(一八)(五〇)
森の上空を進み、程なくして外縁にまで至った二羽の鴉たちは、そのまま草原の上空へと進んだ。草原を見下ろしながら飛行を続けた二羽は、背丈の低い草の茂る場所を見つけ出すと、円を描くようにして降下を開始し、やがて地上に降り立った。翼を畳んだ二羽は首を伸ばし、周囲を見回した。緑の草は、二羽の足許から胸元の辺りまで葉を伸ばしていたが、ほんの数歩離れた場所では二羽の頭よりも高くまで葉を伸ばし、壁のように聳え立っていた。二羽が足を伸ばせるだけ伸ばし、首を伸ばせるだけ伸ばしても、嘴の先がようやく草丈に達するかというほどであり、草原を見通すまでには至らなかった。そのままの姿勢で幾度か首を巡らせた二羽は背伸びを止め、お互いの姿を見詰めた。
〈この姿になれば草原に隠れられるのはいいのだけれど、〉リウェルは首を伸ばし、再び周囲を見回した。〈これでは敵がどこから来るのかもわからない。〉
〈それはしかたないと思うわ。〉フィオリナも周囲を見回すと、再びリウェルを見た。〈私たちが草の中に隠れていれば、敵も私たちを見つけられないわ。私たちが敵を見つけやすいということは、敵にとっても私たちを見つけやすいということだもの。〉
〈それはそうだけれど……、〉リウェルは顔を下ろし、フィオリナを見た。〈となると、探索魔法を使うより他に方法はない、か。いつもどおり、元の姿でも、ヒト族の姿でも、今のこの姿でも。〉
〈ええ、いつもと同じ。〉フィオリナはゆっくりと頷いた。〈いつもと同じということで、食べられるものがあるか探してみましょう。〉フィオリナは地面を見下ろした。〈草の葉の陰に何かしら見つけられるかもしれないわ。〉
〈あとは、草の根元にも。〉リウェルが続けた。〈落ち葉の下ほどではないかもしれないけれど、これだけ広ければ何かは見つけられそうだ。〉
〈そうね。何かは見つけられそうね。〉フィオリナは足許の枯れ草を嘴で摘まむと勢いよく引っ張り上げ、横に放り投げた。
二羽の鴉たちが目にしたのは、露わになった土の上を小さな蟲たちが慌てた様子で這い回る姿だった。二羽は競い合うようにしてそれらの蟲を捕らえ、腹に収めた。
〈ね。〉フィオリナは顔を上げた。〈小さな蟲だけれど、探せばすぐに見つけられるわ。〉
〈確かに。〉リウェルも顔を上げた。〈まずは、僕らが居る、この場所を探してみよう。小さな獲物でも、数が多ければそれなりの量になる……、と思う。〉
〈そうね。そうしましょう。〉
リウェルとフィオリナは獲物探しを再開した。顔を下ろし、足許の枯れ草を嘴で除けながら小さな蟲を探し出すと、二羽はそれら一匹ずつ啄んだ。獲物を探しながら草原の一角を歩き回る二羽の姿は、本物の鴉そのもののようにも見えた。程なくして、降り立った場所の下を探し終えた二羽は、自身の背丈を超える緑の草の中へと分け入った。二羽は、葉の陰や茎の間にじっと身を隠す蟲を見つけ出して捕らえ、地面を覆う枯れ草の下に潜む蟲を探し出し、時には地面を走る小さな蜥蜴に嘴を突き立てた。獲物の中でも大きなものは――硬い殻に覆われた覆われた蟲や、白く柔らかい体の蟲などについては――互いに分け合いながら啄んだ。その後も二羽は口にできるものは何でも口にし、鴉と見紛うばかりの狩りを続けた。
陽は南東の空に高く昇り、地面に落ちる草の影もその長さを減じた頃、獲物を求めて草の間を進んでいたリウェルとフィオリナは、どちらからともなく歩みを止めると顔を上げ、互いの顔を見詰めた。二羽の黒い羽は磨き上げた刃のような青みがかった輝きを放ち、金色の瞳は一対の貴石のように煌めいた。緑の草が生い茂る中、闇をその体に纏ったかのような二羽の鴉たちは、どこまでも碧く広がる雲一つない空を見上げた。
〈そろそろ出発しよう。〉リウェルは空を見上げながらフィオリナに語りかけた。〈途中までは飛翔の魔法を使って進むとしても、町が見えるところまで近づいたら、自分の翼を使って飛ばないと怪しまれる。〉
〈雲を超えるくらいまでに上れば、〉フィオリナは上を向いたまま周囲を見回した。〈下からはそうそう見えないわよ。でも、森を見ながら進むのなら、あまり高くまでは登れないわね。〉
〈町から離れているのであれば、〉リウェルは顔を下ろし、フィオリナを見た。〈森の上を進むときでも飛翔の魔法を使っても大丈夫だと思う。〉
〈探索魔法を展開して、〉フィオリナも顔を下ろし、リウェルを見た。〈何かそれらしいものを見つけたら羽ばたく振りをする、ということでいいかしら?〉
