第一話 《転機》
人生初の作品、刀剣アクションファンタジーです。
どうぞお楽しみください。
※書き直されています。
「いいか太秦。37代目まで続いてきたこの ゲホッ 椙ヶ本家を絶えさせるわけにはいかん。お前ももう ゴホッ 13歳、立派な大人だ。早いうちに剱との契約を交わさねばならん。いつまでも悩んでおらんと、さっさと決意しろ。いいな?」
「…はい……」
太秦の父、帷子が息苦しそうにそう告げて、部屋を後にした。
この世界には〈契約〉という剱を持つものが欠かしてはならない儀式があった。剱と契約を交わすと、肉体が朽ちるまで手放せない代わりに能力を手にすることができる。その能力は剱によって様々で、上位のものほど強力な能力を手にすることができる。
しかしながら、代々椙ヶ本家が継いでいる剱は〈錆無化〉という国内でも有名な妖刀で、能力には期待できるものの、契約を交わした者は50歳を過ぎると原因不明の病で死んでしまうのであった。それが理由で太秦は錆無化との契約を交わせずにいた。
「僕はあんなものの所為で死にたくないのに。僕にだって…僕にだって剱を選ぶ権利くらいあるのに。」
太秦は2日前のことを思い出す。あの日、母の墓場で見たこともないような美しい剱を見つけたことを。
(父上にあの剱を見つけられてないといいけど…部屋に隠したのは間違いだったかな。)
太秦は不安げな顔で大きな屋敷を後にした。
同刻、容姿端麗な白髪の青年が右手にメモを持ちながら、のらりくらりと歩いていた。
「こんちわ〜」
青年が不安げな顔の少年にあいさつを交わした。
「あ、ども。」
その返事は、こちら側まで不安になりそうな細々とした返事だった。
(ったく、なんだよ最近のガキは。どいつもこいつもコミュ障かっつーの。)
そう心で叫びつつ、右手のメモの目的地を確認した。
「お、やぁっと着いたぁ。」
そこには視界を覆うような大きな屋敷が建っていた。
「椙ヶ本家ってこんなにデカイのかよ…」
青年はそう呟くと厚いガラス張りの引き戸をゆっくりと開けた。家の中には人の気配がなく、妙に静まり返っていた。
「あのぉ、すんませぇん。久我報恩寺っていうもんなんすけどぉ、誰かいませんかー」
報恩寺が軽く自己紹介しながら人を呼ぶと、遠くの方から30代前半と思われる、丸みを帯びた男がやってきた。行動や格好から察するにこの家の主人ではないだろう。
「どうもこんにちは。私はこの家の使用人です、何か御用ですか?」
「あ、あのですね。この家の長男の太秦君に話したいことがありまして。」
「申し訳ありませんが、坊ちゃんでしたら先ほどお母様のお墓参りに向かわれた所なんですけども、坊ちゃんとはどういったご関係なんですか?」
「あ、いや、正直な所見たこともないんです。太秦君。はい。でもこの家のとある噂を耳にしましてね。ほら、この家にある剱。そのことでちょっとお聞きしたいことがありまして。」
「それでしたらどうぞお上がりください。」
「そんじゃ、おジャマしまーす。」
報恩寺は無造作に靴を脱ぎ捨てると、静かに歩く男の後ろをドタドタと歩いた。
時間はもう正午に近いだろうか、日照りが強くなってきた帰路を太秦はうつむきながら歩いていた。あの剱のことが太秦の頭から離れなかったらしい。
「もし、錆無化ではなく、あの綺麗な剱と契約を交わしたらどうなるのだろう。やっぱり怒るだろうな~、父上。」
太秦はぶつぶつと呟きながら引き戸を開けた。慣れた足取りで通路を抜けると何やら男の会話が耳に入ってきた。
「あ、おかえり~」
声のする方へ顔を向けるとそこにはつい数十分前にすれ違ったばかりの白髪の青年が自分の家で盛大にくつろいでいた。
「あ、あなたは……」
「ってだれかと思ったらお前かよ~。え、もしかしてこのコミュ障君が太秦君ですか?」
「はい。あちらのコミュ障が太秦様でございます。」
「いや誰がコミュ障ですかっ‼」
「なんだよ、コミュ障の割には威勢がいいじゃねえか。」
「だからコミュ障じゃないってば‼あなたこそ何ですか‼勝手に人の家でくつろぎまくって‼誰ですかあなた‼」
「勝手にとはなんだ、勝手にとは。こちとらお前に用があってわざわざ来てやってんだぞ。来てから何もせずに待つのもあれだろ?だからここで勝手にくつろいでただけだ!」
「いやなに偉そうに言ってるんですか⁉やっぱり勝手にくつろいでただけじゃないですか‼」
「太秦様、この方は例のあの剱のことについてお話しを伺いに来た久我報恩寺様です。確かギルドの剣士でしたね?」
「そうそう」
「ぎるど?」
「ギルドっつーのは、鎖国解除から15年後の1868年に設立された異能犯罪専門の治安維持組織だよ。劔の利用者と人口の増加に伴って剣士を集めて違法剣士の取り締まりを目的としてる組織なんだが、知らなかったのか?」
「はい、父上の教えもあって、あまり外の世界に触れさせてもらえなかったものですから。」
「そっか。お前の親父、キビシーんだな。」
「はい、、それよりあの剱のこととは…」
「ああ、忘れてた。」
「忘れてたって…」
「単刀直入に訊く。お前錆無化と本気で契約を交わす気か?」
「なっ………………!」
太秦は驚きを隠せずにいた。まさか椙ケ本家が錆無化を所持していることを知っている人がいるとは思わなかった。太秦は恐る恐る報恩寺に問いかけた。
「あの、なぜそのことをご存じなんですか?」
「え、有名だから。」
「えええ‼有名なんですか⁉」
「おん。どっちかっつーと錆無化よりも錆無化を扱ってるお前らのほうが有名だぞ。」
「えええええ‼錆無化が有名なのは知ってるけど……なんで椙ヶ本家が扱ってることばれてんですか⁉」
「ネットで『錆無化』って検索するとすぐ後ろに『椙ヶ本家』ってでてくるぞ。」
「うちネットに載ってるんですか‼」
「お前の親父ネット使わねーの?」
「使いますけど、使うって言ってもせいぜいオンラインゲームとアダルトサイトだけなので、、、、」
「親父いぃ‼椙ケ本の主いいぃ‼もっとろくな使い道ねーのかよ‼つか息子にばれてますけど⁉」
「あ、いえ。目の前で堂々と使ってますよ。」
「ろくでもねえ親父だな‼」
「父上はいつも『武士たるもの、堂々としなければ武士とは言えん』と言っていますから。」
「息子の目の前でアダルトサイト使ってるやつも武士とは言えねーよ‼」
「あの、ツッコミでお忙しいところすみませんが、論点がずれてますよ。」
「誰のせいだよ‼こっちだって三年分くらいのツッコミさせてもらったわ‼」
「あの、錆無化のことでしたよね。」
「そうそう。そのことについてギルドの団員としてなんか相談事ねえか聞いてこいって言われて。」
「………………。」
太秦は相談する気などなかった。契約を交わすことも。あの剱のことも。だが相手がギルドの団員ならば話は別だった。
「今から久我さんに相談することを誰にも教えないと約束できますか?」
「もちろんだ。」
「それなら僕の部屋へどうぞ。」
「おう、よろしくな太秦。あ、でも変なことはしないぞ?」
「まったくもってする気などありませんっっっっっ‼‼」
太秦は顔を少し赤らめながら、報恩寺を部屋へ誘導した。
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