第4章:昆虫兄弟
第4章
「あれ?もう朝?」プリムは目が覚めた。
昨日、ランドの家に泊まり、ランドがお風呂上がりを待っていたらいつの間にか寝てたらしく、気が付いたら朝だった。
隣のベッドを見ると、ランドが寝ている。
太陽の光が窓からさしこんでくる。気持ちの良い朝だ!
部屋の外から、ルナの声が聞こえてきた。
「ご飯出来たよー!2人とも起きなさ〜い!」
プリムは返事をして、ランドを起こそうとベッドに近付いた。
すやすやと眠り続けるランド。プリムは少し起こすのは可哀想かなと思った。
でも、朝御飯を食べそこねたらもっと可哀想かなと思い、ランドに声をかけようとベッドを覗きこんだ。
ランドは無邪気な寝顔をしていた。
とても、眠かったのだろう。プリムはこの寝顔を、見て居たかった。
私が一度も見たことの無い表情。寝ているランドはとても無防備に見えた。
プリムは辺りを見回した。何か"書く"物があれば、何か顔に書いてやろうとイタズラ心が揺らぐ。
ベッドの下に何かが落ちていた。
手を伸ばして拾うと、それは水性マジックだった。
プリムは密かに笑い、ランドの顔の前にマジックを持った手を向ける。
そして、何も持っていない手でマジックの蓋を開ける。
開けた時、キュポッと小さい音がする。
その音で起きたのか分からないが、ランドも目を開けた。
野生の動物は、少しの物音で起きると言うが…
ビックリしたプリムは、慌ててマジックを後ろに隠した。
ランドは欠伸をしながら上半身だけ起こして言う。
「おはようプリム」と目を擦りながら、言ってきた。
どうやら気付いて無いらしい…良かったと息を撫で下ろす。
「おはよっ!今日も良い天気だね!」と元気よく答えた。
「プリム…何を隠してるの?」と唐突に聞いてくるランド。
プリムはドキッとして、後ろ手に持っているマジックを何処かに隠そうとしていた。
「えっ…いや、何も隠してなんかいないよ!本当に」と苦笑いしながら答える。
すると、目の前のベッドの上で寝ていたランドの姿が消える。
手の中で妙な感触があった。何かが無くなる感触。今まで持っていたペンが無くなっている事に気付いた。
あれ?と思い、後ろを振り返るとプリムの後ろにランドが手にマジックを持って立っていた。
プリムの冷や汗が止まらない。
彼の高速移動にマジックペン。いくら水性だからと言っても、起きてる人間の顔に落書きが出来る人なんてランドくらいであろう。
プリムは少し後退りを始めた。
ランドはマジックペンを見ながら、ニヤリと笑った。
バレた!プリムは殺気を感じた。
ランドは、ペンを構えると腰を少し落としプリムの方を見た。その目は、獲物を捕える目。
しかし、いきなりドアが開く。
ガンッと鈍い音が聞こえた。
どうやら、ルナがいつまでも食事に来ない2人を迎えに来たようだ。
ドアに押されランドが倒れた。
その隙に、プリムはマジックを奪うとさっさと部屋から出ていこうとしたが、チラッとランドの方を見ると彼が倒れた場所に彼は居なかった。
もちろん、彼から奪ったペンも無かった。
プリムは慌てて部屋を出ようと走りだそうと前を向いた瞬間であった。
キュッキュッキュッと顔に落書きを始めたランド。頭には、大きなタンコブを作っていたが…
ランドはプリムにネズミの髭を書いて、一仕事が終わったかの様にため息をつきペンを置いて部屋から出ていこうとしたが、ドアを開けた張本人に捕まった。
「プリムちゃん!仕返ししちゃいな!」とランドの首に片腕をかけてルナが言う。
ランドは暴れていたが、ルナはビクともしなかった。
プリムはペンを持ち、ランドにも同じ様に髭を書いてペンをそっと置く。
ルナは2人の顔を見て、笑っていた。
「ほらっ!2人とも、遊んで無いで、ご飯出来てるよ!」とルナは手招きをする。
台所からは良い匂いが漂って来た。急にプリムは空腹を覚える。
そう言えば、昨日は何も食べてなかったなぁと思い、台所に向かった。
「うわぁ〜凄い!美味しそう!」プリムは顔を洗ってから台所に行くと、机に置ききれない程の食事の量。
ランドも顔を洗ったのか、顔をゴシゴシとタオルで拭きながらプリムの後からやってきた。
「お世辞なんて良いよ。お城の料理の方が100倍美味しそうなんだからさぁ」とルナが言う。
「私、母の手料理とか食べた事ないんですよ!それに、こんな一杯の量の色んな食事!嬉しいっ!」と王女は感激をした。
「田舎の食べ物だけどね!一杯食べなっ!」とルナはニカッと笑った。
「いただきます!」とプリムは食べ始めた。
