第2章:キングゴブリン
第2章
「おらっ!きりきり歩け!」と男が叫ぶ。
「ったく、お前らは人質だって事は分かってんのか?」ともう1人男が出てきた。
「とりあえず、ボスが帰ってくるまでこの牢に入れて置くか…。」と男が言うともう1人の男が、人質と言う人物達を牢に押し込んだ。
「さてと…まぁ、ボスが帰ってくるまで酒でも飲んで待ってるか…」と狭くて薄暗い廊下を歩いて行った。
ランドはとりあえず家に帰った。母に聞けば、必殺技の技名を考えてくれるだろうと思ったからだ。
町を出て東に歩いて行くと、小さな丘がありその丘の上に赤い屋根の小さな家が見えた。
ランドはその家に入って行く。
「ただいまー。母さん居る?」と叫んでみた。
すると、台所から返事が聞こえた。
台所に行くと、"何故か"プリムが居た。
どうやら、母とお茶を飲みながら話しているようだった。
ランドは"何故"プリムがここにいるのかを聞こうとしたが、先に母が言葉をかけて来た。
「ちょっとランド!あんた、プリムちゃんに失言吐いたんだって?」と聞いてくる。
"失言"?何の事だかが、分からない。しかし、母は続ける。
「あんた、必殺技の技名の1個や2個、考えられない上に必要無いって言ったらしいわね!」
それのどこが"失言"?とランドは思った。
「まったく!技名って言えば、正義のヒーローの必要不可欠な物よ?」
いやっ!別に正義のヒーローじゃないしっ!と思う。
「正義のヒーローじゃ無いってアンタ!」
いや…何で考えてるの事が分かった!
「世間は貴方の事を正義のヒーローだとは思ってはいないかも知れない…けどね、プリムちゃんにとってはランドは正義のヒーローなのよ!」と母は臭い台詞を叫ぶ。
「ちょ…ちょっと待て!本当に意味が分からないんだって!」とランドは弁解をした。
母の前に座っていたプリムは泣き真似をしだした。
「とりあえず!貴方が一番だと思う技名とその技を披露しなさいっ!ほら、外に丁度良い相手が居るでしょ?」と窓から見える森の中を指差した。
ランドは指を指した方を見ると、そこにはキングゴブリンが歩いていた。
キングゴブリンとは、普通のゴブリンより倍の倍くらい大きいが動きは遅い。一撃の攻撃力は、岩をも砕くと言われている。
「ほら、今から私がキングゴブリンを挑発して草原の方に誘き寄せるから…ランドはウルフに変身して技名を言いながら攻撃をしなさい!」と母は言うと、さっさと家を出て行ってしまった。
「ちょ…母さん危け…」
"ん"と言おうとしたが、母は居なかった。
ランドはやれやれ…と言い頭をかいて家を出た。
プリムも一緒に出てくる。
家を出ると、母がキングゴブリンを2匹連れて森から出てきた。
そう…2匹連れて。
「ほらっ!ランド!早く助けてー…」と母が全力疾走して草原を駆けていた。
後ろには、ゆっくりだが
キングゴブリンが追い掛けている。
ランドは深いため息をついた。技名を母に聞こうとしていたのに、それよりも先にプリムの魔の手が母に及んでいたとは…。
とりあえず、母を見捨てる訳にはいかない。そう思い、ランドは獣人化をした。丘の上から狙いを定める。
丘はそんなに高くは無いが、一撃を狙うとしたら周りが見渡せて一気に片づけられるタイミングを計るのには丁度良かった。
母のスピードが落ちて行った。流石に、歳には勝てないのか。そう思っていたら、キングゴブリン達も体力が無くなり、動きが止まった。
ランドは、その隙を見逃さなかった。
丘からゴブリンのとこまでジャンプをしてゴブリンめがけて蹴りを繰り出して名前を叫ぶ。
「ウルフキーック!」
ランドの蹴りは、ゴブリンの頭に当たるともう1匹のゴブリンを巻き込み吹っ飛んで行く。
名前とは裏腹に、威力はスゴイ。
