ステーキとウイスキー1
午後九時、夕食を食べ終えてから眠るまでのほんのひと時。しかし、小腹が空く時間でもある。
「マナさん、ステーキ三百グラム。ミディアムレアでガーリックソース」
「かしこまりました」
カウンター席から注文するのは、最近夜に来店するようになった女性プレイヤーの【レイア】だ。社会人である彼女は、仕事のストレスを解消するためにプログルブオンラインにログインし、日々を楽しんでいた。その中でも特に楽しんでいたのは、喫茶店やすらぎでの食事だった。
食べても太らないゲームの世界。しかも、この喫茶店で出される料理はどれも美味しく、店長は愛想よく話を聞いてくれた。
そんな世界に魅入られて、ここ数日は毎日ログインしていた。
ステーキの注文を受けたマナは、冷蔵庫からサーロインのブロックを取り出し、三百グラムに切り分ける。包丁の切っ先で肉を刺し筋を切る。そしてそれに、岩塩とブラックペッパーを挽き振りかける。挽きたてのペッパーが放つ辛みの有る香りがレイアの鼻孔をくすぐる。
フライパンに牛脂を乗せる。植物性の油より動物性の油の方が相性が良い。
十分に牛脂が溶けてきたところでサーロインを入れる。ジューッと派手な音を立てて脂が跳ねる。そのまま弄らず触らずじっと待つ。
一分が経ち、良い焼き色になったところでひっくり返す。現れたのは、肉が焼けた時の濃い茶色の焼き目。そこから更に一分三十秒待ち、鉄板に乗せる。鉄板にはコーンとニンジンも乗っており彩も完璧だ。
「お待たせしました。ステーキです。鉄板は熱いですから気を付けてください」
「ありがとうございます」
レイアは、早速ナイフとフォークを持ち、左端の肉を切ると断面の薄いピンク色が現れる。
「美味しそー。いただきます」
最初はソースは付けずにそのまま味わう。表面はカリっと焼けていて中から肉汁があふれてくる。ペッパーのスパイシーさと、岩塩の塩気が肉汁に混ざるだけで十分に美味しかった。
しかしソースもある。ニンニクの香りが立つソースを肉にかける。
ニンニクのガツンとした味と風味。醤油がベースとなっていて和風の感じも加わった。
次はソースを一匙だけ鉄板に垂らす。醤油とニンニクに火が通り、また違う味が生まれる。
(この少し焦げた醤油が美味しいんだよねぇ)
肉にソースを付け口に放り込む。三百グラムと多いように見えた肉が、見る見る減っていく。
コーンやニンジンにもソースをかけ、箸休めを満喫する。
最後の一口の肉。ソースを付けそれを口に入れた時、勢いよく扉が開き一人の女性プレイヤーが入ってきた。