〈そうなるね。〉リウェルはゆっくりと頷くと、虚空を見上げた。〈幸いなことに……、今のところ、ヒト族や獣人族らしき反応はない。〉
〈そうね。〉フィオリナもわずかに顔を上げ、あらぬ方向を見遣った。〈今のところ……、それらしい反応は見られないわね。〉
顔を下ろした二羽は互いに歩み寄ると、幾度か嘴を触れ合わせ、やがて見詰め合った。
〈出発しよう。〉
〈ええ。〉
二羽の鴉たちはその場で両の翼を大きく広げた。二羽はその翼を羽ばたかせることもなく上昇を始め、すぐ傍に広がる森の樹々を見下ろすまでに到達すると、空中で静止した。草原は波のように揺れ、地上に映る二羽の影もそのたびに形を変えた。二羽は周囲を見渡しながら体の向きを変えると、森に向かって進み始めた。
空高くに昇った陽の光を受けた森は、緑の絨毯のように広がっていた。天を目指し幹を伸ばす樹々は色も形もさまざまな葉を茂らせるも、それらは森という一枚の絵を成り立たせる絵の具の一滴に過ぎなかった。樹々の間には森に棲む鳥や獣や蟲たちが行き交い、時に互いに歌い交わし、時に互いに競い合い、時に追いつ追われつ狩り狩られ、森そのものが一つの舞台のようでもあった。観客の居ない森という舞台で、そこに棲むものたちはそれぞれが主役であり脇役でもある筋書きのない芝居を演じ続けていた。
二羽の鴉たちは、大きく広げた両の翼を羽ばたかせることもなく、森の上空を南に向かって進んでいった。空を駆ける鳥たちよりさらに速く進んでいるにもかかわらず微動だにせず、元の姿のときそのままに横に並び、滑るように進む二羽の姿は、精巧な作り物のようにも見えた。時折左右を見回すように動かす頭だけが、二羽が息をしない作り物ではないことを示していた。
〈何も……、ないね、今のところは。〉リウェルは前を向いたままフィオリナに語りかけた。
〈何も……、ないわね、少なくとも探索魔法の反応を見る限りは。〉フィオリナも南の方角に目を遣ったまま答えた。
〈あまりに小さい獣たちのことはよくわからないけれど……、〉リウェルは躊躇いがちに続けた。〈体の大きな獣たちは当然として、鼠くらいの大きさの獣まで探索してみても、これといっておかしなところは見られない……、と思う。〉
〈おかしなところは見られなかったのは私も同じだけれど、〉フィオリナも自信なさそうに答えた。〈普段の森を観ていないから、そこは何とも言えないわね。ただ、獣の数はセリーヌさんがお住まいの森よりも多いみたいだわ。南の森だからかしらね。〉
〈そうだと思う。生えている樹も北の森とは違うから、棲んでいる獣が違っていても不思議はない。今の僕らからすると『わからない』という結論になりそうだ。〉
〈何回か観ていればわかるようになるかもしれないわ。狩りのたびに北に向かうわけではないでしょうけれど、同じようなところを飛んで町に帰れば何かに気づけるかもしれないわ。〉
〈たぶんね。だから、今日はそのときのためにしっかり観ておこう。〉
〈ええ、そうね。そうしましょう。〉
リウェルとフィオリナはその後も森の上空を進み続けた。やがて、森の樹々に落ちる二羽の影が二羽を追いかけるまでになった頃、二羽は南東の方角に町の姿を捉えた。壁に囲まれ、影を従えた町は、草原の中に浮かぶ島のようにも見えた。二羽が進むほどに草原に浮かぶ島は徐々に大きさを増し、壁の中に立ち並ぶ家々も形を取り始めた。二羽は申し合わせたかのように両の翼を羽ばたかせ始めた。それとともに飛行の速度も次第に落ちていき、程なくして二羽の姿は本物の鴉と見紛うまでになった。町の姿が大きくなるに連れて、二羽は上昇を始めた。やがて、多くの樹々を寄せ集めた森の緑が一枚の布のようにも見える高さにまで達すると、二羽は向きを変え、東寄りの進路を取った。そのまま森を抜け、草原を後にし、ついには町の上空に至ると、二羽は下を見遣った。何度か左右を見回した二羽は町の一角を見据えると、羽ばたくのを止め、両の翼を大きく広げた。飛翔の魔法を使うこともなく、両の翼を広げたまま羽ばたかせることもなく、翼の先端と尾羽とを傾けるだけだった二羽の体は、風に舞う木の実のように大きな弧を描きながら、地上に向けてゆっくりと降下を開始した。
