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剣の神官と女神の剣  作者: 橘トヲル
21/105

21話 疾走


 ギルドを出たシュウは、一路南西へと向かった。大通りには人気がなく、ほとんどの人間が避難したか家の中に閉じこもっているようだった。まるで全く違う街に来てしまったかのような違和感を覚えながら、一心に駆ける。

 それでも教会に着くまではかなり時間がかかる。

 ちら、とシュウは人気がないことを改めて確認すると、足に力をこめ手近な建物の屋根に飛び上がった。そのまま軒先に手をかけ屋根へとよじ登る。

 上った屋根の上からは、遠くまで見通せた。ギルドの屋根の上から見たのと同じ、いくつもの煙が遠くで上がっている。あちらが南西の方か。


「近道だ」


 通りを無視して屋根の上を走る。

 そのスピードは常人の物ではない。車と同じくらいの速度は出ているだろう。この速度になれば体にかかる風も相当なものになるはずだが、シュウ自身は風の影響を全く感じていなかった。


「やっぱり、見つけられてよかった」


 ぼそりとつぶやいて手の中にある片手剣に一瞬目を落とす。

 淡い緑色の刀身は緩くカーブを描く幅広の剣だ。柄が刀身に比べて少し長めなことが特徴だろうか。

 そしてその剣がシュウの両手に握られていた。

 疾風剣コガラシ

 二剣一対の双剣だ。

 装備したものの魔力を吸収し、疾風の如き敏捷性を与えてくれる魔剣でもある。ギルドで見つけられた3本のうちでは一番使い勝手のよさそうな武器。


「FUSYURURURURURU」


 深く思考に入っていたシュウだったが、人間の物ではない声に意識を表層に戻す。

 人間のものではない声に見れば、数軒先の家の壁をよじ登ってきた金色の瞳と目が合った。3体のドラゴンレイスが屋根の上に顔を突き出してきている。それらは屋根の上に足を着けると、金色で縦長の瞳をシュウに向けて鳴き声を上げる。挑発してきているようだ。それぞれが手に持った粗末な剣を掲げている。


「悪いけど、相手をしてる暇はないんだよ」


 そう言うと屋根によじ登ったばかりのドラゴンレイスめがけてさらに速度を上げる。

 駆け抜けた屋根が無数の小さな破片を散らす。おそらくシュウが走ってきた足もとの住人たちはこの後屋根の修理を余儀なくされるだろうが、そんなことはお構いなしだ。


「GIGI!?」


 一瞬にして数十メートルの距離を詰めてきたシュウに、ドラゴンレイスが驚きの声を上げる。

 だがそれは、すぐに苦鳴へと変わった。

 走ってきたスピードを一切殺さず、シュウの靴裏が面長の顔面を捉えたからだ。ドラゴンレイスの首が後ろへと伸び、しかし耐えきることはできず首の骨が折れたことを伝わってきた感触でシュウは理解した。

 哀れなドラゴンレイスはそのまま上ってきたばかりの壁をずり落ちていってしまう。反対にシュウは跳び退って残りの二匹から距離を取った。

手に握った双剣はしっかりと構えている。


「GISYASYASYASYASYA!」


 そこへ怒りもあらわに一体が剣を振り上げて襲い掛かってくる。

 上段からのなんの細工もない力任せの一撃。それを側面に素早く躱し、躱しざまに一撃柔らかそうな脇腹へと一撃入れる。

 刃が鱗をすんなりと切り裂き、肉を断つ瞬間。斬られたドラゴンレイスが痛みに体を固くするのがわかった。あるいは条件反射的に体を固めて、刃を通りにくくしたのかもしれない。だが双剣の片翼が無情にもあっさりと竜の体を切り裂いた。身にまとっていた革製だと思われるプロテクターもまとめて引き裂く。


「GISYUUUUU!」


 そして通り抜けた瞬間に、両足で屋根を踏みつけ体を反回転させる。反対の手に握ったコガラシを無防備な首筋を狙って打ち出す。

 しかし刃はドラゴンレイスがかろうじて首の前に立てた剣と打ち合う。ギリギリでドラゴンレイスの防御が間に合ったのだ。シュウのコガラシは、その剣の半ばまでを斬り込んでいたが、それ以上先に進めない。


「KYUOOOOOOONN!」


 脚を止めたところへ、残りの一匹が剣を振り下ろす。その姿を視界の端に収めながら、打ち合わせたままだった剣を引き戻す。

 サイドステップで屋根の上をすべるように剣を躱す。シュウが十分な間合いを開けたところでようやく振り下ろされた剣が屋根を打ち砕いていた。

 もう一匹は剣を打ち合わせていたシュウが急にいなくなったのでたたらを踏んでいるようだった。

 それを確認する一瞬で息を整えると、即シュウは屋根を駆け出した。

 狙うは首。

 屋根に剣を打ち下ろして、無防備になった二匹目のドラゴンレイスの首へとコガラシを叩きこむ。

 魔物の強固な皮膚に対して今度も刃はすんなりと肉を断ち切り、屋根の上へぼとりとその首を落とした。

 切り口からあふれ出る鮮血を避けながら残った一匹へもう片方の剣を振れば、今度も運よくか剣同士が当たり火花を散らす。しかし今度は粗末な造りの剣を完全にへし折った。

 衝撃で、ドラゴンレイスは屋根から地面へと落ちていく。

 屋根の端へと駆けよれば、空中で姿勢を立て直したのかすでにドラゴンレイスは立ち上がっていた。

 自身の不利を悟ったのか、一瞬だけ視線をこちらへ向けてから背中を向けて走り出した。


「先に攻撃してきたのはそっちだからな」


 右手に握った片方のコガラシを逆手に持つと、やり投げの様に半身を引き体に引き付ける。ため込んだ力を一気に放出するようなイメージで打ち出すと、放たれた瞬間にすぐ脇を飛行機が通り過ぎて言ったかのような音が響き渡った。

 一直線に線を引くように飛んだコガラシは、通りの向こうでドラゴンレイスの背中から射抜き見事に体の真ん中に大きな穴をあけた。衝撃に二転三転したドラゴンレイスだったが、それが止まるとピクリとも動かない。死んだようだ。


「よし」


 それを確認すると、手の中のコガラシを一度還す。

 それから再び喚び戻すと、両手の中に双剣が収まっている。

 手元から離しても一度喚び直せば戻ってくるのは便利だ。これは利用方法があるかもしれない。

 そんなことを考えながら家の上を一直線南西に向けて走り続ける。

 家々が密集しており、走るのはとても楽だった。途中何度かドラゴンレイスに襲われている街の人間を、下の道や屋根の上に見つけたのでついでに倒しておいた。

 助けられた人々が口々にお礼を言ってくるのを聞き流しながら南西に向けてひた走る。

 もう目の前だった。


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