第1章:爪と私
センス無いなぁー。本当に…。
第1章
「必殺技よ!」とプリムは叫び机をドンと叩いた。
ここは、いつものBAR。最近、ランドはこのBARにほぼ毎日通っていた。
ご飯を食べたりする理由もあるし、レモンスカッシュを飲んだりする理由もある。
でも、一番はプリムに会いに行くためだ。
と言っても、母親の他に話相手が居ない…と言う理由だが…。
ランドはまだ、"恋愛"とかの感情が薄かった。自分でも、あまり意識はしていなかった。
時は少し戻り…
今日は久々によく寝た。
隣のベッドを見るが、ソルとルルの姿は無い。
1ヶ月前に、遠い国アクアランドのポートタウンって言う所に出稼ぎに行ってしまっていた。
ランドは目を擦りながら、台所に行こうとすると足元をネズミが2匹通り過ぎていった。
ランドは素足でネズミを踏みつけた。ネズミは悲鳴をあげて倒れた。
もう1匹のネズミは、慌てて逃げて部屋の片隅にあった穴に逃げ込んだ。
ランドは、倒れたネズミを掴みそのまま口に運ぶ。
ランドは狼に育てられていたせいか、下等動物=獲物くらいしか思ってないなかった。
ランドは口をモグモグしながら台所に行く。
台所には母親のルナが、夕食の準備をしていた。
ランドはルナに声をかけてまたBARに行くと言って外に出ようとしていた。
ルナはランドに言う。
「まぁた、プリムちゃんに会いに行くのね?まったくアツイアツイ!」と冷やかす。
ランドは思った。
今日は少し肌寒い…それなのに、ルナ母さんは暑いって言った…もしかして!!とランドはルナの所へ駆け寄った。
「ちょ…ルナ母さん!何処か具合が悪いの?」と慌てて聞いた。
「ちょっと…ランド。何を言っているの?私は全然元気よ」そう言って腕をポンっと叩いた。
「だって…今、暑いって言わなかった?熱があるのかなって…」とランドは心配そうに見ている。
「あははっ!違うよランド。アツイってそう言う意味じゃ無いわよ。もう…ネズミばっかり食べてないで、少しは人間の言葉の意味を少しは勉強なさい!」とランドに答えた。
「ネズミばっかって…たまには、山に行ってウサギとか狐とかゴブリンとか捕って食べてるよ!」
と言った。
「もう…馬鹿ね。そう言う意味じゃ無いわよ。もっと、話の本質を知りなさいって事よ!そんなんじゃ、プリムちゃんに嫌われちゃうかもよ?」とルナはランドに言った。
「プリムは俺の事が嫌いなの?」と逆にルナに聞き返した。
「違うって…だから、そう言う意味じゃ無いからっ!」とランドに言う。
「俺の事を、プリムは嫌いになんかならないと思う。だって…花をあげたから。家族は家族を嫌いになんかならない…そうでしょ?」とランドは聞いた。
「あーもー!だから、そう言う意味じゃ無いんだって!もーいいから、早くプリムちゃんの所に行きなっ!まったく…」
今度、人間の辞書を調べてみよう。とランドは思い、町のBARに向かう事にした。
いつもと同じ朝、いつもと同じ町並み…
町の人がランドを見て会釈をしてくる。
ランドは軽く答え、いつもと同じBARのドアを開けた。
ドアを開けると、いつもと違う場所にプリムは座っていた。
ランドは不思議に思い、とりあえずレモンスカッシュを頼みプリムが座っているテーブルを目指した。
テーブルの席に座るや否やプリムは叫ぶ。
「必殺技よ!」と…
ランドは、意味が分からなかった。やがて、レモンスカッシュが運ばれてきた。ランドは、飲み物を受け取りプリムに聞いてみた。
「必殺技?」とただ一言。
「そう!必殺技よ!ほらっ、例の切り裂き事件とか熊南瓜事件とか!なんか必殺技的な物を1個も出さなかったじゃん?やっぱり、何か必殺技を考えた方が良いんじゃないの?」とプリムは言う。
「必殺技?」と再度プリムに聞いた。
「あーもー!ほらっ!切り裂き事件の時に、『可哀想に…死んでる事に気付かないなんて…』って言ってたでしょ?」とランドの真似であろうか…あまり似ていないけど。
「あれで必殺技見たいのを言ってたらもっと良かったと思うのよ…。」
何のダメ出しなのかが、分からない。
「とにかく!ほらっ!何とかパンチとか何とかビームとか、言いながら何か出すのよ!!」
「つまりは、何か攻撃をするときに名前を叫んで攻撃をしろ…と?」
「そうよっ!何か言わないと、面白く無いじゃん!」
とプリムは力説をした。
ランドは考えた。別に面白おかしく戦っているつもりは無いのだが…。
「じゃあ…素早く切り刻み斬りってのは?」
「却下!」
「うーん…爪々刻み!」
「却下!!」
「爪と私」
「却下よ!!!」
プリムの機嫌が悪くなってきた。ヤバイ…とランドは思い手当たり次第に思い付く名前を言う。
「切っちゃうよ斬り!」
「却下」
「爪…昨日研いだから、今日は良く切れるよ?」
「毎日研ぐの?」
「ウルフパンチ」
「却下」
「猫騙し」
「騙してどうするの?」
「ウルフビーム」
「出ないでしょ?」
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ランドは疲れきっていた。もう、思い付くのは全て言ったが、全部却下されてしまった。
「もう!違うのよ!なんでそんなに才能無いの?」とプリムは激怒していた。
「別に技名を言わなくても、喰らった相手は死んじゃうじゃん。別に無くても良くない?」
とランドは言う。
「駄目!絶対に明日までに最低1つは技名を考えて来なさい!」
そう言うと、プリムはツカツカとドアを出ていった。
後を残され、ポカンとしているランドにマスターが近寄って来た。
「ランド…お前、本当にセンス無いなぁ〜。」と言い肩を叩いた。