降下を続ける二羽の目は、或る広場を――ヒト族の姿で午の一時を過ごしていた広場を――捉えた。住人たちは、広場を取り囲むようにして並ぶ店から食べ物を買い求めようと、広場の中を行き交った。店の主たちは、少しでも客を呼び寄せようと声を張り上げ、互いに競い合った。多くのヒト族や獣人族が広場を行き交う中、広場に集まっていたのは鳥たちだった。鳩たちや雀たちは、おこぼれに預かろうと広場を歩き回り、時に子どもたちに追いかけながらも、住人たちの動きに目を光らせた。鴉たちは、何羽かが広場に降りていたものの、多くは建物の屋根や庇に留まり、地上の様子を窺っていた。中天に昇った陽に照らし出されていたのは、普段と変わらない広場の姿だった。
そのまま降下を続けたリウェルとフィオリナは、わずかな羽音ともに広場の中央付近に――住人たちも鳥たちも通らない、人波の中に空いた穴のような場所に――降り立った。二羽は翼を畳み込むと周囲を見回した。食べ物を買い求めようと行き交う住人たちにも、おこぼれに預かろうとする他の鳥たちにも、二羽が降り立ったことに気づいた様子は見られなかった。
〈ねえ、リウェル、〉フィオリナは周囲を見回しながら念話で語りかけた。〈深く考えずに広場まで来てしまったけれど、どうするつもりだったの?〉
〈特にこれといった意図はない、と思う。〉リウェルは空を見上げると、再び周囲を見回した。〈強いて言えば、コルウスさんに会えるかもしれない、ということくらいかな。無事に戻ってきたことをご報告できれば、と。〉
〈それなら、〉フィオリナはリウェルを見た。〈セレーヌさんにご報告するのが先だと思うけれど。でも、まだお仕事の最中ね、きっと。小屋に戻られるのは夕刻だから、まだ学院にいらっしゃるはず。今はお食事の最中かもしれないけれど。〉
〈確かに。〉リウェルもフィオリナを見た。〈セレーヌさんが学院で教えられているところに行くという手もあるけれど、今日のところはやめておこう。この姿で探し出すよりも、ヒト族の姿でついていったほうが早い。〉
〈それもそうね。そのうち、相談してみましょう。〉
リウェルとフィオリナは揃って顔を上げ、周囲を見回した。広場に降り立った鳥たちの数はわずかに増えたかに見えたが、その中に大柄な体つきの鴉の姿は――コルウスの姿は――なかった。広場を歩き回っていた鴉たちは、リウェルとフィオリナと変わらない体つきの、念話を解することもない普通の鴉たちだった。
〈この姿だと、〉リウェルは首を伸ばした。〈広場もずいぶん違って見える。空の上から見ていたときは小さく感じたけれど、降り立って見てみると建物が山のようにも思える。〉リウェルは首を元に戻し、フィオリナを見た。
〈山というよりは、〉フィオリナは建物を見上げた。〈壁のようね。父様と母様の縄張りの山と森との境にある壁のようにも見えるわ。〉
〈建物が壁なら、〉リウェルは広場の一角を見遣った。〈あの池は湖かな。〉
〈湖まではいかないかもしれないけれど、〉フィオリナはリウェルの見詰める先に視線を向けると、笑みを浮かべた。〈何があってもいいように気をつけないとね。〉
〈違いない。〉
二羽の鴉たちは池を見詰めた。池の周囲に設えられた長椅子では、住人たちが腰を下ろし、食事を摂ったり会話に花を咲かせたりしている姿が見られた。長椅子を確保できなかった幾人かは池の縁石に腰を下ろし、食事や会話にと同じように時を過ごしていたが、縁石の或る一角には誰も腰を下ろそうともせず、近づこうともしなかった。その場所を占めていたのは鳩たちだった。何羽もの鳩たちが入れ替わり立ち替わり縁石に舞い降り、体を屈め、嘴を水につけ、喉を潤し、再び飛び立った。住人たちの話し声や鳩たちの羽ばたきが重なり合う中、池に流れ込む水の音が二羽の耳にも届いた。その音は、野を流れる小川のせせらぎを思い起こさせた。
リウェルとフィオリナはどちらからともなく池に向かって一歩を踏み出した。二羽は本物の鴉そのままに、時に頭を左右に巡らせて周囲を見回し、時に顔を上げて空にも目を向け、時に互いの姿を見遣り、ゆっくりと進んでいった。二羽が進むにつれて、鳩たちは二羽のために道を空けた。鳩たちは首を前後に忙しなく振りながら、波が引くように左右に分かれ、二羽から離れると、そこで立ち止まることもなく、顔色を窺うかのように二羽を見詰めた。二羽は歩みを進めながら、左右を見回した。そのたびに、広場を歩き回っていた鳩たちは向きを変え、縁石の上にいた鳩たちは広場に飛び降り、あるいは、空に向かって飛び立ち、二羽の視線からの逃れるかのように距離を取った。