ランドもプリムの隣に座り食べ始める。
「まだまだ一杯あるからね!ウチには、食べ盛りの子供がいるから量なら沢山あるからね」とルナはランドを見ながら言ってくる。
「はぁ〜美味しかった…」と食後のお茶を飲みながらプリムは幸せそうな顔をしていた。
ランドは、残った魚の骨をガジガジと噛んでいる。
すると、ルナが何かを思い出して話す。
「そうそう、ランド。お前に手紙が来てるのよね。何か、汚い字で書いてあるんだけど読む?」とランドに手紙を渡す。
プリムはランドに、
「何て書いてあるの?」と聞いた。
ランドは手紙を声に出して読み始めた。
『なるっころへ、おのはかった。されたくければ、のまでにい』
「何それ?暗号?」とプリムは聞いた。
ルナも何が何だか分かってないようだった。
プリムはランドから手紙を預かり読み始める。
『親愛なる犬っころ様へ、お前の兄貴達は預かった。殺されたく無ければ、アクアランドのポートシティまでに来い』
「スゴい!プリムちゃん暗号が解けたの?」とルナが聞いてきた。
「ううん。ただ単に、ランドって字が読めないんですか?」と逆に聞く。
「あっ…」とルナがはっ!とした。
そう言えば、文字の書き方とか読み方を教えてない…。
「まさか、ランドに教えるのを忘れてたとか?」とプリムは聞いた。
ルナは頷く。
「でも、今はそんな事言ってる場合じゃないわね!ソル達を誘拐するなんて…誘拐だけに愉快犯ね!」とルナは言う。
「そうですね。」とプリムは軽く流した。
ランドは魚の骨が喉に引っ掛かったのか、ケホケホと咳き込んでいた。
「ねぇプリムちゃんお願いがあるんだけど、この子をポートシティまで連れてってくれない?」とルナはプリムに訪ねた。
確かに、文字が読めない子にアクアランドまで1人で行けるわけ無いと、ルナは思ったからだ。
プリムは少し考えた。
「分かりました!任せて下さい!」とプリムは答えた。
「本当?助かるわ!ここからアクアランドまで歩いて3日ほどかかるんだけど、ヨロシクね!」とルナは言う。
「3日かぁ…」と呟くが、ふと思う。
あれ?て言う事は、3日間ランドと2人っきりって事じゃん!朝も昼も夜も!しかも、字が読めるって事で優勢順位は私の方が上って事?
ニヤリとプリムは笑った。
また、唐突にランドが話し出して来た。
「じゃあ、今から行くかっ!」と。
プリムは目を丸くした。
3日もかかる所に準備も無しに行くとは…そんなのは無理だった。
「ランド、ルナお母様の話を聞いてた?3日もかかるのよ!?準備しないで、どうすんのよ!」
とプリムは言うが、ランドは聞いていない。
「それと、地図を見なきゃ!途中にある村とかにも寄ってて、宿を探さなきゃ!野宿で、ウサギとかネズミとかゴブリンとか食べさせられるのは、嫌だからね!」本当に、毎度思うけどこの男が考えてる事は分からない!
特に熊南瓜の時!!
プリムは顔を真っ赤にして怒る。
すると、ランドはポンっとプリムの後に手を乗せた。
「大丈夫だよ。ウルフで飛ばせば1日もかからない。プリムは、背中に乗って地図を見ながら右か左かだけを教えてくれ。大丈夫。プリムは必ず俺が守るから」
プリムは表情1つ変えなかったが、内心はドキドキしていた。
「ほらほら!2人の世界に入って無いで、さっさと行ってくれますか?一応言うけど、ソルとルルを助ける旅だからね?」とルナは言う。
ランドはルナの方へ振り向くと頷いた。
そして、獣人化をする。
そう言えば、プリムは獣人化したランドに触れるのは初めてだった。
背中に乗ると、金色の毛がふわふわとしていて、温かい匂いがした。
ルナが地図を渡して来た。地図を受けとると、ランドが話しかけて来た。
「プリム、しっかり捕まっていろよ?」と言われたのでギュッと抱きついた。
ランドはそれを確認して、腰を落とした。
「母さん、行ってくる!」そう言うと、ランドは母の視界から消えた。
まるで時間を遡っている感じだった。
回りの木々は、一瞬で過ぎて行く。
ランドは走りながらもプリムに聞いた。
「プリム、平気か?気持ち悪く無いか?」
プリムは首を横に振った。むしろ、この超スピードの中で気持ち良いくらいだ。
そっか。と言うと、ランドは更にスピードを上げた。
アクアランドに着いたのは、出発してから2時間ちょいくらいだった。
と言っても、流石に町中に獣人が入る訳には行かないと思い、アクアランドから離れた場所から歩く事にした。
ランドは獣人化を解き、プリムと歩き続けた。
プリムはランドの顔をチラッと見ると、少し息が切れてた。