頭を蹴られたゴブリンは気絶をしたが、巻き込まれたゴブリンは直ぐに立ち上がった。
「ランド!カッコイイ名前でトドメを刺しなさい!」と母が叫ぶ。
ランドは、ゴブリンに向かって行き叫ぶ。
それは、攻撃が当たる数秒前に叫んでいた。
「俺の爪は、お前を襲い…斬り刻むけど、恨まないでね!この世は、弱肉強食の世界。斬り刻んじゃうよ斬り!」
長くてセンスが悪い。
でも、威力だけはスゴイ。
キングゴブリンの体に、×の字になるように爪痕が残り血を吹き出して倒れた。
振り返ると、さっきまで気絶をしていたもう1体がすぐ後ろまで来ていた。腕を振り上げている。
キングゴブリンの攻撃を喰らうと、傷を"治せない"。何故なら、奴の攻撃は外見より中身を破壊する攻撃だからだ。
ちっ…と舌打をし、ランドはキングゴブリンの方へ走る。
キングゴブリンの腕が、ランドの体の横をカスって行く。
ランドは右手を下に、左手を上に構えキングゴブリンに向かって行く。
もちろん。名前は忘れない。
「えっと…何か切られた後は、狼に食いちぎられるようになっちゃうよ斬!」
と右手と左手を合わせる感じにキングゴブリンの体に爪を入れる。
ザクッと鈍い音が聞こえキングゴブリンは体のお腹らへんが食いちぎられたかの様になり前に倒れた。
ランドはそのまま、キングゴブリンの下敷きになってしまった。
「はい…ランド!来なさい!食べるのを辞めて、こっちに来なさい!」と母が叫ぶ。
すると、キングゴブリンの体が持ち上がった。
下からランドが持ち上げたようだ。
そして、キングゴブリンを後ろへ投げた。
何故か、キングゴブリンは首から下にかけて肉が無くなっていたが…。
ランドは呼ばれて母の元へ駆け寄る。
プリムも母の元へと駆け寄ってきていた。
ランドはとりあえず、獣人化を解いた。
母が口を開く。
「ランド…1つ言っても良いかな…。あのさ、センスが悪い!何よ!あの爪を研いで無いけど良く切れますって!通信販売のおっさんじゃ無いんだから!」と怒っている。
ランドは口をモゴモゴしていた。多分、キングゴブリンの肉が噛みきれないのであろう。
「プリムちゃんはどう思った?」と母はプリムに聞いた。
「あっ…センス0ですね。むしろ、マイナスですけどね」とプリムは言う。
「そう!敵も長くてカッコ悪い名前の技に殺られてショックよね。ここまでセンスが無かったとは…育て方間違えたかしら」
まるで、中世版オ〇ギとピ〇コ張りに毒舌を吐く2人。
「これから、家で作戦会議よ!お題は、ランドの必殺技の名前を決める!よ」とランドの方へ指を指した。
しかし、その場にランドは居なかった。
母は、キングゴブリンの方へ目を向けた。
キングゴブリンのデカイ体に頭を突っ込み獲物をむさぼる獣…いやランドがいた。
「はぁー。」と母は、ため息をついた。
しかし、それとは裏腹にプリムの顔は青くなっていた。
そして、母に訪ねる。
「あの…生でゴブリンの肉を食べる人。初めて見ました。お腹、壊さないんですか?」と聞く。
「あれ?プリムちゃん、初めて見るの?あの子狼時代が長かったせいか、獲物を捕ったらその場で食べちゃうのよね。たまに、私にもくれるんだけど…流石に気持ちだけ貰ってるわ」と笑って答えた。
「ほらっ!プリムちゃんが軽くドン引きしてるから、その辺にして家にいくわよっ!」とランドに呼び掛けた。
ランドはキングゴブリンの体から頭をあげた。口には腸を加えて立ち上がる。既に、全身血まみれであった。
ランドは頷くと、腸を蕎麦のようにズルズルズルと食べてから家に向かって歩いて行く。
プリムは若干吐き気を覚えた。
綺麗な草原の一部は赤く染まり、食い荒らされたゴブリンの死体が2体転がっている。
プリムはため息をついた。そして呟く。
「私…間違ったかな…。」