二羽の鴉たちは、鳩たちの動きを気にする様子も見せず、縁石に跳び乗った。群れをなしていた鳩たちの姿は既になく、縁石の上に立っていたのはリウェルとフィオリナだけだった。左右を見回した二羽は体を屈めると嘴を使って池の水を掬い上げ、次いで体を起こし、掬った水を喉に流し込んだ。
〈この体だと、水を飲むのにも苦労する。〉リウェルは再び体を屈め、嘴で水を掬い上げた。
〈水を口に含めないものね。〉フィオリナも嘴を水につけた。〈舌もあまり動かせないし、嘴は硬いから形も変えられないわ。水を掬うより他に方法はないわね。〉
〈それはそうと、水を飲むときも周りに気を配らないと。今は町の中だからいいけれど。〉
〈町の外だったら、のんびりしていられないわね。〉
リウェルとフィオリナは何度も身を屈め、嘴で水を掬い、喉を潤すと、縁石から地面に降り立ち、周囲を見回した。二羽の目に映ったのは、疎らな群れをなした鳩たちが二羽の様子を窺うかのように歩き回る姿だった。鳩たちは二羽に近づこうとはせず、かといって遠ざかろうともせず、或る一定の距離を保ちながら歩き続けた。二羽は徐に互いに顔を見合わせるとすぐに前を向き、揃って広場の中央に向かった。鳩たちはなおも二羽をちらちらと眺めていたが、二羽が戻らないと見るや、足早に池へと向かった。二羽は首を巡らせ、鳩たちが池に殺到する様子に目を遣るもすぐに前を向き、何事もなかったかのように歩みを進めた。
広場の中央付近に達した二羽は歩みを緩めると、程なくして立ち止まり、周囲を見回した。池の周囲に設えられた長椅子に腰を下ろす住人たちの数も、多くは午の食事を終えたのか、既に減りつつあった。広場に面した店や多くの屋台でも、その日売るべきものを全て売り尽くしたのか、多くは後片付けに入り、広場の喧騒は収まりつつあった。周囲を何度か見回した二羽は互いに顔を見合わせた。次いで、二羽は申し合わせたかのように羽繕いを始めた。人混みの中に空いた穴のようなその場所で、二羽は周囲を気にする様子も見せず、翼の羽の一枚一枚を嘴で梳き、首を巡らせて背の羽と体の羽を調え、その後、尾羽も同様に梳いていった。頭と首とを残すのみとなったところで二羽は羽繕いを中断し、顔を上げた。そのまま互いに歩み寄った二羽は嘴の届く距離で立ち止まると、金色に輝く瞳を見詰め合った。
〈リウェル、首を伸ばして。〉フィオリナが語りかけた。
〈わかった。〉リウェルはわずかに体を屈めると、真っ直ぐに首を伸ばした。〈お願い。〉
フィオリナはリウェルに近寄ると、額の羽を嘴で梳いた。その後は、顔の両側、頭の後ろ、首の周りの順に嘴を通していった。リウェルは目を閉じると、羽を逆立てた。暫し後、フィオリナが嘴を離すと、リウェルは目を開き、羽を寝かせ、体を起こした。フィオリナは目を閉じると、当然とばかりに身を屈め、首を伸ばしてみせた。リウェルはフィオリナに歩み寄ると嘴を添え、羽の一枚一枚を丁寧に梳いていった。
暫し後、リウェルとフィオリナは互いの羽繕いを終えると顔を上げ、周囲を見回した。二羽が目にしたのは、ヒト族の姿にして数歩離れたところで二羽を見詰める、子どもたちの姿だった。子どもたちは皆興味津々といった様子で、或る子は座り込み、別の或る子は地面に腹這いになり、他の子たちは立ったまま、二羽に視線を向けていた。二羽は揃って子どもたちに顔を向けると、少しでも体を大きく見せようとするかのように体を起こし、首を伸ばし、金色の瞳で子どもたちを見据えた。子どもたちは二羽の動きを前に目を見開いたが、その場を動こうとはしなかった。二羽はなおも首を伸ばし、子どもたちを見返した。二対の瞳が子どもたちの一人ひとりを捉え、子どもたちはそのたびにわずかに後ずさった。二羽は目を逸らすことなく、子どもたちを見詰め続けた。子どもたちは、恐れる様子を微塵も見せない二羽を前に、体を起こした。座っていた子はその場にゆっくりと立ち上がり、腹這いになっていた子は両手をついて体を起こし、屈んだ姿勢を取った。二羽は子どもたちに目を合わせたまま、嘴を大きく開き、つんざくような一声を上げた。体中の羽を逆立て、翼を半ばまで持ち上げた二羽を前に、子どもたちは一斉に向きを変え、一目散にその場から走り去った。走りながらも、子どもたちはちらちらと後ろを振り返り、二羽を見た。子どもたちの顔に浮かんでいたのは恐れとも笑いとも期待とも取れる、それらがない交ぜになった表情だった。力の限り走っていた子どもたちだったが、すぐに足を緩め、程なくして立ち止まり、再び二羽を振り返った。子どもたちはそこでじゃれ合いながらも、二羽に近づこうとはしなかった。二羽は逆立てた羽を寝かせると、翼を畳み込み、勝ち誇るかのように首を伸ばし、子どもたちを見詰めた。
