入れておけ!」

「わ、わかりました」


 頷いたのを確認して、シュウは部屋を飛び出した。

 少し考えればわかることだった。

 急がなければまずい。

 焦燥感に急かされて、シュウは廊下を通り抜けた。


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