やはり、あのスピードを保つ上に長時間走るのは無理があったのだろう。
プリムは何処かで休もうと提案したが、ランドは大丈夫と言って歩く。
ランドは獣人化を解き、プリムと歩き続けた。
プリムはランドの顔をチラッと見ると、少し息が切れてた。
やはり、あのスピードを保つ上に長時間走るのは無理があったのだろう。
プリムは何処かで休もうと提案したが、ランドは大丈夫と言って歩く。
不意に、ランドが何かに気付いた。
プリムは回りを見渡したが、何も無かった。
回りは、ただの荒れ地。
枯れた木とかが生えてるだけで、何も無い。
けれど、ランドは何かに気付いた様子であった。
プリムは、どうしたのか聞いてみた。
「向こうで兄さん達の匂いがした。」と指を指す方向を見たが、何も無い。でも、ランドは鼻が良い。
プリムは、指を指した方向へ走りだした。
ランドも慌てて後をついていく。
少し走って行くと、木に吊された牢の中にソルとルルが入っている。
プリムは思った。
今のランドの体力で、敵と戦うのは危険だと思った。
しかし、敵の姿は見当たらなかった。
プリムは、辺りを用心しながら牢へと向かう。
ランドが叫ぶのが聞こえた。
「やめろ!行くなっ!」その声に驚き、一瞬足を止めたが時すでに遅し。
地面に潜っていた、長身の男にプリムは捕まった。
その男が出てくると、他にも2人地面から出てきた。
太った男と痩せている男。
「プリムを離せ!」とランドは叫ぶ。
長身の男は、無言でナイフを取り出しプリムの喉元に刃をつきつけた。
チッと舌打ちをして、ランドは獣人化をする。
すると、太った男が話しかけてきた。
「本当だ!狼の魂を入れてやがる!すげぇな兄貴!」
すると、兄貴と呼ばれた痩せた男が話す。
「だろ?へへへ。こんな奴にガライは殺られたのか!」と言う。
プリムは、はっ!とした。以前、ガライさんが3人の上の兄が居ると言っていた気がした。もしかしたら…
すると、プリムを捕まえてる長身の男が話す。
「はっはっはっ…気を付けろよミート、ボーン!ガライは俺らの中じゃ弱かったけど、一応は実力者だ!俺は、この女と見学してるからお前らで、その犬っころを殺せ!」
と叫ぶ。
あいよっ!と2人が返事をすると、二人が獣人化を始めた。
「アイツ驚いてるよ!」と太った男ミートが言う。
「しかも、ウチら完全融合だもんね?」と痩せた男ボーンが言う。
変身が終わると、ランドの前に立っていたのは、デブのカブトムシと
痩せたクワガタ。
「殺っちまえお前ら!」と長身の男が叫ぶと同時に、横に吹っ飛ぶ。
もちろん、プリムはウルフの腕の中に居たが。
「ランド!」と目に涙を浮かべて居る。
ランドはプリムを、ワザとソル達がいる牢の中に入れた。
もちろん、一部鉄格子が無くなっている場所からである。
ランドは木から降りようと下を向いた時、ブブブと言う羽音を頭上から聞こえた。
はっ!と上を見ると、カブトムシが空を飛んでいた。そして、力任せにランドを下に叩きつける。
下にはクワガタが待機していた。
クワガタの鋭いハサミがランドの体を挟む。
両脇腹から血が溢れでてきた。
ランドは声にならない声で叫ぶ。
クソッ!と言うと、両手でハサミを無理矢理開く。
指が切れそうなくらい、刃が指に食い込む。
すると、いきなりクワガタがハサミを離した。地面に背中から落ちるランド。その上から、カブトムシがヒップアタックを落としてきた。
ガハッ!と血を吐くランド。
ぼろ雑巾の様に倒れているランドをカブトムシは片手で持ち上げると、上に放り投げる。
ちょうど、牢の隣辺りまで飛んだランドは横を向いた。
牢の中で、ソルとルルがプリムを抑えていた。
とその時に、カブトムシの角がランドの腹に突き刺さる。
絶望的だった。
牢の上に、大量の血の雨が降る。
カブトムシは、角に刺さったランドを下に放り投げたクワガタはそれを長身の男の所まで、蹴り飛ばす。
地面に転がり、男の顔を見ているランド。
男が近付くと、顔をおもいっきり蹴り飛ばす。
「どうした?犬っころ!人質が居たら、手も足も出ないかっ!」
「後……すこ……し」とランドは立ち上がる。長身の男をにらみつけた。
しかし、息は切れており危険な状態ではあったが。
後ろから、カブトムシが体当たりを喰らわす。
ランドは吹っ飛びながら、カブトムシの方へ向いた。
長身の男の膝蹴りが、後頭部に入る。
ランドはそのまま意識を失った。
「おいっ!そいつらを連れていけ!」と長身の男が2人に命令をした。
「こいつも連れて行くか…」と足元に転がるランドを踏みつける。