〈私まで一緒になって驚かしてしまったわ、〉フィオリナが悔しそうに、しかし、どことなく楽しそうに呟いた。〈町の子どもたちを追い払うのはリウェルの役目だったのに。〉
〈でも、僕だけのときよりも、〉リウェルは距離を保ったままの子どもたちに目を遣ったまま答えた。〈一緒になって驚かしたほうが、効果があったように見える。〉
〈それは認めるわ。〉フィオリナは溜め息交じりに言った。〈この姿のときはリウェルと一緒に驚かしたほうがよさそうね。いつまで効果があるのかはわからないけれど。〉
〈そのときは、また別の方法を考えよう。どうしようもなくなったら、飛んで逃げればいいだけだもの。当然、自身の翼を使って、ね。〉
〈そうね、飛んで逃げるのが一番の方法かしらね。〉フィオリナは頭を一振りして見せた。〈下手に興味を持たれるのもいただけないわ。〉
〈確かに。〉
二羽は伸ばしていた首を元に戻すと、互いの姿を見た。
その後、リウェルとフィオリナは広場の中を歩いて回った。幾つかの屋台は既に片付けられており、こぼれた食材にありつこうとする数羽の鴉たちの姿が見られた。鴉たちは、地面に落ちた食材目掛けて我先にと群がりながら身を屈め、頻りに啄んだ。その中で、或る鴉は他の鴉の獲物を横取りし、横取りされた鴉は顔を上げ、不平を述べるかのように声を発し、その間に別の鴉がさらに横取りしようと嘴を伸ばし、といったことを繰り返した。群がる鴉たちを取り囲むように、鳩たちが佇んでいた。鳩たちは鴉たちから距離を取り、遠巻きに眺めるばかりで、鴉たちに加わろうとはしなかった。その様子は、鴉たちに近づけば自身が獲物になるかもしれないと心配しているかのようでもあった。リウェルとフィオリナは、鴉たちと鳩たちとを横目に歩みを進めた。二羽の姿を認めた鳩たちは少しでも距離を取ろうと、首を前後に振りながら歩き回ったが、広場から飛び立つことはなかった。鳩たちは、二羽に目を合わせまいとするかのようにあらぬ方向を向き、互いの体を盾にしようとするかのように位置を変えた。二羽は鳩たちをちらりと見るも、気にする様子は見せずに歩みを続けた。
住人たちは、二羽の鴉たちが広場を進んでいるのを目にしても、別段気にする様子も見せず、それまでどおり会話に花を咲かせるか、食事を楽しむか、屋台や店の後片付けを続けるか、長椅子に腰を下ろしたままどこか遠くを見詰めるかだった。そのような住人たちも、二羽が通り過ぎると、意外そうな、あるいは、おもしろがるかのような表情を浮かべるのに変わりはなかった。二羽の後を追っていたのは数人の子どもたちだった。子どもたちは、二羽が歩みを進める間に驚きから立ち直ったのか、並んで歩く二羽の後をついていけば何かおもしろいことに行き当たるかもしれないと考えたのか、数歩の距離を置いて塊になり、二羽の後を追い続けた。一人が先頭に立ち、そのすぐ後ろにもう一人、左右に一人ずつ、その後ろにはまた何人かという陣形を組むも、数歩進むたびに先頭の子はすぐに入れ替わった。笑い声を上げ、子犬のようにはしゃぎまわるたびにせっかくの陣形も崩れたが、その後すぐに子どもたちは役割を入れ替えて再び同じ陣形を組んだ。二羽が歩みを止めると、子どもたちも歩みを止めた。二羽が後ろを振り返ると、子どもたちはぎょっとした表情を浮かべながら後ずさった。二羽が前を向くと、子どもたちはその場に留まったまま恐る恐る身を乗り出すようにして前を見た。二羽が歩き始めると、子どもたちもそろそろと歩き始めた。二羽と子どもたちの様子は、さながら親鳥とその後を追う雛鳥のようでもあった。
〈子どもたちに目をつけられてしまったわね。〉フィオリナは気落ちした様子で溜め息交じりに呟いた。〈諦める様子は……、どう見てもなさそうね。〉
〈今のところ、何かされたわけでもないから、放っておけばいいと思う。〉リウェルはフィオリナに顔を向けると励ますように語りかけた。
〈『あとをつけられている』ことそのものが、〉フィオリナは恨めしそうに横目でリウェルを見た。〈何かをされていることになると思うのだけれど。〉
