ハロウィン
「今年はどうする?」
「去年はサキュバスだったけ」
そんな話がちらほら聞こえ出す十月。誰もが浮かれるイベント、ハロウィンが迫っていた。
現実世界でコスプレをして楽しむ者。プログルブオンライン内でのアクセサリーの変更で、様々な恰好になって楽しむ者。
それぞれの世界であっても楽しみ方は一緒だった。
彼女たちは、現実の方のハロウィンは人が多すぎて苦手だが、仮装という名のコスプレは楽しみたいので、プログルブオンラインの中ではしゃぐ事を選んでいた。
そして、彼女たちの目下の悩みは今年の衣装はどうするか? であった。本来のハロウィンであれば、お化けの恰好をするのが普通なのだろうが、現在ではお化け以外の衣装で仮装をするのが流行りだ。
「販売される衣装って去年と同じっちゃ同じなのよね」
「まぁ、季節限定の復刻版だからね。どうしてもって言うなら、作る?」
自由度の高さが売りのプログルブオンライン。当然、衣装も自分の思い通りに作る事が出来る。だがセンスや器用さは自分のものなので、きちんとした衣装が出来るかは自分の力量次第となる。
「簡単な小物なら出来るかもしれないけど、服系は難しいね」
「服は買って、小物は作るって人は多いみたいだけど」
「なんのコスプレかによるわね」
二人は唸りながら考える。しばし無言になっていたが、諦めた様にため息を吐く。
「一回休憩! なんか食べよう」
喫茶店で考え事をする人たちの大半は、行き詰ったりすると料理やスイーツを食べてリフレッシュを図る事が多い。
メニューを見ると、ハロウィン仕様でカボチャ料理が多く並んでいた。
「カボチャサラダ、カボチャグラタン、あっ、カボチャコロッケ美味しそう」
「コロッケかぁ、別にいいよ」
コロッケだけでは寂しいからと、サラダも注文する。料理が来るまでの間、会話を楽しむことにする。
注文を受けたマナは、コロッケ作りに取り掛かる。
蒸したカボチャを潰し、炒めたひき肉とみじん切りにして炒めたタマネギを混ぜる。そしてそれを四つの小判型に形成して、小麦粉・卵・パン粉の順に付け揚げる。
五分ほどで衣がきつね色に仕上がったので、油を切り皿に乗せる。
「お待たせしました。カボチャコロッケとサラダです」
「「ありがとうございます」」
テーブルに置かれたコロッケ。それを一人はソースをかけて、もう一人はソースをかけずに箸で半分に切る。
サクッと軽い音とともに中の黄色が見え、ジャガイモとは違う甘味の強い香りが立つ。それを食べると、ほっこりとした舌触りと揚げたての熱さがやって来る。
ソースをかけた方は、カボチャの甘味にソースのしょっぱさとスパイシーさが加わり、美味しさが深まる。
コロッケのおかげか、頭も口も回るようになって、ハロウィンのアイディアが形になってゆく。
「じゃあ、魔女の恰好でいいね」
「うん、原点回帰で行こう。セクシーはなるべく抑えて可愛い系で」
おとぎ話に出てくるような怖い魔女や、コスプレ感を強調したセクシー路線でもなく、魔女っ娘のような可愛い魔女に決まった。
そして、ハロウィン当日。この日で一番盛り上がる深夜がやってきた。
良い子はログアウトし、大人は色々な飲食店に集まって騒いでいる。
喫茶店やすらぎも、ハロウィン仕様で照明はほの暗く、カウンターやテーブルにカボチャをくり抜いたジャック・オー・ランタンが飾られていた。
その店内の雰囲気に合わせるように、マナもコスプレをしていた。彼女の恰好は、ゴシックドレス。全体は黒を基調に赤も入っており、スカートは料理を作るのに邪魔にならない程度のフワフワで、黒いヘッドドレスも付けていた。そして、遊び心で顔には傷メイクも施してあった。
「マナちゃんのコスプレ可愛いね」
カウンターの黒猫がマナを褒める。
「ふふふ、そうですか? 初めてこの衣装を着てみたんですが、似合っているようなら良かったです。黒猫さんも可愛くて素敵ですよ」
女性同士の素直なトークの一方で、男性吸血鬼たちはゲーム内でのナンパをもくろんでいた。
彼女のいない彼らにとって、せめてゲームの中でくらい充実したハロウィンを目指していたのだが、全く知らない異性に軽々しく声をかけられる猛者は存在しなかった。
「俺たちがナンパなんて無理なんだよ。解りきってたことだったな」
「向こうに女の子のグループがあるけど、あれは完全にリア充だ」
頭を振る彼らを横目に、ハロウィンなど関係が無いと言わんばかりの大人連中は、いつも通りの晩酌を楽しんでいた。
「現実の方じゃ、どこ歩いても騒がしいからな。こっちの方が秩序があるよ」
「今年もニュースの特番で色々言ってたな。秋の収穫祭が起源だとか、悪霊の恰好しなきゃいけないとか何とか」
「若いやつのストレス発散だよ。日頃の鬱憤を晴らすイベントは必要さ」
普段は出てこない料理を堪能しながら、いつも通りの時間を過ごしている。
色々な人たちが仮装をしたりしていなかったり。様々な楽しみ方でお化けの夜を過ごしていた。
最後まで読んでいただき、有り難うございます。
色々な事情が重なり、次話は8月の中旬ごろになると思います。申し訳ないです。




