番外編《久我報恩寺といふ男》
この番外編は久我報恩寺の過去にあった出来事です。
頑張りました。
他人の目からどう映ってるかが不安デス…。
お楽しみください!
時は江戸、太秦が産まれる五年も前の話になる。
ドンッドンッ
「おい、早く開けんか!いるのはわかっているんだぞ!」
強くたたかれ軋む木の扉の向こう側から、男の威圧的な声が聞こえてきた。
家の中には怯えて夫に縋りつく母と、そのそばに濃い茶髪の男の子が半泣きで座り込んでいた。
「ああ、あ、あなた!どうしましょう。この子もいるのにあんな大金を支払うなんて無理があるわ」
「私だってそれは理解しているよ。もう一度、もう一度だけ話を聞いてもらうよ」
「あなた!大丈夫なの⁉」
「心配しなくても大丈夫さ」
「お、お父さん、、、、」
父が勢いよく立って扉へと向かい家から出て行った。外から声が漏れるが、何をしゃべっているかは認識できない。しかし、事は彼が家を出てわずか30秒もたたないうちに起きた。
「、、、めろ‼やめてくれ‼」
「話し合いじゃキリがつかねえ、、、おい、女とガキを連れてけ」
「「おう」」
蹴破られた扉の奥から男が三人、ずかずかと入ってきた。
「うわあああ!お母さんっっ!」
「報恩寺!ちょっ、やめて!はなして!」
「お母さん!お母さん!!」
「うるせえ!ガキの分際で喚くな!」
男はそう言うと報恩寺と呼ばれる男の子の腹を思いきり殴った。
「おぼっ、げほ、げ、げおおおお、、、、」
当然、痛みに耐えきれなかった報恩寺はその場で嘔吐する。
「おい奇乙班長!こんなボロ屋にも良い女が転がってたぜ!」
「ああ?勝手にしろ」
「おいっっ‼‼やめろっ‼妻を放せ‼てめえらの穢れた手で触んじゃねええええ‼」
夫が妻の服を脱がそうとする男にむかって、目を見開いて叫んだ。
「子は親に似るっつーのはこのことか?親子そろってクソうるせえ」
シュラァ、、、、
男はそう言い放つと腰に差していた剱をゆっくりと引き抜いて夫のうなじにあてた。
首筋に伝わる冷たい鉄の感覚が夫の全神経をそこに集中させた。
「はっ、な、なにをする、、、、!」
「んん?うるせえ首はいらねえだろ?」
「やめてええええええ‼‼」
妻の声は空間で虚しく響き、赤黒い液体とともに人の首が宙を舞った。
「いやああああああああああああああああ」
「お、おとう、、さ、ん、、、?」
「ガキを『部屋』に連れてけ!」
家に母を残したまま、報恩寺は男に引きずられ家をあとにした。
寒い、とにかく寒い。だがその寒さはおそらく物理的な気温ではなく、雰囲気が醸し出している何かを脳が寒さと間違えて感じ取っているのだろう。家からはどれ程離れただろうか、部屋には窓がなく吐き気を誘うような臭いが充満していた。部屋の中央には拘束器具が取り付けてある椅子が設置されていた。報恩寺はそこに縛り付けられ男と向かい合わせで座らされた。
「さあ僕。俺が何者かはさておき、俺の趣味について話し合おうか」
「い、いやだあ。おうちはどこ?おうちに返してえ!」
「黙れよ‼」
男はそう言うと、報恩寺の頬を思いきりたたきつけ、懐から出した小さい刃物で報恩寺の左目の下をゆっくりと抉った。
「いいか?僕。俺の趣味はねえ……拷問なんだよ。君みたいなか弱い生き物の叫び声が聞きたくて仕方ないんだ」
ふと部屋の奥の方にある台車に目が留まった。たくさんのメス、針、ペンチなどといった拷問器具がたくさん並べられていた。ところどころ付いている黒い汚れはきっと血の汚れだろう。
「さあ、どこまで耐えれるかなぁ?クハハッ!」
そこからはもう文字通りの『拷問』だった。
体のいたるところに針を奥深くまで刺され、20枚ある爪は全てゆっくりと痛みを感じるようにメキメキと剥がされていった。指は容赦なく捻じ曲げられ、鞭で全身を叩かれ、硬い拳で殴られ、やがては痛みを熱と勘違いする程にまで達し、そこからはもう特に感覚はなく、いっそ舌の上でとろけてゆく飴のようで、死ぬに死ねない状況が報恩寺の怒りを通り越していった。
「さて、今日はこのくらいにしておこうか、もう夜だしね。僕はそこで寝とけよ。おっと、忘れるところだったよ、コレを見ながら寝てね?おやすみ。」
ゴロン………
男がそう言って報恩寺の目の前に置いたソレは、紛うことなく報恩寺の両親の首だった。
「ふっ、ううわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
冷たい江戸の夜に響く、世界の終わりを告げるような叫び声。その叫び声は、まだ年端もゆかぬ5歳の男の子が発するものだとは思えない叫び声だった。報恩寺の脳裏には男の顔が、額に刺青が入った奴の顔が焼き付いて離れなかった。
□十数年後
長い白髪をなびかせる男が一人、夜風にあたっていた。包帯がしっかりと巻かれた腕で、その指で、目の下の傷跡を優しく撫ぜた。
「忘れねえぜ、、、」
ぜってえに、、、、、、、、、殺す。
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