六:墜落
これは一体どう言うことだろう。
僕は今冷たい地面に突き刺さっている気がする。
ああでも、眠たいから…もういいか…?
ふわふわの意識の中で思考回路を巡らせる。
しかし強烈な睡魔に襲われている彼の頭は回転するわけもなく、そのまますやすやと眠りかける。
ああ…冷たくて気持ちがいい…。
……
これは一体どう言うことだろう。
目を開けたら足元に人が突き刺さっている。
逆さに。足しか見えない。肌が白すぎて発光している。
ラピスラズリは真顔で混乱していた。
元々あまり感情は顔に出ない方だが、あまりの混乱に唖然として、無表情を極めていた。
「………… ?」
人の足だよな…石像ではない…?
とりあえず、そばに生えていた草で足の裏を撫でてみた。
「……ひひっ。」
どうやら生きているらしい。
だけどラピスラズリの力ではどうにもこれを引き抜くことは難しそうだ。
「…見なかったことにしよう。」
そっとその場を立ち去ることにした。
……
いや、よくない。
よくはない。よくはないな、なぜこんなことになっているのだ?
足にこそばゆい感触を感じて、死にかけた思考回路は再び回転する。
息ができない。上半身だけ生き埋めになっているようだ。
いくら死にたいとはいえ、こんな間抜けな格好で生き絶えるなんて…。
バタバタと足を動かした。
近くにあった何かの草がバサバサと音を立てる。
…せっかく見なかったことにしたのに。
「うーわ、動いた…。」
ラピスラズリはため息をついた。
足の裏、くすぐらなければ良かったなあ…。
地面から突き出している白い足がバタバタと動き始めたのだ。
仕方がない…。
埋まっている誰かが土から出る気力があるなら、もしかしたら引き抜くことができるかもしれない。
ラピスラズリはそばに落ちていた大きな木の枝で、土をほじくってみた。
しかし、やはりこんなものは到底使い物にならない。
少し時間はかかるけど、聖堂の庭から大きなスコップを持ってくることにした。
「ちょっとスコップ持ってくるからァ、それまで死なないでね。殺人犯にされるのはごめんだから。」
土に向かって叫んでみた。聞こえたかどうかは知らない。
とりあえず、ラピスラズリは詰んだハーブを持って聖堂へ走った。
土の中では何かモヤモヤとした音が聞こえた気がした。
もしかして誰かいるのか?
足をバタバタと動かして、生きていることを知らせる。
手を動かすことができればまだ良かったものの…土に固定されて動かない。
どうにか土をほぐす事はできないか…。
足と同時に手を動かそうと試みる。
頭に血がのぼる。呼吸も苦しい。眠たい。
……。
「…ええ、死んだ?もう埋めたままでいいかな…。」
……
「ねえ、死んだア!?」
……。
また、モヤモヤした音が聞こえた。気がした……死んでない死んでない!
必死で足を動かした。
ザクザクと土が掘られる音がする。
たまに体の中も掘られる。痛い。
左手が膝から自由になった。
グッと力を入れて土から頭を抜きたい…が、難しい。
今度は右側が掘られた。
右側の肉も掘られた。痛い。
右腕と左腕が少し自由になる。
さらに周りの土が掘られて、掘られて、掘られて、……スコンッと間抜けな音がした。
「ぬ、抜けた…!」
全身土まみれになって抜けた。
真っ白な服と肌に真っ黒な土…バニラアイスにクッキーを混ぜ込んだアイスクリームを思い出した。
全身で空気を吸い込んだ。
…生きている…。
「…放心する前に私に礼を言って欲しいね。」
今気がついた。
大きなスコップを持った女の子がヘトヘトになって座り込んでいた。
「…は!もしかして掘り起こしてくださいましたか。すみません、ありがとうございました、すみません…!」
慌てて何度も頭を下げた。
女の子は荒れた息を整えて、スコップを杖代わりに立ち上がる。
「あっつい…頭痛い。」
纏めていた髪の毛を解いて、髪についた土を払い落とした。
艶やかな長い髪が、滑らかに空気を泳ぐ。
辺りはどうやら夜のようだった。
泳いだ髪は月と星の光を反射してキラキラと光る。
………。
「…綺麗な黒髪だなあ…。」
思わず、口から出てしまったようだった。
女の子と目が合う。
真顔だった。
真顔で目を見開いていた。
数秒遅れて、彼女の口から出た言葉は。
「…………はァ?」