〈直接、攻撃されているわけでもないから。〉リウェルはフィオリナの視線から逃れようとするかのようにあらぬ方向に目を遣った。
〈そうはそうなのだけれど……。〉フィオリナは歩みを緩めることもなく、首を巡らせて後ろを振り返り、数歩後ろを進む子どもたちを見遣った。
子どもたちは体をのけ反らせるも、立ち止まることはなかった。
〈コルウスさんのように、私たちが遊んだほうがいいのかしらね。〉フィオリナはリウェルを見た。〈私たちが子どもたちの遊び相手になって、遊ばせるの。〉
〈そのほうがよさそうだ。〉リウェルも後ろを振り返り、すぐに前を向いた。〈今の僕らには急ぐようなこともないし、お腹が空いているわけでもない。遊んでもいいかもしれない。〉
〈それなら――〉フィオリナも前を向いた。
リウェルとフィオリナはさらに足を速め、ついには駆け出した。二羽の足の爪が地面を穿ち、規則正しい音を響かせた。子どもたちにとって鴉の駆け足はそれほどでもなかったのか、わずかに歩みを速めただけだった。二羽は広場の中を、人気のない場所を選ぶようにして駆け続けた。地面の凹みを避け、小石を踏まないようにそれらを跳び越え、然りとて足を速めることも緩めることもなく、足音こそ乱れはしたものの、変わらぬ速さで駆ける二羽は、どこか絡繰りめいているようにも見えた。二羽は時折後ろを振り返った。二羽が目にしたのは、お気に入りの玩具を何としてでも手に入れようとするかのような子どもたちの顔だった。子どもたちは二羽から目を離すこともなく、それまでの陣形もすっかり忘れてしまったかのように互いの体を押しやりながら進んでいた。
二羽は前を向くと、さらに足を速めた。加えて、右へ左へと頻繁に進路を変え、広場の中を縦横無尽に駆け回った。それまでと同じく人気のない場所を進んでいた二羽は、住人たちの足許を掠めることもなく、地面に置かれたものにぶつかることもなく、時折目の前に現れる小石を避けながら、広場の中を駆け続けた。
子どもたちは二羽を追いかけることそのものが目的となったのか、足の速い子たちは他の子たちを顧みることもなく二羽に迫った。中には、二羽を捕らえようと、走りながら手を伸ばす子も見られた。二羽はそのたびに進路を変え、迫る手から逃れた。手を伸ばした子は体をよろめかせながら速度を落とし、他の子たちに追いつかれ、その悔しさによるものなのか顔を歪めながらも再び二羽を追い始めた。
〈そろそろ、翼を使ったほうがいいかな。〉リウェルは足を緩めることなくフィオリナに語りかけた。〈コルウスさんは飛んだり走ったりを繰り返していたけれど、〉リウェルはちらりと後ろを見た。〈飛んで、もう一度降り立ったら、今度こそ追いつかれるかもしれない。〉
〈少し遊びすぎたかもしれないわね。〉フィオリナも後ろを振り返るも、すぐに前を向いた。〈はじめは私たちを捕まえようとしていたわけではなかったのでしょうけれど、今はそうでもなさそうね。これ以上続けると、さらにけしかけることになりそうよ。〉
二羽は地面の凹みを跳び越えた。
〈子どもたちには悪いけれど、空に逃げることにしよう。〉リウェルは再び後ろをちらりと見た。〈この続きは、また別の日に。〉
〈次に相手をする子たちが、〉フィオリナは後ろを振り返り、次いでリウェルを見、再び前を向いた。〈今の子たちとは限らないけれどね。〉
〈違いない。〉リウェルは笑いながら答えた。〈さて、飛び立とうか。〉
〈ええ、そうしましょう。〉
リウェルとフィオリナは走りながら地面を蹴ると、両の翼を広げ、勢いよく羽ばたかせた。程なくして、広場を囲む建物の屋根の高さまでに達した二羽は、円を描くようにして飛びながら広場に目を落とした。二羽が目にしたのは、口を開けたまま立ち尽くし、空を見上げる子どもたちの姿だった。暫しそのまま空を見上げていた子どもたちは、諦めがついたのか力なく顔を下ろし、新しい遊びを探そうと広場を見回した。やがて、子どもたちは広場の一角を目指し、連れだって走り出した。二羽はさらに広場の上をゆっくりと一周すると両の翼を大きく羽ばたかせ、空の高みを目指して上昇を開始した。
陽は既に中点を過ぎ、西の空へと進みつつあったが、夕刻というにはまだ遠く、地上に落ちる建物の影も広場を覆い尽くすまでには至らなかった。町の上空を舞い続ける二羽の影が建物の屋根に落ち、その影は並んで飛行を続ける二羽の姿そのままに、屋根の上を走り続けた。その後も広場の上空を数度周回した二羽は、北へと進路を取った。二羽は、網の目のように走る道や、競い合うように空に向かって伸びる建物の群れを見下ろしながら、空の上を進み続けた。
