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剣の神官と女神の剣  作者: 橘トヲル
42/105

42話 魔王


「そもそも、魔王ってのは一体何なんだ?」


 シュウはこの世界に来てからずっと抱えてきた疑問をぶつける。


「少なくとも、あんたの知ってる物語の中の魔王とは違うわね。魔王とは、世界そのものを脅かす存在に与えられる称号よ。そしてその認定は、女神セレナが託宣で行う」

「女神が?」

「そう。そしてそれに対抗して派遣されてくるのが勇者。当時の亜人族には獣魔王が、魔族には悪魔王が存在したのよ。どっちも倒すのには時間がかかったわ」


 猫の体で肩を竦めて器用にやれやれとポーズを取る。

 その様はシュールだったが、今とんでもないことを言った気がする。


「魔王が、何人もいたのか」

「そうね、悪魔王なんか8人もいたからかなり面倒だったわ。倒しても倒しても新しい悪魔王が現れるし」


 それでも少し、声に懐かしむような響きが入るのは、きっと当時仲間と旅をして戦った記憶がつらい物だけではなかったからなのだろう。

 だがその表情が急に曇る。


「本当はその時に気が付くべきだったのよ」

「気が付く?」


 一つ頷きを返してマーリーは重々しく口を開いた。


「……そう、魔王は女神によって意図的に生み出されている存在だったのよ」


 ぴしり、と体が硬直する。

 エルミナの城で、セージに言われた言葉については、シュウ自身何度も反芻して考えてはいた。

 女神の裏切り。

 魔王から聞いたという真実。

 それが何を意味するのか。


「本当に、この世界の魔王との戦いは女神の自作自演だったんだな……」

「意外と驚かないのね」


 呟く玲斗に対して、マーリーは意外さをにじませながら目を丸くしている。


「セージから聞いて、かなり考えたからな」

「そう……」


 物憂げに、目を伏せるマーリー。

 おそらく、セージの現状もマーリーは既に知っているのだろう。

 あの、人間とは思えない姿を。


「セージは、女神を滅ぼさなきゃいけないって言ってた。魔王の側に着くことで、本当にそんなことが可能なのか?」

「どうかしらね。一応、彼らのプランは知っているけど、聞く?」

「ここまで来て聞かないっていう選択肢はないだろう」

「それもそうね」


 はぁ、と大きくため息をついてからマーリーは口を開いた。


「まず、この世界の人間をすべて滅ぼすらしいわ」

「……なんじゃそら」


 あまりの荒唐無稽さに、絶句する。


「馬鹿げてるでしょ? でも本気なのよね」

「どうやって……」

「手段は、今ならどうとでもなるでしょうね。魔王はセージと相打ちになって、限りなく死に近いところまで行ったわ。女神の目をごまかすほどにね」


 マーリーの眼が、凍ったままのカップに注がれる。

「1000年の戦いの終わりを女神に保証されて、人々が浮かれないはずはなかった」


 カップの中の凍ったお茶が、再び湯気の立つ液体へと変わる。


「街の防備がおろそかになるほどに、か……」


 エルミナの街で見聞きしたことだ。あの町では対魔物用の装備がすでに骨董品扱いだった。マルクドーブの街は違ったようだが。


「10年の歳月をかけて、魔王は人を弱体化させた。セージを大国に送り込み、内側から腐敗させ、安穏とした平和は人々から信仰心を奪った。これはさすがに女神も焦ったんじゃないかしら」


 いい気味、と思っているのか鼻でマーリーが笑う。


「この世界の人間はね、女神によって造られた存在なのよ。それは伝承にも残っているし、あたしの眼にはそれが正しいってわかる」


 リライトの力によってだ。


「どうやら女神は人を戦い合わせるのが目的みたいね。どうしてかはわからないけれど」

「そんなの、」


 女神と呼ぶには禍々し過ぎる存在だ。

 もはや女神こそが魔王と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。


「いい感じに的を射ていると思うわよ、それ。兎にも角にも女神によって魔王が生み出され、勇者が派遣され世界は滅びと再生のサイクルを繰り返している。これがこの世界の現状ね」

「それじゃ、俺はどうすればいいんだ」

「……どうしたかったの?」


 困ったような顔をするシュウに対して、マーリーが逆に問い返してくる。


「それは……リットのために魔王を倒してやりたいとは思ってたさ。今の現状じゃ、神官のリットには生きにく過ぎるし」


 初めて出会った時、勇者の代役と言われて。

 今までの戦いを経てあの少女を守ってやりたいという思いはある。


「それじゃ、魔王討伐に行ってみる?」


 近所のコンビニにでも行くかと言うような調子で聞いてくるが、これには頭を左右にぶんぶん振って否定する。


「いや無理無理、勝てるわけないって」


 手持ちの武器では勝てる気がしない。

 あのエルミナの城で感じた魔王の気配はそれだけのものだった。

 多少強くなったり、この世界の武器を一通り知って喚び出せるようになってもそれは変わりないと思う。

 おそらく必要なのは、この世界にない武器。

 聖剣とかアーティダクトとか呼ばれるレベルのものだ。

 しかし刀剣召喚で呼び出せるのはあくまでこの世界に存在する武器だけだ。

 他の世界から持ち込まれた武器は色々試した限り喚び出せていない。


「そうね、魔王を倒せる武器や魔法は女神から渡されたものと同格以上じゃないと正直不可能ね。あれは強くなりすぎたから」

「理不尽な強さだな」

「そうでもしないと、魔王もあっという間に勇者に倒されていたでしょうね」


 と魔王を擁護するかのような発言をするマーリー。

 その言葉に少しの違和感を覚えたシュウだったが、次の言葉でそんな疑問は吹き飛んだ。


「まぁ、あたしのギフトでなら何とかできるかもしれないけれど」

「ほんとか?」

「あたしの本体が戦った時に魔王の体の構成は確認できたから、それを打ち砕ける術式を組めばいいっていうだけの話よ」

「……本当にとんでもギフトだな」

「まぁね」


 満足げに尻尾を揺らすマーリー。


「とは言え倒すのは容易じゃないわよ。……それでも、やる?」


 猫の目で、まっすぐにシュウを見てくる。


「やるさ」

「……本気みたいね。洗脳が解けた状態でよく言えたものだわ」

「洗脳? そう言えば、女神が記憶の封印をしてたって言ってたよな」


 起きた時の会話を思い出す。


「そうね、それじゃ次はあたしの願いも聞いてもらいましょうか」

「ああ、教えてくれ。可能な限り手伝う」


 居住まいを正して聞く。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。


「大した話じゃないわ。女神を殺してほしいのよ」


 また、コンビニにでも行ってくるみたいな口調でとんでもないことを言い出した。


青ブタを一気読みしていたらこんな時間になってしまった。

反省はしている。

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