プロローグ2
ローラーブレードのおかげで、大学まで1時間かかる道のりが半分の30分で行けてしまう。これに関しては本当に親父に感謝だ。
原付並みに速いこのローラーブレードは、もちろん歩道なんて走れず、車道を走るしかない。
歩行者や車に乗ってる人は、毎回驚きの顔で見てくる。中には話掛けてくる奴もいたりして、最初は大変だったが、今では気にせず軽く遇らう術を身につけた。慣れって怖い……
信号に捕まり待っていると、
「悠斗おはよう!」
一限があるこの時間に大学に行くと必ずと言っていいほど遭遇する幼馴染の綿谷 百華。今日は白のワンピースに帽子を被った清楚系の服装だ。
「百華おはよう」
「今日もいい天気だね。あっ!寝癖ついてる。ちゃんとしないとダメだよ」
そう、百華は第2の母さん的ポジション。小学生の頃からの付き合いで家も近い。腐れ縁という奴だ。
中学まで一緒だったが、頭のよかった百華は当時最高レベルと言われていた高校へ進学。俺は勉強嫌いが災いして普通の高校へ。
そんなこんなで高校は別々だったが、大学に進学すると何故か百華もいて驚いた。
百華ならもっとレベルの高い大学に行けたはずなのに、なぜこの大学にしたのか聞いてみる。
『家から近いからだよ。』
そんな返しに、俺は思い出す。百華はどっか抜けた奴だったと。
「仕方ないだろ。一限の日は朝が早いんだから。」
「どーせゲームで夜更かししたんでしょ!バレバレですよーだ。」
「百華よ!ゲームとは世界の真理を表現しているんだ。ラスボスまでの地道のレベリング。正しく……」
「あーはいはい。それよりこの間、頼んだもの持ってきたかな?」
「うわ!忘れてたわ……」
先週、パソコンを使えない百華からブリュレの作り方のコピーを頼まれていた。
「ひどーい。」
頬を膨らませながら見つめてくる百華が少し可愛い。
「ほんとにごめんて。」
「じゃあ、学校終わった帰りパンケーキごちそうしてくれたら許してあげる。」
痛い出費だがこれで許してくれるなら仕方ないか。
「わかった。ごちそうする。」
「やったー!パンケーキ!パンケーキ」
機嫌が直ったのか、昨日の夜にやってたテレビ番組や友達の彼氏の話など、たわいもない話をしながら大学に向かって行った。
時間に余裕を持って席に座り、一限の授業の準備をする。この教科は百華も取っているため隣に座り一言言ってくる。
「居眠りしちゃダメだよ。」
正直ゲームで寝不足の俺にはキツイ。
夢も目標もない俺は、働きたくないために大学に進学した。とりあえず、あと3年半は学生の有意義を堪能したい。その思いを代表する行動が居眠りである。
「居眠りじゃない!体力回復イベントでの特殊スキルだ。スキル名はキュ……」
「また訳わかんない事言ってる。」
そんなふざけた話をしている間に教授が来て、さっそく体力回復イベントが始まり、俺のスキルが発動する。結局、居眠りなんだが。
隣に座る百華から何回も起こされたがヘコたれず、深い眠りに落ちていく。
「……やっ……けた……。」
いきなり頭の中に聞いた事のない幼い少女の声が響いた。
「……わ……しの……主人。」
俺は、完全にゲームのやり過ぎで夢を見ているんだと思い込んだ。
「……あとすこし……逢えます……から。」
なんと積極的な夢だろうか。幼い少女が俺に逢いに来るなんて。ロリ好きではないが、深い眠りに入っている現状でも口がニヤケてるのが分かる。
「悠斗起きろーー!」
耳元で叫ぶ百華の怒号で、幸せだったイベントが終了してしまった。
「結局居眠りしてたね。」
とりあえず、寝ている時に頭の中に響いた幼い少女の声が百華じゃないか確認してみる。
「なぁ、百華?」
「何?」
「俺が寝てる時に『私の主人』って耳元で言った?」
「なっ!そんなこと言わない。夢でも見てたんじゃないの?」
恥ずかしそうに慌てる百華が不意に可愛いと思ってしまった。
