第六話《旅立つ先》
どうぞお楽しみにください。
ドサッ
荒れた砂利の上にあっけなく落ちてきたのは、折れた錆無化の刃だった。帷子はというと、先端から30センチ程がなくなった錆無化を握ったまま呆然と立ち尽くしていた。彼には何が起こったのかが理解できなかった。戦えと言われるがまま戦い、気がついたら錆無化が短くなっていたのだ。
「っと、これにて終了〜、、かな?」
キンッと軽快な金属音をたてながら剱を鞘に納めた報恩寺は、まるで当たり前のことをしたかの様にそっけないそぶりで太秦の方を見た。
「剱を折った、、、んです、、か?」
「んまぁ、そゆことだね。一件落着。やったー(棒)」
「何が解決できたんですか?僕には何が何だかさっぱり、、」
「太秦さっきみたいにさ、寿命とか見れる?なんか見えてたんだろ?」
「?ああ、はい」
(確か、、分析眼、だったっけな。)
『主!もう忘れたのか?雪祈を受け継ぐ気があるのか⁉︎』
(わ、忘れてませんよ!もう、集中するんで念話切りますね!)
そういうと太秦は再び目を閉じて深呼吸をし、まぶたをゆっくりと開けあの青い世界へと入っていった。帷子の方へと視線を移した太秦は隣に浮かび上がる大きな文字を読んで行くが、ぱっと見では何かが変わった様子は見受けられなかった。しかし下へ下へと読んで行くうちにあることが大きく変わっているのに気がついた。
「じ、寿命が、、延びてる⁈」
下の方に書いてあった寿命の数値が忙しく入れ替わっているのを見た太秦は、細かい数値はともかく、確実に寿命が延びてることだけはわかった。
「寿命が延びているだと、、⁈」
驚きを隠せなかったのか、帷子もいつのまにか思ったことを声に出してしまっていた。そして、それに応えるかのように報恩寺が口を開いた。
「寿命が短くなった原因は錆無化だってさっきあんたが言ってた。原因がわかったんだから、あとはそれをぶっ壊すだけだろ?」
「つまり久我さんは、、寿命を延ばす為に、、、剱を折ったと?」
「イエスイエス、そーゆーこと。」
報恩寺は両手で指をさしながら太秦からの質問に答えた。彼にとってこの質問は軽く答えるようなものであった。しかし、事の現状を理解した彼らにとってそれは軽いなんてものではなかった。剱を折る。その事実が意味するは、久我報恩寺の強さと恐ろしさ。彼の軽い発言がそれをよりくっきりと際立たせている。
「でもってぇ、お礼と言っちゃあなんだけど、、今晩泊めてくんない?なんだかんだで遅くなっちゃたしさ。」
そう言われて、太秦はふと空を見上げた。どこまで手をのばしても届かない青。散らばる雲が反射させる紅い陽の光。
「黄昏時、、、。」
太秦が不意に吐いたその言葉『黄昏時』が意味するのは、超現実。人が人で無くなる時。無為。嘘。
(あぁ、僕が今居るのは、、、)
黄昏時 か
「太秦、客室へ案内しなさい」
「へ、あ、は、はい」
膝をついたまま喋る帷子。そのあまりにも頼りない声に驚いたのは言うまでもない。
「くるしゅうねえな、太秦。」
「何言ってんですか。」
太秦はうなだれる帷子を背に、荒れた枯山水を後にした。
ー帷子家 太秦の部屋
だだっ広い質素な部屋の片隅で少年が1人、青い満月をその瞳に映していた。
「久我さん、強かったなあ。」
『確かになあれは相当な手練れか、もしくはなんらかの能力を使ったか。それはそうと主、わしの言った通りにしたか?』
「ええっと戦闘中、分析眼を展開しろってやつですよね。あれって、、何の意味が、、」
『その時の映像を分析眼で思い出せんか。こう、なんか、、記憶を喚起するような感じで』
「う〜ん、、、あっ、こんな感じですか⁈」
そう叫んだ太秦の視界には多少ボヤはかかっているものも、確かに帷子と報恩寺の戦闘シーンが映し出されていた。
