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夏の日いろいろ

 季節は夏。現実世界では毎日三十度を超える日が続いていた。人々は休日ともなれば外で活動することを諦め、快適な温度に保たれた室内で籠る事を選択していた。


「毎日暑いよな。いい加減飽きてきたぜ」

「お前それ、冬にも言ってたぞ。飽きないのか?」

 喫茶店やすらぎで会話をする彼らも、三日連続で夕方まで駄弁だべっていた。

 

 正午になり、何か食べようか。とメニューを眺めていると、ある料理が目に留まった。それは【冷やし中華】。夏になると色々な店で見かける季節限定の料理で、それはやすらぎにも該当していた。

(冷やし中華か、どうすっかな)

 冷やし中華にしたいが、彼にはどうしても気になる事があり注文を躊躇っていると、偶然マナが通りかかったので聞いてみる。

「あの、冷やし中華の【タレ】って酢醤油ですか? 胡麻ですか?」

「ウチは酢醤油ですよ」


 酢醤油だと聞き、少し考えてから冷やし中華を注文する。友人の方は焼肉定食を注文した。

「お前さ、冷やし中華のタレ聞いて少し考えてたけど、なんで?」

「ああ、俺酸っぱいのあんまり得意じゃないんだ。いつもは大体ゴマダレなんだよ」

 酢醤油が全く嫌いなわけでは無いが、出来ればゴマダレが良いという事らしく、その結果少し考えてからの注文に至ったのだった。

「なるほどな、俺も冷やし中華のキュウリって好きじゃないんだよなぁ」

 いろいろな具材が乗っているのが冷やし中華なのだから、嫌いなものが乗っていることもある。


 そして、運ばれてきた冷やし中華をみて、彼は嬉しそうに唸った。

 キュウリ、錦糸卵、もやし、チャーシュー、トマト。というシンプルな食材。下手にこだわった奇抜なものより、確実に酢醤油に合うチョイスが素晴らしい。

「じゃ、いただきます」

 皿のふちに乗っているカラシを混ぜる。

 麺だけ啜ってしまうと酸っぱさが際立ってしまうので、キュウリなどをバランスよく食べる。


 もやしのシャキシャキ、少し濃い味のチャーシュー。酸っぱさを抑える錦糸卵。

 冷やし中華を美味しく食べている男性に対し、カウンターのマナは厳しい表情だった。

(タレを選べるようにしましょうか。……それだったら具材も数種類用意して選べるように)

 と考えを巡らせていた。

 

 数日後、やすらぎの店先の看板には『冷やし中華:タレ(酢醤油・胡麻)具材複数から選べます』

と、書かれていた。

 

「マジで選べるようになってる」

「だろ? 掲示板に書かれてたんだよ。『喫茶店やすらぎの冷やし中華はタレとかトッピングとか選べるようになった』って」

 前回冷やし中華のタレの話をしていた彼らが、この情報を仕入れてもう一度訪れていた。席に着くと早速メニューを開く。

「酢醤油・胡麻・キュウリ・チャーシュー・錦糸卵・煮タマゴ・モヤシ・サラダ・トマト・スイカ・サクランボ。この中から好きに組み合わせられるのか」

「自分のオリジナルっていいよな」

 二人は、タレや具材を決めて注文する。

「冷やし中華、タレは酢醤油、チャーシュー二倍・もやし・煮タマゴ・スイカでお願いします」

「俺はゴマダレ・キュウリ・チャーシュー・煮タマゴ・トマトで」



 運ばれてきた冷やし中華を食べる。

「やっぱりゴマダレ美味いな」

「チャーシューも二倍にできるのがすごいな。食べ応えが違うわ」

 ズルズルと麺を啜り終え、一息ついきながら会話をしていた。

「そういや一昨日、加藤のやつが隣のクラスの前田に告白したんだとさ。まぁ断られたらしいが」

「成功してたら夏休みは楽しかったろうな」

 友人の色恋沙汰で盛り上がっていると、彼らのテーブルの空いている椅子に一人の男性プレイヤーがドカリと座った。

 二人とも知り合いではなく、いきなり座ってきた事に驚く。何かを考えるよりも早く、男性プレイヤーが口を開く。

「お前ら、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。別に振られたわけじゃねーよ。お友達からスタートしたっつーの!」