てか、やっぱりそうだ。あの声は百華じゃない。てか俺のこと百華は主人なんて言わない。あの声はいったい誰なんだろうと考えていると
「じゃあ悠斗。学校終わったら校門で待ち合わせね。またね。」
一限以外は百華と取っている授業が違うので、学校終わるまで一緒にはならない。
「またな。」
そこからの授業は、あの少女の声について考えていた。夢を見ていただけ。と思えば終わりなのだが、なぜか引っかかっていた。
結局モヤモヤが晴れないまま学校が終わり、校門で百華と合流。そのまま、駅前のパンケーキ屋に直行した。
フルーツと生クリームがたんまりと乗ったパンケーキをおいしそうに食べる百華を見ていると、ところどころ不意に可愛いと思ってしまう事を俺は思い出し、唐突に質問してみる。
「百華って可愛いのになんで彼氏いないんだ?」
本当に素直な疑問をぶつけただけだったのだが。
「ガチャン」
百華がいきなりフォークを落とした事に驚く。
「なっ…なっ…なんでそんな事……聞くの?」
顔を伏せながら喋る百華がいつもと違うのがわかった。
「いや、ただ疑問に思っただけ。後、今まで何人と付き合った?」
百華を中学まで知っているが、付き合った噂も話も聞いた事なかった事から0なのは分かる。
しかし、高校が別々になってからは全く会うこともなくなり、さすがにこの可愛さでモテないはずがない。
「付き合った人なんていないよ。」
意外な返答に俺は驚いた。
「マジで?」
「私の行った高校は、勉強勉強でそんな暇がなかったんだ。」
「そうだったんだ。百華はモテるから今からでもすぐに彼氏ができるんじゃないか?」
「じゃあ、悠斗は今まで何人と付き合ったの?」
自慢じゃないが、俺は外見は地味で身長も168と微妙。大学生になったから髪だけ茶髪にしたぐらいで、人見知りの性格が悪化して高校から友達と呼べる奴はいなかった。
「今まで生きてきた年齢=彼女なしだ。」
そう言うと、俯いていた顔をバッと上げた百華が満面な笑みで、
「よかった〜!このパンケーキおいし〜!」
何がよかったが分からなかった俺だが、おいそうにパンケーキを頬張る百華を見て、癒されていた。
「ねぇ悠斗!小学生の頃、よく遊んだ公園覚えてる?」
「あぁ、覚えてるよ。」
「今から、そこ行こうよ。」
小学生の頃から、外で遊ぶよりゲームしていた俺だけど、親父から貰ったローラーブレードをやりに百華を誘って公園には良く行っていた。ローラーブレードは当時の俺には難しくて、よく怪我をしていたのを覚えている。
パンケーキ屋を出て数十分歩くと思い出の公園が見えてきた。
「変わってねぇな。」
「うん。そうだね。」
「俺よく怪我してたっけな。」
「その度に私がばんそうこう貼ってたね。」
この会話を最後に、俺と百華は何も喋らず黙ってブランコに乗っていた。
夕陽に照らされる遊具がより静けさを物語っている。この沈黙を破ったのは百華だった。
「悠斗がどのぐらいローラーブレードが上手くなったのか見せてもらっていい?」
「あぁ、いいよ。」
そこからの俺は、籠から解き放たれた鳥のように空を飛び、遊具を使ってアクロバットを披露し、
今まで練習してきたものを百華に見せ、最後の決め技に入ろうとした瞬間、頭の中にあの幼い少女の声が響いた。
「レジェギアスコア能力全解放。転移開始。」
すると、俺の周りに魔法陣みたいな円が出現した。
「なんだ……これ」
混乱している最中、俺の手が光の粒子になってどんどん消えていく。よく見ると手だけじゃなく、体全体が透けて消えている。
「悠斗?何が起こって……るの……?」
顔が青ざめて、混乱して、今にも泣き出しそうな百華を見ていたら、少し冷静になった。
「百華。俺は死ぬわけじゃないから。きっと帰って、いや必ず帰ってくる。だから待っ……」
言葉途中言い残して俺は完全に消えていった。
「悠斗……嫌だよ……帰って……きてよ…。」
百華は、そこから動く事がてぎすに泣き続けていた。