(2-3)
「ええの? 同窓会そないなもんで」
紅葉が、母校の校門から出て来た俺にそう言った。俺は「あぁ」と頷き、彼女と共に歩きはじめる。なぜか心配そうな面持ちの紅葉。彼女は俺の顔を覗き込んではこう言う。
「だってそのためにわざわざ来たんやろ? もうちょい顔だしてきたらどうなん」
俺は彼女の言葉に、首を振った。
「いいよ。結局仲よかったやつもあんまり来てなかったしな」
「そうなん?」
どこか訝しげな顔をする紅葉に、俺は頷く。そして母校に振り向いた。
俺は先ほど、その母校の同窓会の会場に入ることはなく、名簿に印だけを付け、外に待たせていた紅葉のもとへ帰って来た。最初は一応形だけでも仲がよかったやつと会おうと思い、紅葉に少し待たせてしまうことを詫びたのだが、紅葉は「待つことは慣れてもうてるから」と笑って、校内に入る俺を見送ってくれた。
けど仲のいいやつは名簿であまり来ていないというのも分かり、結局俺は同窓会には一切顔を出さずに帰って来た。だが出席の予約はしていたため、ちゃんと名簿のチェックはしてきたのである。もちろん、紅葉は「えっ! もう帰って来たん?」と驚いたが、俺は迷わず校門から出てきた。
紅葉は、どうやら俺以外には見えないようだ。母校の高校に歩いて行くにつれ人の数がだんだん多くなっていったのだが、皆彼女には気づかず、中には紅葉と正面衝突…衝突はしなかったのだが、正面から彼女をすり抜けて歩いて行った人もいた。一人も、彼女が歩んでくることを認識して避けようとした人はおらず、むしろ俺が一人で話しているように見えたのか、怪訝そうな目を向けてくる人の方が多かった。皆、俺に目を向けていて、紅葉をすり抜けてゆく。
紅葉に待ってもらったのは、ほんの五分ほどだった。確かに俺は同窓会のために来たのだが、それも紅葉が隣にいるのであれば、どうでもいい。彼女の家にも行くつもりでもあったのだが、彼女が隣にいるがゆえに、やめざるをえなかった。
紅葉が四年半も行方不明で帰って来ず悲しんでいる彼女の家族の前で、同じように悲しむことができる自信がない。…だって、生きていないとしても、彼女が見えて会話が出来てしまっている。そのうえ彼女が亡くなっていることも、その原因さえも知ってしまったのだ。気まずいどころではない。
だからもう、今日は…紅葉と一緒に過ごそうと思っていた。四年半ぶりの再会だ。亡くなってはいるけれど、でも、俺と紅葉は再開した。そして共に歩き、言葉を交わしている。それがどんなに喜ばしいことか、自分にも計り知れないくらいだ。半ば実感もなく、まるで夢をみているようでもあるが。
―――でも、たとえこれが夢の中でも、現実になくとも。そして俺と紅葉が異世界に存在している人物で、触れることさえ出来なくたって。
俺は、彼女と一緒に過ごす。何がどうであっても、俺はそうする。当たり前のことだった。
「これから…どこ行くん?」
紅葉がそう、微笑んで問うてくる。だいぶ空が明るくなり、彼女の笑顔も以前のものと変わらなかった。
俺は彼女に微笑み返す。明るい笑顔を浮かべて。
「一緒に、二人で思い出のある場所に行こう」
すると紅葉は陽の光が射しこんだような、いっそう明るい笑みを浮かべる。吊った瞳を大きくキラキラさせ、とても、とても嬉しそうに。俺が付き合うことを承諾して彼女に告げたときと、まったく同じ笑顔だった。おそらく触れることができたなら、今も飛びついて来たに違いない。
紅葉はその満面の笑顔のまま、思い切り頷いた。
「―――うん、行こっ! いっしょに!」
読んでいただきありがとうございますm(__)m
一章よりも短いですか、二章はこれでおしまいです。
次からは三章目にうつります(/・ω・)/
紅葉とこのまま幸せ過ごす―――そんな空気ではありますが、
果たしてそんなこと、できるのでしょうか?