夏料理2
そこに、二人の常連客の女性プレイヤーが脚立の上に声をかける。
「マナちゃーん。私たちが流すからマナちゃんも食べなよぉ」
下からかけられた声にマナは少し戸惑った。
「いえ、私は流す係ですから。気にしないで食べてください」
喫茶店やすらぎのメニューとして流しそうめんを出しているので、お客様に代わってもらうということは望ましくないと感じていた。
困ったように微笑むマナを意に返さず、女性プレイヤーの一人が脚立に足をかけた。
「脚立に二人は危険ですから降りてください!」
二人が乗ればバランスが悪くなり倒れる恐れもある。ゲーム内なので怪我はあっても大丈夫だが、しかしお客様に怪我を負わせてはいけない。その思いから反射的に言葉が出た。
「じゃぁ、マナちゃんも降りてくれる?」
彼女は、何としてもマナを脚立から降ろそうと交渉を持ちかけた。そうまで気を使ってもらっては拒否もできない。
「わかりました。少しの間だけ変わってもらえますか?」
マナは脚立から降り、めんつゆの入った器と箸を持ちレーンに並び、代わりに女性プレイヤーが脚立の上に座りそうめんを流す用意を整える。
器と箸を持ちながらマナはワクワクしていた。先ほどは、申し出に対し困惑を見せていたが、実を言えば流す側も楽しみだったが、救う側もやってみたいというのが本音だった。
待ち構えていると、行くよー! という声が掛かり、レーンにそうめんが落とされた。
水に乗り、だんだんと近づいてくる白い麺を、マナは箸でしっかりとキャッチして、つゆに浸ける。
そしてツルツルとそれを啜った。噛むと麺はふつふつと切れ、飲み込むと喉越しが堪らなく涼しかった。
つゆの濃さも、麺に絡むことでちょうどいい塩梅。出汁はカツオだが、臭みも無く美味しい。
何度か麺を啜っていると、突然目の前のレーンを丸く赤い物が高速で転がっていった。
マナや他の人も、その転がる赤い物を目で追っていく。それを誰も救うことなく転がっていき、最後はポチャンとタライに落ちた。
一体何かと思っていると、脚立の上から抗議の声が上がった。
「もーーっ! なんで誰も救わないの? 折角プチトマト流したのにー!!」
脚立の上の彼女は、プンスカと怒りながらもう一度プチトマトを流す。今度は試しに取ってみようと手を出す人が多くいた。マナも試しに一つ取り口に入れる。
皮のパリッとした歯ごたえの後に、さわやかな酸味が口に広がる。それは丁度良い口直しになった。
その後も、そうめん以外にもブドウやイチゴなどのフルーツが流れたことで、先ほどよりも喜んでいる人は多かった。
マナはその様子を見ながら思う。
(そうめんだけを流すのではなく、アレンジを加えることでより良いものになる。ということですね)
自分にはまだまだ勉強が足りない。そう痛感しながら、マナは麺を啜った。