町の住人たちは、上空を駆ける二羽の鴉たちに気づいた様子も見せず、それぞれがそれぞれの時を過ごしていた。道を下に見ながら、建物の窓越しに無遠慮な大声で会話を交わす女たち、笑顔を浮かべ、歓声を上げながら町の通りを走り回る小さな子どもたちの一団、家の前の道に置いた椅子に腰を下ろし、何をするでもなく周囲を眺める老人たち、歌うような声を上げながら、迷路のような道を練り歩く物売り――。建物と建物との間に張られた紐には色とりどりの洗濯物がはためき、そこだけは舞のような華やかさが窺えた。二羽の眼下に広がる町の姿は、それ自体が一つの生き物のようにも見えた。
二羽の眼下に広がる建物の群れは唐突に樹々へと変じた。その後も飛行を続けた二羽は、程なくして樹々の中に空いた穴のような場所の上空に達した。二羽は首を巡らせ、穴の底を見下ろした。穴の北側に並ぶようにして建つ二軒の小屋、小屋の前に伸びる小径、その東側に作られた畑――セレーヌの住まいは普段と何ら変わりなかった。二羽は羽ばたくのを止めると尾羽を傾け、円を描くようにして降下を開始した。聳える樹々を横に見ながら降下を続けた二羽は、わずかな羽音とともに小屋の前に降り立った。二羽は翼を畳み込みながら周囲を見回すと、次いで、目の前に建つ小屋を見上げた。
〈セレーヌさんはまだお戻りになっていないらしい。〉リウェルは小屋の扉を見据えながらフィオリナに念話で語りかけた。
〈そのようね。〉フィオリナも扉を見詰めながらリウェルに答えた。〈小屋の中に誰かが居る様子はないわ。まだ陽も高いから、学院にいらっしゃるのね。これからどうしましょうか。〉フィオリナはリウェルに顔を向けた。〈食べ物を探すのでも、図書館に行くのでもいいわね。ここ何日かお休みしていたから。〉
〈図書館に行くのは明日からにしよう。〉リウェルはフィオリナを見た。〈午まではこれまでどおりヒトの姿で勉強して、午過ぎからはこの姿で過ごそう。その後でコルウスさんにお目にかかることができれば……、まだ教わりたいことも残っているから。〉
〈水浴びの方法と場所、この姿のときに気をつけるべきこと、身の守り方、森や草原ではない場所で食べ物を探す方法……、こんなところかしら?〉
〈すぐに思いつくのはそれくらいだと思う。ひととおり身につけておけば、この姿で過ごすのに問題はないはずだから。〉
〈ヒトとして町に住むよりも、鴉として町に棲むほうが先に上手になりそうね。鴉の姿なら、服もお金も家も必要ないもの。町の中でも食べ物を見つけられる、休むときは樹の枝にでもとまればいいわ。でも、鴉の姿だと学院には通えないわね。講義を聴きに行くことはできるかもしれないけれど、ずっとというわけにもいかないわ。〉
〈いっそのこと……、〉リウェルは梢の先に広がる空を見上げるも、すぐに顔を下ろし、何度か左右に振った。〈いや、だめだ。この姿だと入学もできないから卒業もできない。それに、図書館にも入れない。〉リウェルはフィオリナを見た。〈この姿の僕らが図書館に入るのを、受付の係員が許すと思う?〉
〈許すとは思えないわ。〉フィオリナは首を横に振った。〈もし、入るのを許されたとしても罠を疑うわ。きっと、何かしら仕掛けがあるだろう、って。まともな係員なら、空を舞う鳥を建物の中に入れようなんて思うはずないもの。〉
〈違いない。〉リウェルは笑いながら翼を上下させた。〈町で暮らすのなら、ヒト族の姿のほうでそれらしく振る舞えるようにならないと。今のままだと、この姿のほうが早くそれらしく振る舞えるようになってしまうかもしれないけれどね。〉
〈ええ、そうね。〉フィオリナは首を縦に振った。〈それはそれとして、はじめに話していたことだけれど、今日はこれからどうする? この姿で辺りを歩く?〉フィオリナは周囲を見回した。〈この場所だってまだ半周しただけだから、一周するのはどう?〉
〈その案で。〉リウェルも左右を見た。〈食べられそうなものはまだ見つけられるかな。下に落ちているものだけではなくて、上にあるものも見ながら、ね。〉
〈いいわ。そうしましょう。〉