『そうそうそれそれ!これをこうして、、ここをああしてだな、、、、よし!できた』
「おお、これは、、、」
『奴の行動分析だ。分析眼にはこういう使い方もあるんでな。』
声しか聞こえないが、彼がドヤ顔をしていることは確かだろう。
「まあ、今度久我さんの事、分析してみますよ。今はただ風にあたってたいです」
『そうか。そういえば、お主の母、壬生も気持ちの整理がつかない時、そうやって風に当たっていたな。たまにそのまま寝てしまって風邪をひいてしまって、帷子が必死になって看病していたのを思い出すわ』
彼はそう言って微笑した。太秦が知らない両親の過去。それを聞くことが太秦にはたまらなく嬉しく、たまらなく愛おしいことであった。
「雪析さんの話を聞いていると、なんだか母上がそこにいるような気がするんです。」
『そうか』
「もしよければ、母上たちの昔話、聞かせてもらえませんか?」
『時間が許すまでは、その身果てるまで聞かせてやる。』
「そうですか。ありがとうございます」
太秦は微笑んだ。その表情を崩さぬまま、彼は眠りについた。
翌日、彼が起きたのは遅朝。帷子の大きな声で起きた。
「んん、くっ、ふぁ〜ぃ、、ん、もう朝?」
朝を感じさせる鳥のさえずりはもうなく、代わりに聞こえるのは帷子の叫び声だった。
「って、父上⁈久我さんに何か言ってるのか⁈ヤバイヤバイ、こういう時父上ってとんでもないこと言うから、、、」
太秦は壁に掛けてある丸鏡を覗き、寝癖を整え前髪にピンを留めると、部屋を飛び出し声のする方へ駆けて行き、居間のふすまをスパンッと勢いよく開けた。
「父上!久我さんに一体何を、、、」
「む、起きたか太秦」
「ぬお、太秦おはよー、、くぁあああ、、ああ、まだねみぃ。」
「これは、、一体何をしているのですか?」
「ん?なあに私の命を救ってくれた恩人だぞ?今はこのように打ち解けて、太秦の秘蔵『出で立ちアルバム』を見せているところだよ」
(お前のとーちゃん変態なのな)
(否定できないから黙ってろ)
報恩寺の小声に同じく小声で返した太秦。どうやら帷子には聞こえていなかったようだ。
「あと、ここでこうやって話しているのは俺が帷子さんを呼んだからだよ」
「話とは?」
「太秦、とりあえず座りなさい」
帷子の声のトーンが落ちたのに少しびびった太秦は、言われるがままにそばにある椅子に座った。
「このアルバム見る前に色々と話し合ってな?」
「あ、もうみたんですね」
「うん。お前3歳の時が一番可愛いな(笑笑)」
「いいからっ!」
「で、話し合った結果、、、」
「太秦、お前をギルドに入団させることにした。」
「な⁈」
「私は恐れるが故にお前に何もしてやれなかった。それは社会を学ばせることも同じ。いい機会だから、お前を久我殿に預けることにした。今すぐにでも準備をしなさい」
「荷物まとめたらでるぞぉあああ。」
まだ眠い報恩寺の言葉には大きなあくびが混じっていたが、言いたいことはわかった。
「では、行ってきます。父上」
「あぁ、達者でな」
「あのさ、もっとこう感動の別れとかないの?」
「貴様の前でできるわけなかろう」
「そーですかい。んじゃまあ、適度に連絡するよ。ほれ、行くぞ太秦」
「あ、はい」
「久我殿、再三言うようだが、息子を頼んだ」
「ああ、任せときな。太秦のことは何がなんでも俺が守る」
「あの、父上!」
「なんだ?」
「父上は、僕の誇りですよ!」
「!」
涙ぐむ自分に喝を入れる。
「私も太秦が誇らしい。いつでも帰ってこい」
帷子にはわかっていた。太秦が簡単には帰って来ないことを。それでもそう言いたいのは、父親としての本能だろうか。愛する我が子の背中を愛おしそうに眺めた。
太秦は旅立った。
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