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パン屋の仕事2

 歩いて十分ほどの道のりの中、学校が見えてきたところで後ろから声をかけられた。

「おはよう、トモ」

 自分のあだ名を呼ばれ振り返ると、友人の千佳ちかちゃんが居た。

「おはよう、千佳ちゃん」

 これも毎朝変わらぬ光景だ。クラスも一緒なので登校から下駄箱、教室まで喋りながらホームルームを待った。

 

 午前中の授業が終わり昼休み。ごそごそとバッグからサンドイッチを取り出すと千佳ちゃんがお弁当箱を抱えてやってきた。

「お昼食べよー」

 これもいつもの光景。机を並べて昼食を広げる。

「毎日サンドイッチだけで足りるの?」

「うん。それに今日はボリュームがあるよ」

 サンドイッチは四つ。それぞれ【ハム】【ポテトサラダ】【タマゴ】【カツ】だ。

 それだけあれば小食の私には十分な量だった。

「そういえば、ゲームはどう?」

 ミートボールを食べながら千佳ちゃんが、私が最近ハマっているゲームについての話題を出してきた。

「面白いよ。お店も開店出来たし、ちょっとずつだけど人気も出てきたし」

 小さいころからパン屋の娘として育ってきた私は、自分も将来はパン屋を継ぐことも決めていた。パン作りの腕を磨くためや、新開発のパンを作るのに家の工房を借りる事は出来ない。そこで、自由度の高いと言われているゲーム。体感型VRMMOのプログルブオンライン。そこで自分の店を開店したのだ。

 パン屋トモエベーカリー。

 飲食店を開店するには、それなりの料理スキルが必要だったり、開店資金や場所などの問題は相談出来たので、当初自分が考えていたより数倍早くお店を開くことができた。

「千佳ちゃんもプログルブオンラインやらない? 今ならウチはアルバイト募集中だよ?」

「間に合ってます。私はバスケ一筋なの」

 千佳ちゃんはバスケットボール部のレギュラーで、誰よりも努力をしている彼女にとって、ゲームをしている時間は殆ど存在しない。

 そんな会話をしながらお昼ごはんを食べ、午後の授業も乗り越えて放課後を迎えた。


「じゃーねー」

「部活がんばれよー」

 千佳ちゃんと別れて、帰宅部の私はまっすぐ家に帰る。

 生徒たちの帰る流れに乗りながら、十分の道のりを歩く。朝と同じように家の裏口から入り、自室へ向かう。

 制服をハンガーにかけ、私服に着替えてから一階の売り場に顔を出す。

「ただいま。何か手伝うことある?」

 レジに立っているお母さんに聞く。

「おかえり。今日は大丈夫そう」

 トレーやトングの片付けや補充。品出し等を手伝ったりしているが、大丈夫らしい。なので、自室に戻ってプログルブオンラインの世界に向かう事にする。


 目の前に光が生まれ、自分の店てあるトモエベーカリーにやってきた。

 トモエベーカリーは私の学業などの都合から、不定期開店になりがちだ。夕方からパンの仕込みを始めて夜に売る。しかも私一人なので数量に限界があるのが申し訳なく思っている。


「今はこれくらいしかできないけど、出来る事を頑張るしかないよね」

 そう自分に言って作業に取り掛かる。

 基本は【食パン】【クロワッサン】【ベーグル】【アンパン】に絞り、材料も試作品を作るとき以外は買わないようにしていた。

 下ごしらえから始まって、食パン、アンパンと作りクロワッサンとベーグルも作る。

 二時間もあれば、後は焼き上がりを待つのみ。

 工房で休憩がてら椅子に座ってホットミルクを飲む。

(新しいパン、どういうのが良いかな)

 暇があれば新作のパンを考える。これは趣味として馴染んでいるものだ。色々と試したがイマイチ美味しいと言えるものは出来なかった。新しいものを考えるより、材料や製法を変えるだけで随分と違うことも解ってきた。

 そういう事も踏まえて色々考えていると、オーブンのブザーが鳴った。

 扉を開けると、甘い香りが立ち込めて自然と笑顔になる。

 パンを其々のトレーに乗せて、売り場に並べて、掲示板にトモエベーカリーの開店を知らせる。


 するとすぐにお店の扉が開いた。

「やった。一番乗り!」

 女性がやって来てクロワッサンを買っていった。その後もやって来る人は、パンが残っている事を喜びながら買っていく。

 いろいろな人が来て、ベーグルが最後の一個で残ったところで、私にとって恩人とも呼べる人がやってきた。


「こんにちは。パンまだ残ってますか?」

「こんにちはマナさん。ベーグルで良ければ一個だけありますよ」

 マナさんはベーグルを一つ買って微笑む。

「順調みたいですね。噂になってますよ。美味しいパン屋さんがあるって」

「そんな噂が出てるんですか。私の腕なんてまだまだですよ」

 実際は嬉しかったが、此処で自惚うぬぼれる事はできない。それで難しい顔を作っていたら、マナさんが優しく私に言う。

「大丈夫ですよ。皆さんは美味しいから美味しいと評価しているんです。私も巴さんのパンのファンのですよ」


 美味しいと言ってくれている人がいるのに、それを自らが否定してしまうのは良くない事だと教えてくれたのだろう。

 素直に感謝しても良いのかと考えを改める。

「もう少しだけ自信を持っても良いんですかね?」

「巴さんは、五割増しで自信を持っても大丈夫ですよ」

 そんなのほほんとした会話をいつまでもしながら、私のパン屋での仕事は始まったばかりだ。


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