リウェルとフィオリナは、小屋の前に伸びる道へと歩みを進めた。程なくして空地の縁に至った二羽はそこで進路を左に定めると、そのまま樹々と畑との間を進んでいった。二羽は時折顔を上に向けた。二羽の視線の先では、畑に植えられた作物が空を目指すようにして茎を伸ばし、幾重にも葉を茂らせていた。二羽の目はその中に、茎とも葉ともつかないものを捉えた。それは、葉の縁に掴まり、頭を前後に動かしながら葉を食む、緑色の仔蟲だった。仔蟲は、器具を使って測ったかのような正確さで、半円状に葉を食べ進んでいた。リウェルは仔蟲に近づくと嘴で咥え、葉から引き剥がした。そのまま、嘴の間で捩る仔蟲を暫し見詰めると、頭を何度か左右に振りながら嘴を動かし、仔蟲の頭を噛み潰した。だらりと垂れ下がり、動きを止めた仔蟲を、リウェルは丸呑みにした。
〈それも食べられるわね。〉フィオリナはリウェルを見、次いで、枝葉の中を覗き込んだ。
〈落ち葉の下に居た白い蟲と味もそれほど変わらない。〉リウェルは嘴を開くとすぐに閉じた。〈葉を食べる仔蟲は嫌われているはずだけれど、セレーヌさんは敢えて放っているのかな。〉
〈もしそうだとしたら、〉フィオリナは、別の葉の縁に掴まる一匹の仔蟲を見上げた。〈私たちが食べるのはよくないわね、一匹や二匹なら食べても大したことはないと思うけれど。〉フィオリナは嘴で仔蟲の頭を咥えると、そのまま嘴を閉じた。〈セレーヌさんがお戻りになったら、念のため確認しておきましょう。〉フィオリナは、動きを止めた仔蟲を丸呑みにした。
〈そのほうがいいかもしれない。〉リウェルは頷いた。〈でも、昨日の様子からすると、僕らが食べても気にされるとは思えないけれどね。〉
〈私もそう思うけれど、念のため、よ。〉
〈わかった。〉
二羽の鴉たちは畝を通り抜け、空地の東端まで進むと、その後は樹々の根元に沿って北向きに歩みを進めた。地面を見詰めながら、時に嘴で落ち葉を払いのけ、下に潜む蟲を啄み、時に朽ちる前の木の実を引っ張り出した。そのまま二羽は歩みを緩めることなく顔を上げると、樹の幹にとまる蟲を捕らえ、時折、捕らえた獲物を互いに贈り物をするかのように分け合った。二羽が離れ家の北側を通り過ぎ、空地の西端に達する頃には、空はさら碧さを増し、周囲には薄闇が広がりつつあった。陽射しは既に樹々に遮られ、空地は陰の中にあり、樹々の梢を打ち鳴らす風が空地の底まで駆け下りるかに見えた。二羽はどちらからともなく歩みを止めると顔を上げ、首を巡らせ、木立の奥を見詰めた。
〈空地に向かっているのはセレーヌさんだね。〉リウェルは樹々の間に目を遣ったまま、頭を幾度か左右に傾けた。
〈あの足取りは、そうね。〉フィオリナもわずかに首を振りながら答えた。
〈小屋の前でお出迎えしたほうがいいかな。〉リウェルはフィオリナに向き直った。
〈驚かせないようにするには、そのほうがよさそうだけれど、〉フィオリナはリウェルを見るも、すぐに自身の体を見下ろした。〈黒い羽だと、どうしても驚かせることになるわね。〉
リウェルは両の翼をわずかに上下させた。〈その点は諦めよう。暗闇の中、念話で話しかけても、驚かせることになるのには変わりない。〉
〈声をお掛けしないのも却ってよくないわ、きっと。〉フィオリナはかすかに首を傾げた。〈セレーヌさんには悪いけれど、毎回驚いてもらいましょう。〉
〈楽しそうだね。〉リウェルはフィオリナをじっと見詰めた。
〈あら、そうかしら?〉フィオリナは顔を上げ、リウェルを見た。
〈何にしても、小屋の前まで行こう。〉
〈ええ、そうね。〉
リウェルとフィオリナは小屋の前まで進むと扉を背にして立ち、空地を見詰めた。程なくして二羽は、セレーヌが木立の中から姿を現すのを目にした。セレーヌは、二羽の鴉たちが小屋の前に居ることに気づいた様子もなく、しかし、足許に気を配りながら歩みを進めた。
〈おかえりなさい、セレーヌさん。〉〈おかえりなさい。〉リウェルとフィオリナは、セレーヌが小屋まで数歩というところまで近づくと、念話で語りかけた。
「ああ、あなたたち、そこに居たのね。」セレーヌは歩みを止め、小屋の前の地面に目を落とした。「おかえりなさい。」セレーヌは大きく息をつくと小屋に近づいた。「無事に戻って、よかったわ。食事の支度をするから、あなたたちのお話を聞かせてくれるかしら?」
〈はい。〉二羽は、小屋の扉を開けるセレーヌを見上げた。
一人と二羽は小屋の中へと歩み入った。
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