勇者、仲間を知る
「お!勇者だ!皆、勇者達が来たぞ!」
外にいる人達は会社から出る俺達を見るなり歓声を浴びせた
何があったんだ?
「ありがとう!塔をクリアしてくれて!」
「私達の家が生まれ育った場所が帰ってきたわ!」
そこにいる人達は口々にそう言った
「そうでしたわ、塔をクリアしたらその塔は消滅してましたわ、ですから塔の周辺に生息していたモンスター達も消えたはずですわ」
「じゃあ、この人達はもともとその塔の付近で住んでいた人達か」
俺の今までの人生誉められたことなんてほとんど無かった
しかし、今回全然役に立てなかったがこんなにも多くの人達が俺達を感謝してくれていた
それだけで俺はこの仕事に誇りが持てそうだった
そして今見ているこの人達の笑顔を忘れない、そう誓った
その日の夜、俺は皆との約束した焼き肉を食べに行った
「おい!やっぱり肉は上手いな!あ、ビールじゃんじゃん持ってきてくれ!」
「ちょっと、楓!飲み過ぎですわ!はしたない、きちんとレディとしてこの様な公の場では淑女に振る舞われたらどうです?」
「オレは生まれてから今までその淑女に振る舞ったことなんて一度もねぇよ!オレは自分の生きたいように生きるだけだ」
「はぁー、楓に何を言ってもだめそうね」
「うん、楓はこの方がいい」
「お!イヴ!いい事言ってくれるな!」
「まあまあみんな給料入ったからどんどん食べてくれよ!」
俺達は焼き肉をどんどん食べた
「でも、意外だな、マリアが来てくれるなんて思わなかったよ、この焼き肉屋はマリアの口には安すぎると思ったからさ」
「そうですか?殿方の好意は素直に受けとるものですわ」
「でも、来て良かったですわ、今まで一人で食べるのが当たり前でしたが皆で食べるご飯がこんなにも美味しくて楽しいなんてしりませんでしたわ…」
いつもとは違った優しい微笑みをマリアは見せた
ドキッとした、本当にマリアも誘って良かったな
「喜んでくれて良かったよ」
「はい、またご一緒したいですわ」
マリアの事が何だか少し分かった様な気がした
「イヴもたくさん食べなよ、あっ口元が汚れてるぞ」
そう言って俺はイヴの口元をおしぼりで拭いた
「ひかるは家でもイヴの面倒みてイヴのお母さんみたいだな」
と楓が笑って言っていた
「そういえばイヴ、あの時見せたあの力は何だったんだ?髪の色も目の色も変わったけど?そもそも何のハーフなんだ?」
「そうでしたわね、確かハーフは半分はモンスターの力があるから人間離れした力が備わっているのですわ、だからそのモンスターによってハーフの力は大きく左右されますわ」
「そうなんだ、じゃあイヴのあの以上なまでの強さは半分のモンスターの力が強かったからなのか」
皆の目線がイヴに集まった
そしてイヴは答えた
しかしそれはあまりにも自分達の耳を疑ってしまうものだった
「イヴは魔王のハーフなの」
「え?」
俺達三人は息ぴったりに言った
「魔王ってあの魔王の事?あのゲームとかのラスボス的なあの魔王?」
俺の質問にイヴは頷いた
「こいつはおもしれぇ、魔王の娘かなら強いのも納得だぜ、これは一つ闘ってみてぇな」
いやいや、戦闘おバカさんそんな事言ってる場合じゃないだろ?
「おーほっほっほー、やはりわたくしのパーティーだけあってそこら辺の普通のパーティーとは格が違いますわ!」
いやいや、違い過ぎるだろ!
勇者の冒険に魔王の力を持ってる仲間をパーティーに入れてるなんてほとんど反則みたいなもんだろ!
その言葉に動揺している俺にイヴは心配そうに
「魔王のハーフなイヴは嫌い?」
と悲しそうな顔で聞いてきた
俺の不安を見抜かれているようだった
でも、俺は何に不安を感じているんだ?
イヴは俺の仲間だ、いつだってイヴは俺を助けてくれたじゃないか
例え魔王の娘でも関係ない、イヴは大切な仲間だ
弱い自分、不安になった自分が恥ずかしかった
そして俺は笑顔で言った
「そんな事無いよ、イヴは俺の大切な仲間さ」
イヴはそれを聞いて涙を浮かべた
そして俺に抱きついて泣いていた
俺はバカだな、イヴはこんなにも不安だったのに魔王と聞いただけでびびって
情けねぇな…
抱きついて泣いているイヴの頭をしばらく撫でていた
少し時間が経つとイヴも落ちついていた
「そういえばあるどこかのお偉い推測者の人が塔を作ったのは魔王だって言ってたけどその辺どうなんだ?」
そう楓が聞いた
「イヴはわからない、イヴは魔王のハーフだけど魔王と会った事も無い、この世界で生まれた時には魔王のハーフだと言う事だけ知っていてこの世界に生まれただけだから」
イヴはあまり自分自身の事を知らない様だった
しかし、俺は少しイヴの事が知れて良かったかなって密かに思った
「その事は私が説明しよう!」
突然、空から声が聞こえた
「誰だ!」
いきなりの事に楓が警戒して銃を抜いた
おいおい、こんな焼き肉屋で問題起こすなよ
俺は楓の行動の方がひやひやしていた
「お嬢ちゃん、別に警戒しなくていいよ、別に危害を加える訳じゃないから、ただ娘と少し話をしてみようかと思っただけよ」
「えっと?誰のお父さんですか?空から声が聞こえているですが?」
俺は空に向かって聞いてみた
「私はそこにいるイヴの父だ!」
「と、いいますところ、まっ、まさか!?あの有名な魔王ですか!?」
突然の魔王の声に思わず敬語になった
「そうだ、私が魔の王!魔王である!」
えーーーー!どうしよう、ほとんど駆け出し勇者なのに魔王編突入なの?危害は加え無いって言ってたけど勇者に魔王がそんな事言う?
闘いになったらどうしよう?
俺、村人その1ぐらいの一般人ぐらいの力しか無くて唯一ゲージしか見えないけど大丈夫ですか?
俺は思いもよらない展開にただ呆然としていた