 そのセリフから、この目の前の男が誰なのか判明した。

「お前、加藤か!?」

「プログルブオンラインやってなかったよな。始めたのか?」

 例えゲームという、本当に友人かどうか判断が難しい場面だとしても、話している内容も固有名詞も当てはまり、尚且つ自分の色恋を話しているともなれば割って入りたくもなる。


 二人は、今まで話題に出ていた本人だと知り動揺を隠せなかったが、彼は一切動じなかった。

「そんな事はどうでもいいんだよ。もう一回言うぞ。俺は振られていない」

 思わぬ本人登場にたじろいだが、そこは友人関係。さっさと和解し本人から直接話を聞くことにする。

「んで? お友達ってどのくらいのお友達よ?」

「普通だよ普通」

「告白しといて普通は無いだろ。進展すれば恋人なんだから」

「デートの予定は? プランくらいあるだろ?」

「三日前でデートの約束なんてできるかよ」

「お前、夏休み終わるぞ」


 三人の男子の会話は終わらない。

「え? このゲームやってるの!?」

「らしいんだよ。だから俺も慌ててプレイ始めたんだ。共通の会話になるかもって思ってさ」

「あった事ねーな。ウチの学校の掲示板とかもあるから、そこで自己紹介とかしてるかも」

 と、そこに三人以外の声が加わる。

「その方はプログルブオンラインで遊んでるんですよね? なら、今度のイベントに参加するんじゃないですか?」

 その声は、カウンター越しに話しを聞いていたらしいマナだった。

「どんなイベントだったけ? 」

「特殊イベントで、レアアイテムは出ない代わりに、ラコ海岸の一般開放前の海開きの招待状がもらえる。みたいな感じだったと思う」


 ラコ海岸は、毎年海水浴場に指定されているのだが、一般開放すると人数が多すぎてエラーを起こす危険や、不具合がある場合もある。そのため、少ない人数で実験的に海水浴をしてもらおうとイベントの上位者に招待状を渡すのである。


「デートに誘えれば嬉しいけど、俺ゲーム始めて三日目だからレベルも装備も、イベントはこなせないぞ」

「レベルなんて、今から明日の朝までクエストこなせばどうとでもなるさ。俺たちが付き合ってやるから心配すんな」

「装備だって、いざとなれば俺のをやるよ」

 友人たちの言葉に嬉しそうに笑い、席を立つ。

(上手くいくと良いですね)

 マナは、少年の恋が上手くいくことをねがった。しかしその一方で、必ず上手くいくことも解っていた。


 時間は少し遡って二日前。

「なるほど。お友達ですか」

 深夜、喫茶店やすらぎのカウンターに少女が一人で座り、マナに相談していた。

「そうなんです。私も告白されて嬉しかったんですが、一回も同じクラスになった事も無いし、選択授業で多少話す程度だったんです。だから、お友達からお願いします。と」

 それは少し戸惑いが見えつつも、嬉しさが滲んでいた。

「もう少し仲良くなってから、お付き合いされるんですか」

「私が愛想をつかされなければ。ですが」

「そんなことないですよ。相手の事を知ってからお付き合いをされることは素敵な事ですよ」

「そうですかねぇ。加藤君がプログルブオンラインやってるか聞いておけば良かった。そうすれば今度のイベント誘えたのにな」

「二人専用のイベントですもんね。デートにはもってこいですよね」

 デートと言う言葉に顔を赤らめる少女。

「か、からかわないでくださいよ」

 という事があった。マナはそれを知っていたからこそ、確信をもってイベントをすすめていたのだった。

 後日、仲良くイベントに参加する二人の姿が目撃された。


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