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色のない天使と黒髪の娘  作者: みうめむらさき
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三:安らぎの庭にて

今日の夕飯はなんと美味い肉である。


完成した銀の星の絵が、たいそう気に入ってもらえたのだ。

気前のいい客は大好きである。


絵のお金が入ったので、ご褒美に食事を奮発してしまった。

新しい絵の具と筆も買えて、ラピスラズリは珍しく上機嫌だ。


「いただきまぁす!」


ナイフで大きめにカットして、豪快に口の中に放り込む。美味い。


先日見た、あの巨大な銀色の流れ星のおかげだ。あの衝撃と美しさを、ラピスラズリはキャンバスにおこしてみせた。

完成しかけていた絵を上から描き足して、結局その日は朝までかかって絵を描いたのだ。

その絵が高く買ってもらえた。


「だけどあれは一体、何だったのだろ。不思議な空だった…。」


今日はパンではなくお米を炊いてガーリックライスも作った。

肉とライスを頬張りながらまぁいいかと次の肉をナイフで切る。

美味しい食べ物は身も心も元気にしてくれる。


「…ふう、満足!ご馳走様でした。」


今日はいい夢が見られそうだ。





先日描いていた絵が全て描き終わったので、今日からは新しい絵を描こうと考えていた。

ラピスラズリはいつも2、3枚の絵を毎日ローテーションで描いていて、大体同じ時期に複数枚完成する。

だから絵のモチーフも同時に複数枚分決めなくてはならない。


「何にしようかな。水とか、猫とか…原点に戻って林檎…。」


考えている間はすごくワクワクする。

今日も街の人間はラピスラズリをみてはひそひそ話をしていたけれど、そんなことは今日は耳にかけらも入ってこなかった。


「ヨォ〜〜ララチャン!今日は買うものないのカ!?」

異国から行商に来ていたお兄さんに声をかけられた。

この街には定期的に別の地域からものを売りに来る人がいる。

月に一度の人もいれば、毎週来る人も。

だから毎日日替わりでこの街にはいろんな地域の物売りが居た。


そして毎回、ラピスラズリに声をかけてくるのは絵を買ってくれている外国人と同じ、その国の出身の人だった。

国柄なのだろうか…他の地域の人間は皆、黒色を嫌って近寄らないというのに。


「昨日ピンクの子から買い物しちゃったんだよね。タイミング悪い。」

「ええ〜、なんだつまらンな!今日は美味い林檎持ってきタノに。」

…林檎。

「…絵のモチーフに良さそう。」

「美味いンダから食ってくレない?」


彼らは様々なものを売っていた。

食材は肉から魚、野菜から果物、加工食品までなんでも。

画材売りも居たし、生活雑貨や生地に、時には家具まで売っている人も居た。

…一体どうやって持ってきているのか、毎回不思議に思っている。


この街の人たちは、ラピスラズリに物を売ってはくれない。

だが、この人たちのおかげで彼女は買い物にはさほど困ってはいなかった。



ところで、「その国の人間」はとにかく濃かった。


「にゃんはピンクがすきなのぉ〜❤︎」みたいな全身ピンクのゆるふわ娘や、

「黒!?やべえ葬式かよ!サイコーにクールだな!」みたいな刺青のお兄さん。

「呪われんの?ちょっと呪ってみてよ、呪いから生き延びた男として俺を売り出すから。」などと言う色黒スキンヘッドマッチョ。

そしてあの絵を買ってくれているお客さん。


濃い国なんだろうなあ、と毎回びびっている。


だけどそんなに濃い面子の中にも、黒い髪を持つ人は居なかった。


「多分さあ〜、ララチャンは東の方の血が入ってるんじゃねェかなァ?あっちの方はみんな黒髪で、逆に俺らみたいな金とか赤は居ないらしいヨ。」


今日来ているのは、所々発音が特徴的な、顔に縫い目のある派手髪のお兄さんだ。

この人は大抵、果物か野菜、それからお菓子とお菓子の材料なんかを売っている。


「ふぅん…。」

買った林檎をその場で齧る。みずみずしくて甘い。これは美味い林檎。


「そレにララチャンのフルネームも見たことない違う形ジャン?」

「そうなのよねェ。」


話しているとつい、口調が移る。


「ペンネーム見たいダヨネェ〜〜キャッキャッ!」

「…キャッキャッ。」


林檎をまたひとくち齧る。

やはり美味い。


「ねえ林檎美味いよね?俺も食べヨウお腹すいた。」


…売り物のはずだよな…。



結局食べる分と絵のモチーフ用に、林檎をたくさんと、野菜を買った。

ついでにチョコチップ入りのマフィンも。


「うーん。買いすぎたよね。」


そのまま聖堂に行こうかと思っていたけれど、荷物が増えてしまったので一度家に帰る事にした。

しばらくはアップルパイが主食になりそう。


荷物を置いて改めて、マフィンと、モチーフの林檎に柔らかい銀色の布を持って家を出た。


外はちょうどおやつどきの時間。

着いたらまずおやつにマフィンを食べよう。

庭の家にはお湯を沸かせるぐらいの小さなキッチンがあるから、今日は優雅に紅茶も淹れよう。


そんな事を考えながら、ラピスラズリは気分良く歩く。

道端から感じる好奇の視線やひそひそ声、ついでに投げつけられる小石がなければもっと晴れやかな気分になれるのだが。



「…はあ、ここは相変わらず静かでいいなぁ〜〜ア〜〜、ぁぁ〜〜…。」


聖堂の庭の、白い噴水の淵に座って空を眺めた。

どこからか小鳥の声などが聴こえてとてものどかである。


「…ラァ〜〜ラァラァ〜〜のどかぁ〜〜のどかぁ〜〜♪♪♪」


歌など歌ってみる。

歌うとさらにお腹が空いた。



「…生きている…。」


今日も私は生きていた。

この街で、この黒い髪で生きていた。

明日もきっと生きるのだろう。

この街で。


毎日毎日、息をして、食べ物を食べ、この庭で絵を描いて、その外国の濃い面子とおしゃべりをして。買い物をして。


相変わらず街の人間からは嫌われて。


そしてまた息をして、食べ物を食べ、絵を描いて、日替わりの濃い面子と喋って買い物をして、変わらずこの街からは嫌われている。


毎日その繰り返し。


場所を変えても歳を取ってもきっと、根本的な無限ループは変わらない。


生きている限り。


……





「…はぁ〜あ。早く死にたいなぁ。」





ぼんやりと、口から吐き出した。


柔らかな光が差し込んでいる。

今日も今日とて相変わらず、ここは静かで美しい、安らぎの場所だった。













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