年越し女子会2
その間にマナは様々な料理を作り始めた。
まずは、下ごしらえが終わっているフライを揚げる。エビを油に落とすと、油の弾ける良い音が響く。尻尾はだんだんと赤く、衣はきつね色に変わっていった。
同様に白身魚も肉も揚げる。
「ねぇマナちゃん、味見役は募集してない?」
「してませんよー」
酒のつまみを求めた叶をやんわりとかわし、料理をつづける。ジャガイモを千切りにして、水にさらしてから油で揚げ【フライドポテト】にする。
続けて冷蔵庫から、トマトとモッツァレラチーズを取りだし、手早く【カプレーゼ】を作った。
オーブンもキッシュの焼き上がりを知らせるブザーが鳴る。
幸いにして、叶が飲み過ぎないうちに、残りの六人は十八時より少し前に現れた。
「「やっほー、マナちゃん」」
双子の女性プレイヤーである、【朝姫】と【夜姫】。
「今日はお誘いいただきありがとうございます」
「お邪魔します」
以前、自分たちの家を建てるために喫茶店やすらぎで会議を繰り返していた四人組のうちの女性陣二人、【ふぉにあ】と【ミュー】。
「こんばんは」
「こんばんは。良い匂いですね」
最近二人でやって来ては、楽しそうに女子会をしている【レイア】と【ある乃】。
全員が常連で、お互いが顔見知り。なので自己紹介のようなものは無く、さっさと年越し女子会が始まった。
「今年の嫌な事は全て忘れて飲み明かしましょう! 乾杯!!」
マナの音頭に合わせるように七人はグラスを上に掲げる。
「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」
今日は立食形式なので、全員が立ったままグラスを傾ける。
グラスを空にして、テーブルの料理に目を移す。
朝姫とふぉにあはキッシュを取る。一ピースづつにカットされたそれに、フォークを入れる。タルトのサクッとした手ごたえを感じながら口へ運ぶ。
生クリームとチーズが持つ乳製品の風味、ホウレンソウの仄かな香り。ベーコンを噛めば肉から脂がじわりと出てくる。そしてタルトの少し甘くて、サクサクとした食感が最高に美味しい。
「美味しぃ! クリィミーでしっとりしててサクサクしてる」
「キッシュってパイ生地のもあるけど、やっぱりタルトの方が私は好きだな」
朝姫とふぉにあが感想を言いながらキッシュを頬張る横では、夜姫とレイアがカプレーゼを皿に取っていた。
「カプレーゼってお店で頼むと高いのよねぇ」
「そうなんですか? やっぱり大人の女性ってフレンチに行くんですか」
女子大生である夜姫は、社会人の生態に興味があるようで、レイアに色々と聞いていた。
「付き合いで行ったりするけど、疲れるだけよ? 料理が二割、女子同士の不毛な見栄の張り合いが八割よ」
レイアはそう言ってカプレーゼを一口。
「チーズのもっちりと、トマトのサッパリ。これが魅力だわ」
「はぁあ、難しいんですね。美味しいものを美味しいって食べられないんだ」
そんな感想を述べて、夜姫もカプレーゼを食べた。
「タルタルソース、要る?」
「あ、はい。いただきます」
ある乃とミューはフライに手を付けていた。ある乃はエビフライでミューは白身魚だが、どちらにもタルタルソースは必要だった。
エビフライを食べると、衣のサクッとした歯触りの後に、しっかりとした弾力のあるエビが現れる。タルタルソースもマナのお手製だけあって、くど過ぎず酸っぱ過ぎず、フライを引き立て纏め上げていた。
「美味しいわぁ、一人じゃフライなんて作らないし、出来合いのは脂っこいし」
独り身の寂しさを実感しながらも、味覚まで完全に再現されているプログルブオンラインに感謝した。
一方の白身魚を食べるミューも感動を隠せなかった。
「衣はサクサクで、白身はフワフワ。タルタルソースが合う!」
淡白な白身魚にタルタルソースのコクが絶妙にマッチしている。
皆がワイワイと食べて飲んでをしている姿を見ているのは叶とマナの二人。
「どうですか、楽しんでます?」
「そりゃぁもう楽しいわよ。一人より八人の方が楽しいに決まってるわ」
フライドポテトを一本口にくわえる。
八人は、それぞれ食事を楽しみつつ会話をする。会話の内容は、学業・仕事・恋愛にと色々な話題が上がっては消えていく。
女子会も五時間を過ぎた二十三時。一通りの盛り上がりを過ぎた彼女たちは、すっかり落ち着いていた。
「そろそろですかね。ちょっと待って下さいね」
マナはそう言って厨房に向かった。
暫くすると、出汁の良い香りが七人の鼻孔をくすぐり、丼を持ったマナが現れた。
「皆さん、年越し蕎麦ですよー」
七人の目の前に置かれた年越し蕎麦。
いただきます、と八人は手を合わせ蕎麦を啜る。しっかりとした蕎麦の味にカツオと昆布の出汁汁が合わさる。そして、少し乗っている柚子が爽やかさを持たせていた。
二十三時四十分。蕎麦を食べ終えた彼女たちは、新年を待っていた。
「そう言えば、プログルブオンラインの年越しって何かあるのかな」
その朝姫の質問に答えたのは叶だった。
「なんか、花火は上がるみたいよ?」
「じゃあ、皆で見に行きませんか?」
今度はミューが目を輝かせてそう言った。
別に断る理由も無く、良い思い出になるとも考えた一行は、やすらぎを出て近くの広場まで移動した。
二十三時五十分。すでに広場は多くのプレイヤーで埋め尽くされていた。
「年越しをゲームの中で過ごす人って以外に多いのね」
レイアが周りを見渡す。
それに対しある乃が、
「ゲームの中の方が周りに気を使わずに騒げるし、遠くの友達とも簡単に会えるもの」
と、この場の雰囲気を楽しむように微笑む。
二十三時五十九分。後一分で新しい年が始まる。後十秒、誰とは無しにカウントダウンが始まる。
五・四・三・二・一。
零になった瞬間、全員が叫ぶ。
あけましておめでとう、と。
同時に花火も打ち上がり、更に広場を盛り上げていた。
そこから五分ほどの騒ぎを経て、彼女たちはやすらぎに帰ってきた。
彼女たちは広場の騒ぎで少し疲れていたが、まだ誰もログアウトしようとしなかった。どうにも楽しい時間が終わる事が惜しかった。
「折角ですから、もう少し女子会しましょうか」
厨房から飲み物を持って現れたマナに、彼女たちは笑顔を持って答えたのだった。




