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色のない天使と黒髪の娘  作者: みうめむらさき
6/16

五:昇天

今日は朝早くから絵を描いていた。

早朝着替えもせずに、衝動に駆られて家に置いてある新しいキャンバスに下地を塗る。


たまにこう言う日がある。

いつでもどこでも絵が描けるように、家にも聖堂にも絵の道具は置いていた。


今日はどうしたことか、みるみる創作意欲が湧いてくる。

こんなに強い衝動に駆られたことがあっただろうか。

ラピスラズリは無我夢中で筆を走らせていた。



「…おし。」


色の塊たちがようやく形になってきたのは、丁度お昼を過ぎた頃。

わけもわからず描いていたので自分でも何を描いていたのか認識していなかった。

どうやら、これは人間を描いていたらしい。


「こんな人間いるのかな。綺麗すぎ?」


青い影を持っている、白と銀の人。

こんな風に美しい人間は見たことがない。

自分で言うのも何だが、この絵はかなり美しい。自分で言うが。

そして、まだ顔のパーツもぼやけているのだが。

美しい人間を描いている。それだけは強く認識できた。


…もしかして、これは自分の理想のタイプなんだろうか…。


「…だとしたら一生恋人なんかできないわねェ。」


自分で自分に呆れながら、筆を洗う。

この街で、この黒色の私がこんなに綺麗な人とそもそも出会えるわけがないのになあ。


乾燥も兼ねて、キャンバスを壁に立てかけた。この家は日当たりが良いのですぐ乾くだろう。


今日も外は晴れやか。

沢山林檎があるので、アップルパイを焼く。

ついでにパンに塗る林檎ジャムも作ろう。

ジャムだったら持ち運びしやすいから、パンと一緒に聖堂に持って行ってご飯にできる。


家中に林檎と砂糖の甘い香りが立ち込める。

のんびり林檎を煮詰めながら、今日は聖堂にある絵をどこまで進めようかと考えていた。


アップルパイが焼きあがった頃、林檎のジャムも出来上がった。

煮沸消毒した綺麗な瓶にジャムを詰める。

小瓶3本分のジャムができた。

そのうちのひとつは、早速今日の夜ご飯になる予定。


歯ごたえのあるパンをスライスして何枚か包んだ。ジャムの瓶と一緒に鞄に詰め、家を出た。




日はもう傾きかけている。

薄暗い街を急ぎ足で歩いて聖堂へ向かった。


「…あ。ついでにハーブ摘もう。」


進行方向を変えて、ハーブの森へ向かう。


「ハーブの森」とは、ビビが勝手につけた名前だった。

街の外れ、森中を少し進んだ所に、ハーブが沢山生えた場所がある。

野生なのか、誰かが植えたのかわからなかったが、どちらにしろここは聖堂を治めていた偉い人の敷地で、そしてビビがそれを受け継いでいた。


だからビビは「このハーブも私のものということです。」と、もりもり大好きなミントを摘み取っていた。

おそらく、ビビの前の持ち主が植えたのだろうとビビは結論づけていた。


ビビが良いよと言ってくれたので、ラピスラズリもありがたくハーブを拝借していた。

今日はお茶にするためにレモンの香りのハーブを摘む。


「うーん、良い香りだ。」


このハーブはレモンティーとはまた違う、良い香りのお茶になる。

ついでに、乾燥させて料理に使うためのハーブもいくつか摘んだ。


ハーブ摘みに満足した頃、もう辺りは暗くなってしまっていた。

鞄からランプを取り出して灯りをつける。


今日は夜通し絵を描く予定だった。


「長居しすぎた、聖堂に行こう。」


踵を返して歩き出そうとした時、視界の端をちらりと何かが流れた。


「うん?…幻覚かな。」


そちらをみても何もない。

気のせいか…と視線をずらすと、再びチラリと何かが流れた。


「…なになに…おばけ?」


気味が悪い。

気味が悪いが、気にもなる。

ラピスラズリは好奇心旺盛な方だった。


夜の森は深く、暗い。

なのであまり奥には進みたくはなかった…。


「ランプはあるけど…。」


とはいえ、小さな光である。森の暗闇には埋もれてしまう。


「…出直そう。昼間に来よう。タイミングが悪い。」


悩みに悩んで、改めて踵を返す。



………



その途端、今度は聞き覚えのある音が聞こえた。


キャラン、キャラン、キャラキャラ…


キャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラキャラ



「……うるっさ!なになに?何が鳴ってるの?」


辺りをブンブン見渡すが、辺り一面静かな森が広がっているのみである。


見た目と煩さのギャップに、ラピスラズリは困惑する。


「ポルターガイスト?初めて体験したんだけど。もっとソフトタッチにして…。」


頭がグラグラしてきた。


アア…うるさい…。

ぐらりと空を見上げてみる。





……




「……ぎんいろ。」





ラピスラズリは目を見張る。

視界が全て銀色なのだ。

立っているはずなのに、上も下も分からなくなる。

銀色の海が広がっている。


……よく分からないなあ。


世の中不思議なことがあるもんだなあ…と、

頭がグラグラ回っている。



銀色がどんどん眩しくなって、音がどんどん大きくなって、…。





白い。





……






あれ?これってもしかして私、



「死ぬの?」





ついに















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