(1‐1)
―――「なんやぁコウちゃん、うちが見えへんの?」
目の前の紅葉はそう言った。俺はただ口を開けたまま、その彼女を茫然と見つめる。一瞬その大阪弁を、「私が見えないの?」という意味で捉えかけるが、長年共にいたことで、その意味は「私が見えるの?」という意味に訳されることを頭で咄嗟に理解した。そう、彼女は自分が見えるのかと、そう問うてきたのだ。
それに対して口をぽっかり開いたままの俺の様子に、「…もうっ」と紅葉は腹立たしく焦れたように言う。それからさらに近づいて来ては、細い腰に手を当てて俺を見上げる体制になり、さらに大きくハッキリとした声で、
「せやから、うちが見えとんのかて聞いてんねや! どうなん?」
俺はその声に、やっとのことで頷いた。でもそれは、まるで上の空といった、いかにもそんな頷き方だった。あまりの衝撃過ぎて、正気を保つのに必死だったからだ。
こんな様子の俺に見えていないはずなどないと分かっていただろうに、紅葉はやっと答えを得られたというような満足げな笑みを浮かべ、
「そうなん」
と頷いた。そして手ぶらの彼女は雪の降り積もるガードレールの上に、夏服の半そでセーラー姿でひょいっと座った。でも紅葉には凍えるような様子も、雪が制服に染みるということに考慮している様子も全くない。透き通るように白い肌は血の気がよく、真っ黒なセミロングにも艶があった。彼女だけが映されると、まるで真夏のよう。俺のダッフルコートが、それの異様さをさらに立たせているようだった。
「そ、それで…」
俺が喉から声を押し出すように呟くと、彼女は座って足が地面から離れている体制のまま首を傾げ、「なに?」と言った。俺は冷たい息を吸い込んでから、ゆっくり口を開く。分かってはいる。分かってはいるけれど、俺は改めて彼女に問うた。
「その……紅葉…だよな? …お前は」
するとそれまで足をブラブラさせていた彼女は、ガードレールからふわっと地面に降り立ち、再び俺に歩んで来ては目の前に近づく。そして、
「せやでコウちゃん、当たりや」
にっこりと、俺の高校時代の恋人、紅葉は微笑んだ。
読んでくださりありがとうございますm(__)m
再会した「俺」と「紅葉」の物語が始まりました(/・ω・)/
残酷な描写があると表記しておりますが、
グロテスクな表現はしておりませんので安心してお読みくださいませ('◇')ゞ